フェルナンド・イエロ インタビュー後編(前編はこちら) 1月上旬、レジェンドクリニック(※)の一員として来日し、日本…

フェルナンド・イエロ インタビュー後編

(前編はこちら)

 1月上旬、レジェンドクリニック(※)の一員として来日し、日本の子どもたちの指導を行なったフェルナンド・イエロ。レアル・マドリードやスペイン代表などで、選手、監督として培ってきた経験を伝えてくれたスペインの”レジェンド”は、日本サッカーの指導の課題、Jリーグの未来をどう見ているのか。

(※)レアル・マドリードで活躍したミチェル・サルガドをはじめ、世界中のレジェンドを日本に招き、世界を舞台に活躍した彼らの経験を日本の子どもたちに伝えるサッカークリニック



サッカークリニックで子どもたちを指導するイエロ

――あなたは現役時代、CBやボランチとしてプレーしていたにもかかわらず、ラ・リーガで通算105得点、スペイン代表でも29得点を挙げました。攻撃への貢献度も含め、現代のDFに求められる要素は何だと考えていますか?

「私の現役時代と比べ、よりポリバレント(複数のポジションをこなすことができる)な要素が求められている。もちろん、DFの選手は守備が最優先であることを決して忘れてはいけないが、ゲームの組み立てやセットプレーでの得点、攻撃参加など、仕事量が増えている」

――その他の点で、CBに必要な能力は?

「それは今も昔も変わらず、チーム全体を見るバランス感覚だね。私がレアルでプレーしていた時は、左SBがロベルト・カルロス、右SBがミチェル・サルガドという攻撃参加を好む選手だったから、とくにそう思うのかもしれない。試合中にDFがいなくなってしまうから、ふたりには『早く戻ってこい!』と何度も怒鳴ったよ(笑)」

――そんなイエロさんが考える、現役選手でもっとも優れたCBは誰ですか?

「ひとりを挙げるのは難しいけれど、私はレアルのセルヒオ・ラモスのプレーが気に入っている。とくに目を引くのはアグレッシブなプレースタイルだ。守備では難しいボールもチャレンジして奪いにいき、攻撃でもチャンスを嗅ぎ分けて得点する能力を備えている。加えて、彼のように闘志を全面に出し、チームを鼓舞する選手は監督にとってもありがたい存在だ。彼のようなメンタルとキャプテンシーを持つDFは少なくなったね」

――日本サッカー界に目を向けると、『世界基準のCBがなかなか出てこない』と指摘されることも多いですが、その点についてはいかがですか?

「前提として、世界的にもCBは人材の確保が難しいポジションだ。日本にとっては、体格を含めたフィジカルの問題も無視できない。また、優れた指導者の数という点で、日本は発展途上にあるように思える。

 私個人としては、オフェンスの選手は身体能力を生かして自ずと台頭してくるケースが多いのに対して、CBを育てるためには指導者の力が必要だと考えている。先ほども述べたように、CBには後方からのゲームメイク力、DFの統率を含めたバランス感覚が不可欠で、それは指導者のアドバイスによって補完される部分が大きい。日本はスペインに比べてサッカー文化の歴史も浅いこともあって、そんな指導ができる人材が不足しているのかもしれない。

 スペインを例に挙げると、プロとして生活できる選手は『10万人にひとり』と言われていて、その数字を少しでも高めようと苦心してきたすばらしい指導者が、地方の小さなクラブチームにまで存在する。そんな指導者がいるグループは選手たちのレベルが高く、CBの選手も常に緊張感がある環境で能力を伸ばすことができるんだ」

――具体的に、日本の指導法で改善すべきだと思うところは?

「これは日本サッカー界全体に言えることで、競技の本質についての理解が足りないと感じることがある。日本のサッカーを見ても、選手たちの足元の技術が高いのに対し、体や腕の使い方、へディングの技術が乏しい。

 また、勤勉でルールを守り、組織力が非常に高いのはすばらしいが、試合が予想外の展開になった途端に何をしていいのかわからなくなる場面も目にする。状況の変化に対応する判断力と決断力が足りないんだ。そういったフットボールに必要な根本的な部分をどう伸ばしていくのかを、日本の指導者たちは考えなければいけない」

――今回、サッカークリニックで日本の子どもたちを指導してみて思ったことは?

「ミスを恐れている子どもが多い印象があるね。選手は『ミスして、それを直す』という作業を繰り返すことで成長できる。大切なのは、積極的なミスを褒める指導者がどれだけいるかということ。また、日本でよく行なわれているというドリブルやリフティングの練習については、極端なことを言えばチームでやる必要はないと思っている。単純な1対1の練習もスペインではほとんどやらないよ。なぜなら、試合中に1対1になる局面は少ないからだ。

 1対1を練習でやるなら、守備や攻撃での具体的なシーンを想定して『どのエリアで1対1を行なうべきか』を教えないといけない。そして、試合で直面することが多い3対3や3対4の練習量を増やすべきだ。あとは文化的な側面も影響していると思うが、パッションを試合でいかに表現するか、という点も欠けている部分だと思うよ」

――日本の指導者が参考にするべき指導法などはありますか?

「練習メニューについてインターネットで検索すれば、無数にヒットする時代。多くの選択肢があるなかで、たとえば『(ジョゼップ・)グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)のような有名監督がこういった練習をしているから、自分のチームにも取り入れよう』という発想を持つ指導者がいたとしたら、それは”エゴ”でしかない。”名将”と称される監督たちは、なぜその練習が必要で、それをどう選手に伝えるかということに秀でているからこそ、チームを成長させることができるんだ。

 どんな指導が正しいのかは誰にもわらかない。ただ、選手やチームの現状を理解し、どんな練習が有効なのかを、指導者は常に考えなければいけないんだ。それにはデータの活用も重要だが、その点もヨーロッパのトップリーグのほうが進んでいるね」

――具体的に、データの有効な活用法とは?

「現代サッカーは、ほぼすべてのクラブ、ナショナルチームが選手を数値化している。試合でのタッチ数、プレーエリア、左右のキックの精度、身体能力、走行距離といったところまで、完全にデータベース化している。世界のトップレベルでは、13歳くらいの年齢からデータを取り続け、選手がどのくらい成長しているかも見ているよ。それを指導者が理解し選手たちに伝えることで、短所を改善し長所を伸ばすことにつなげている。

 そういったデータは、選手のスカウティングにも生かされているね。わかりやすい例として、バルセロナはあらゆる数値からチームが求める選手をはじき出し、もっとも必要だと判断されたアルトゥールを昨年獲得した。バルセロナのようにスタイルを確立したクラブは少し特殊なケースだが、トップリーグのスカウティングは、ほとんどがこのような形で行なわれている。

 それは対戦相手の分析にしてもしかり。指導者は自分が志向するスタイルや選手の特徴に合わせてチーム作りを行なうが、緻密なデータ分析と数値化された膨大な選手たちのデータから戦術を練っているんだ」

――より高いレベルでの成長を求め、バルセロナの下部組織でスキルを磨いた久保建英(FC東京)や、現在もレアルの下部組織でプレーする中井卓大など、日本の若年層の選手たちがスペインのクラブに所属することも増えてきています。

「久保やピピ(中井の愛称)のような才能溢れる選手がスペインに来ることは大歓迎だ。将来、ふたりとも優れた選手になる可能性を秘めている。私はレアルの下部組織でプレーするピピを見る機会があったけど、彼はプレーだけでなく人間性もすばらしい。人間性もヨーロッパでプレーする上で重要な指標となるからね。

 どんなに才能がある選手でも、本人の努力とそれを伸ばす環境がなければ花開かず、ただの『うまい選手』で終わってしまう。そういった意味で、異国の地でレベルの高い競争の場に身を置き、それに適応することは必ずプラスになるはず。ただ、今の日本は、スペインから優れた監督や選手が入ってくる流れができ始めているね」

――昨年はアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸に、フェルナンド・トーレスがサガン鳥栖に移籍し、ダビド・ビジャも神戸で戦うことが決まりました。

「それは日本サッカーにとってすばらしいことだね。アンドレスやトーレスのような選手とプレーすることは、リーグのレベルアップにつながる。それを見る人たちも学ぶことが多いはずだ」

――また、ファン・マヌエル・リージョ監督(神戸)、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(セレッソ大坂)やルイス・カレーラス・フェレール監督(鳥栖)といった実績ある指導者も、Jリーグで指揮を執ります。

「個人的には、私の友人でもあるロティーナ監督のような傑出した指導者がJリーグで指揮を執るのは興味深い。(1992年から)20年近くリーガの最前線で監督を続けることが、どれほど大変かは説明不要だろう。彼を含め、スペイン人の特長は”フットボールへの理解度の高さ”だと考えている。身体能力で勝る強豪国と戦ってきたなかで蓄積された智恵があるからね。そんな土台の上で優れた能力を発揮してきた指導者、世界の頂点を知る選手たちが、日本サッカーを成長させてくれると思っているよ」