「GK大国ドイツから見えた日本人GK育成の可能性」【前編】 マヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)、マルク=ア…

「GK大国ドイツから見えた日本人GK育成の可能性」【前編】

 マヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)、ベルント・レノ(アーセナル)、ケヴィン・トラップ(フランクフルト)らを擁するドイツは押しも押されもせぬ世界屈指のGK大国。そのドイツに昨年7月末から単身で渡り、指導メソッドやGK育成の仕組みを学んでいるのが柏レイソルアカデミーGKコーチの松本拓也氏だ。

 2015年から始まった日本サッカー協会とJリーグによる育成年代の強化を目的としたJFA/Jリーグ協働プログラム「JJP」によって1年の予定でカイザースラウテルンに派遣されている松本氏に研修期間の半分が過ぎた1月中旬、一時帰国中の日本で話を聞くことができた。

 前編の今回は、まずドイツにおけるGKの育成システムについて、カイザースラウテルンを例に説明してもらった。その前に松本氏のGKコーチとしてのキャリアを簡単に紹介しておこう。柏ではアカデミーで8年、昨季5月まで3年半に渡りトップチームのGKコーチを務めた松本氏は、ロシアW杯のメンバーにも入った中村航輔を筆頭に桐畑和繁、滝本晴彦、猿田遥己といったアカデミー育ちのトップ所属GK全員を指導した実績を持つ。

 その松本氏が派遣されているカイザースラウテルンは今、トップが3部リーグの所属。しかし、近年同クラブからはローマン・ヴァイデンフェラー(元ドルトムント)、トラップ、ユリアン・ポラースベック(ハンブルガーSV)など名だたるGKが育っている。なかでもアカデミーでGK部門を統括するスヴェン氏は30代前半の若さながらも今ドイツ国内で高く評価されるGKコーチだという。



カイザースラウテルンのスヴェンコーチと同クラブで研修中の松本コーチ(写真提供/松本拓也コーチ)

「スヴェンは新設されたUEFA公認のGK指導Aライセンスを現在取得中で、ドイツ国内でそのライセンスを受講しているのは16名です。彼がいるからこそ、カイザースラウテルンのアカデミーで学びたいと思いました」(松本氏)

 ドイツ国内で今注目されているスヴェン氏を頂点に同クラブのアカデミーGK部門にはしっかりとした指導メソッドとスカウティングの基準が設けられている。ドイツのブンデスリーガでは、Jリーグにも導入されたダブルパス社の『フットパス』を2007-08シーズンから取り入れているが、松本氏によるとフットパスのGK版もドイツでは導入されており、各クラブのGKの指導育成についての格付け評価がなされ、それに応じてクラブへの分配金が変動するという。

 カイザースラウテルンはフットパスGK版において満点の査定を受けるGK育成のお手本クラブであり、なかでもスカウティングについては松本氏も驚くほどのリソースを割いているクラブだという。

「地域にいるGKを隈なくチェックしています。そのため、週末になると5人程の人間がスカウティングに出て行きます。アカデミーのGKコーチも自チームのアウェーの試合日にはスカウティングに行きます。その情報を毎週アップデートしてシーズンを通してGKをチェックしていますので、下のカテゴリーに行けば行くほど獲得候補選手のリストがたくさん出てきます」

 なかでもGKコーチが週末のアウェーの試合に帯同することなく、新たなタレント(GK)のスカウティングに出ていくシステムは、松本氏がもっとも驚かされた育成システムだ。これを可能にしているのがGK練習において「GKコーチはボールを蹴らない」というルール。松本氏も含めて、多くの日本人のGKコーチは「コーチになってからキックが上達した」という実感を持っているが、今ドイツではスヴェン氏のような優秀なGKコーチほど練習でキックを蹴らなくなっている。

 なぜなら、GKコーチは良いキックを蹴ることよりも、選手のパフォーマンスチェック、改善点を指摘することが仕事だからだ。また、選手に蹴らせることで選手の足元の技術を引き上げる効果もある。ドイツ式のGK練習を経験した松本氏も、「GKコーチが一生懸命蹴ってしまうと、練習できちんと選手を見ることができません。また、選手のキックの質の向上のみならず、まだキックがうまくない選手が想定外のボールを蹴ることで、逆にプレーするGKの集中力を高めることもできますから、一石三鳥の効果を感じています」と話す。

 また、週末のスカウティングを効率的にするためのシステムもドイツでは整備されている。ドイツサッカー協会(DFB)のHP、公式アプリでは育成年代も含めてすべてのカテゴリーの全試合が一元管理されており、試合結果、スケジュール、会場といったスカウティングに必要不可欠な要素がシェアされている。松本氏自身、こうしたドイツのタレント発掘システムを目の当たりにして「練習、指導も大事ですが、スカウティング、発掘はそれと同じくらい、もしかするとそれ以上に大事かもしれません」と語る。

 サッカーの社会的地位が高く、GKが人気ポジションである文化面からドイツを追いかける、真似ることは難しい。日本でアカデミーからトップチームまで長く、幅広くGK指導に携わる松本氏だからこそ、GKの育成システムにおいても大国ドイツから学べる要素、日本でも即導入できるシステムにフォーカスして活動している。

 早速、柏では19年シーズンのアカデミーGK部門でGKコーチが蹴らない指導とスカウティングも重点的にして行く方向で進めている。GK育成システムが確立されたなかでもさらに良く、日本全体のGKのレベルを上げるべく新たな取り組みにトライする柏レイソルのGK部門には今後も要注目だ。

(後編につづく)