穏やかな日差しが降り注ぎ、ピッチはより鮮やかな緑色を描き出す。気温は20度近くにまで上昇していただろう。コートを脱…
穏やかな日差しが降り注ぎ、ピッチはより鮮やかな緑色を描き出す。気温は20度近くにまで上昇していただろう。コートを脱ぎ捨ててもなお、うっすらと汗がにじんでくるほどだ。
寒い冬が終わり、サッカーのシーズンが間もなくやってくる。鹿児島の地は、そんな高揚感を感じさせてくれる天候だった。

昨季は10ゴールを記録して注目を集めた23歳の金子翔太
清水エスパルスとジュビロ磐田――。同じ静岡県に本拠を置くチーム同士のトレーニングマッチが、ここ鹿児島では行なわれていた。ともにまだ調整段階とはいえ、両者の間には強いライバル心が横たわる。もちろん、本番さながらの熱い戦いが繰り広げられたわけではなかったが、時折見られる局面のバトルの激しさには、その想いが交錯した。
シーズン開幕をおよそ2週間後に控えた段階での練習試合で、より手ごたえを得られたのは清水のほうだったかもしれない。試合は45分×3本で行なわれたが、主力と見られる選手が出場したのは、最初の2本目まで。その90分の戦いは1−1の引き分けに終わったが、内容的には清水が押し込む時間が多かったように思われる。
清水で2季目を迎えたヤン・ヨンソン監督は、にこやかな表情で試合を振り返った。
「いいゲームができた。相手にはあまりチャンスを与えず、逆に私たちは多くのチャンスを作れていた。失点した時間帯にパスミスが続いていたのは気に入らなかったが、攻撃ではサイドチェンジを狙う意識を表現してくれていた。全体的にはいい内容の試合ができたと思う」
振り返れば、昨季の清水はヤン・ヨンソン新監督のもと、手探り状態のなかでシーズンを迎えていた。そのため序盤戦は出遅れたものの、夏場以降に巻き返し、前年を上回る8位でフィニッシュ。特筆すべきは得点力で、川崎フロンターレに次ぐリーグ2位の56得点を記録した。
もっとも、そこには途中加入のドウグラスの存在が大きかった。このブラジル人ストライカーは出場15試合で11ゴールと荒稼ぎ。2015年にサンフレッチェ広島を優勝に導いた実績十分の助っ人は、得点力だけでなく北川航也の覚醒も導き出し、チームの攻撃力を一気に高めるキーパーソンとなった。
ところが、さらなる活躍が期待された今季、不整脈の症状が見られ、ブラジルに一時帰国。復帰時期は未定で、エース不在のなかで開幕を迎える可能性が高い。
その緊急事態のなかで、今季の清水はポゼッションの向上を目指しているという。
「昨年は得点こそ多かったですけど、カウンターからのゴールがほとんどでした。実は昨季のボール支配率は、リーグワースト2位だったんです」
そう明かしたのは、金子翔太だ。身長163cmの小さなアタッカーは、2017年にJリーグ通算2万ゴールを記録した”持っている”男でもある。在籍6年目の23歳は、昨季自身初のふたケタ得点を記録し、今季のさらなる活躍が期待される選手のひとりである。
「もちろん現代サッカーでは、ポゼッション率の高さがそのまま結果に反映されるわけではありませんが、ボールを握ることをもっとやっていかないと、上位には行けないと思っています」
ドウグラスの個の力が求められない以上、組織としての崩しの形が必要となるのは間違いない。いかに支配率を高め、連動して相手ゴールに近づいていけるか。そこが、今季の清水の最大のテーマとなるはずだ。
この磐田戦でもそうした意識が見られ、チャンスもそれなりに作れていた。決定力の面は課題だろうが、目指すべきスタイルが徐々に表れているのは好材料だろう。
スタイルの変化に加え、清水の今季のストロングポイントになりそうなのが、セットプレーだ。
今オフ、清水には3人の外国籍選手が加わった。高い攻撃性能を備えたエウシーニョが川崎Fから加入したのをはじめ、身長185cmのボランチ、ヘナト・アウグストと、身長186センチのセンターバック、ヴァンデルソンだ。いずれも強靭なフィジカルを備えたブラジリアンである。
なかでも、ヴァンデルソンの高さは特筆すべきで、この磐田戦でもセットプレーから豪快なヘディングを叩きこんでいる。ヤン・ヨンソン監督は「流れのなかからいい形を作っていきたいが、セットプレーの面で、背の高い選手がいることに優位性があると思います」と、新戦力に期待を寄せていた。
そして何より、ドウグラス不在のなかで期待を一身に背負うのは、北川だろう。アジアカップにも出場した日本代表ストライカーが13ゴールを挙げた昨季以上の結果を残すことが、清水の躍進には不可欠となる。UAEから帰国間もないとあって、磐田戦には出場しなかったものの、ピッチの脇には黙々と走りこむ北川の姿があった。
「航也が入るだけで、サッカーの質は変わってくると思います」と、北川のパートナー候補であるチョン・テセが言えば、スウェーデン人指揮官も「攻撃のクオリティ、スピード、パワーを上げてくれると思いますし、得点の嗅覚も示してくれると思います」と、22歳の若きエースに絶大な信頼を寄せている。
プレー面だけでなく、北川の存在はチームメイトにも大きな刺激を与えているようだ。
「僕だけでなく、航也が代表に行ったことは、うちの若い選手たちの刺激になっています」
そう語る金子は、北川よりもひとつ年上。後輩の活躍に、自らも代表への想いを強く持つようになったという。
「航也は、目つきも普段の振る舞いも変わりましたし、要求のレベルも上がりましたね。代表から帰ってきてメチャメチャ悔しがっているし、もっと上に行きたいという野望みたいなものが普段からにじみ出ている。そこは代表に行かなければ感じられない部分。航也の態度を見ていると、自分ももっとやらないといけないと感じる」
金子だけでなく、北川と同い年の松原后、あるいは東京五輪世代の立田悠悟ら、清水には若い世代が着実に台頭し、主軸を担うようになっている。彼らもまた、北川と同じような道を歩みたいと願い、強い向上心を持ってトレーニングに取り組んでいるのだ。
エースの離脱は確かに痛手だが、新たなスタイルに手ごたえを掴み、新加入選手たちも着実にフィットしてきている。そして、責任感を備えた代表選手の存在がチームをいい方向へと進ませる。新たなサイクルへと突入した清水に、名門復活の予感が漂っている。