カタルーニャ生まれ、ラ・マシア(バルセロナの育成組織)育ち。バルセロナのファーストチームでは、短期間ながらジョゼッ…
カタルーニャ生まれ、ラ・マシア(バルセロナの育成組織)育ち。バルセロナのファーストチームでは、短期間ながらジョゼップ・グアルディオラやルイス・フィーゴ、ゲオルゲ・ハジらとともにプレー。サガン鳥栖が新シーズンの指揮を託したルイス・カレーラス監督は、そんな経歴を持っている。つまり生粋の”バルセロニスタ”だ。
さらに鳥栖はこのオフに、こちらもラ・マシア経験者のスペイン人ウイング、イサーク・クエンカを獲得。昨夏にフェルナンド・トーレスを迎えたチームは、スペイン色が一層強まっている。
昨シーズンの途中に鳥栖に加入したトーレス
鳥栖は1月31日、沖縄は読谷村陸上競技場でジェフユナイテッド千葉と練習試合(45分×2本)をした。それまでの強化試合では、沖縄国際大学に5-0で大勝したものの、高原直泰が率いる沖縄SV(地域リーグ所属)には0-3で敗北。Jリーグ勢との初の練習試合で、”新生サガン”がいかなる戦いを見せるのか。リーグ随一のスター選手を擁すチームの一戦には、平日にもかかわらず多くのファンが詰めかけた。
その日の鳥栖のシステムは、バルセロナ的な4-1-2-3。最終ラインからのビルドアップを基調としながらも、時に相手守備陣の裏に抜けるFWを狙ったロングフィードも使う。そして相手ボールの際には、高めからプレスをかけていた。
カレーラス監督は陽よけのあるベンチに座ることはほとんどなく、タッチライン際でスペイン語と少しの英語、大きな身振り手振りを交えてチームに指示を送り続けた。「ボールを早く回そう!」「集中!」「警戒!」「コミュケーション!」「ナイス!」とポジティブな調子で激励。選手たちもそれに応えるように溌溂(はつらつ)と動き、大きな揺さぶりのあと、左サイドからの折り返しを中央のフェルナンド・トーレスが見事にボレーで決めて先制した。
その後、徐々に千葉がポゼッションを高めたものの、たびたびオフサイドにかかり、最終局面の精度を欠くなどして同点ゴールは生まれず。すると鳥栖は再び左ウイングの金崎夢生がクロスを入れ、中盤から駆け上がってきた原川力が仕留めた。
2本目には新加入のクエンカが左ウイングに入り、高いスキルを披露。チームメイトの原川が「切り返しは深いし、(体を)斜に構えたボールの持ち方ができる」と評したように、独特のリズムのドリブルで切れ込み、ゴールには至らなかったものの何本かシュートを放った。難しいボールも簡単にトラップし、次のプレーにスムーズに入っていく。これからコンディションを高めていけば、もっと面白い存在になるだろう。
試合後、カレーラス監督は「プレシーズンを通して負荷をかけているので、疲れは出ている。いいところもあったが、もちろん修正すべき点もあった」と話し、得点シーンについては、「あのようにボールをしっかり動かして、崩してシュートまでつなげ、さらにゴールまで奪うのはとても難しい。しかし、あの形ができれば高い確率で得点になる」と振り返った。
また、指揮官が試合中に何度も要求していたパス回しのスピードに関しては、「まだまだ満足していない。もっとよくなるはずだし、そう信じなければならない。ボールを早く動かすことができれば、相手に脅威を与えられるから、そこを突き詰めていきたい」と続けた。
ゲームキャプテンを務めたトーレスにも話を聞くと、「今日は結果もよかったし、ポジティブなことが多かったと思う。もちろん、まだまだやることはたくさんあるけど、新しいスタイルへ意欲的に取り組んでいるところさ」と前向きに答えた。アトレティコ・マドリード時代に一緒にプレーしたことがある新指揮官とは”旧知の仲”だ。選手と監督の間柄となった今、どんなケミストリーが生まれるだろうか。
新たな試みを楽しみにしているのは、ほかの選手も同じ。セントラルMFの一角を任された原川も、「去年とやることが変わりましたけど、意欲的に取り組めています」と言う。
「個人的にスペインのリーグをけっこう見るので、カレーラス監督の采配にはすごく興味があります。まだスムーズではないところもありますけど、今はプレシーズンなので、試合を重ねていけばもっとよくなると思う。やるべきことを頭と体に叩き込んで、何も考えずに自然にできるようになればいいですね」
2000年代後半から2010年代前半にかけて、W杯南アフリカ大会(2010年)とEURO(2008年、2012年)を制したスペイン。そこから学ぼうとするクラブは日本にも増えている。バルサ化を推し進めるヴィッセル神戸に続いて、鳥栖も大きく舵を切った。楽しみな新シーズン開幕まであと少しだ。