先日、「スーペル・デポル」(90年代、無名だったデポルティーボ・ラ・コルーニャがリーグ優勝を争い、敬意を込めてそう…

 先日、「スーペル・デポル」(90年代、無名だったデポルティーボ・ラ・コルーニャがリーグ優勝を争い、敬意を込めてそう呼ばれた)の当時の主力選手のひとりで、引退後は指導者に転身した人物から、SNS通信アプリで連絡が入った。

「指導者は今、休業中なんだ。でも、他の監督と組んで、エージェント業を始めている。そこでJリーグでの働き口を広げたいのだが……」

 Jリーグに多くのスペイン人指導者がいることは、今やスペイン国内でも知れ渡っている。J1ではミゲル・アンヘル・ロティーナ(セレッソ大阪)、フアン・マヌエル(ファンマ)・リージョ(ヴィッセル神戸)、ルイス・カレーラス(サガン鳥栖)。そしてJ2にはリカルド・ロドリゲス(徳島ヴォルティス)がいる。



昨シーズンからヴィッセル神戸の指揮を執るフアン・マヌエル・リージョ監督

 わずか4名と括るのは正しくない。4人の監督は、それぞれスペイン人スタッフを複数引き連れ、チームを組んで仕事をしている。つまり、すでに十数名のスペイン人指導者が来日しているのだ。

 言うまでもないが、アンドレス・イニエスタを始め、多くのスペイン人選手も日本の地を踏んでいる。

「日本はマーケットとして魅力的。ぜひ仕事をしたい、と思っている監督や選手は多いんだよ」

 かつてスーペル・デポルで伝説を打ち立てた男は、新米エージェントとしてかなり本気だった。

 では、なぜスペイン人指導者たちは極東の島国に針路を向けつつあるのか?

 スペイン国内に、指導者の働き場所は少なくはない。なぜなら、2部Bといわれる実質3部リーグは4つあって、4部リーグは18ある。3部は80チーム、4部は約360チームも存在しているのだ。

 日本のJ3、JFLとはわけが違う。スペインの新米監督は、こうした下部リーグで経験を積み、競争するなかで頭角を現し、監督として台頭する。これが、スペインに名将が多く出るメカニズムだ。

 神戸のリージョ監督も、4部や3部で実績を積んでいる。そしてサラマンカを2部、1部と昇格させ、当時史上最年少の29歳で1部チームの監督になった。下部カテゴリーで培った監督力は本物だ。

 もっとも、下部リーグのサラリーは限られる。にもかかわらず、成績不振だと真っ先に責任を取らされる。厳しい労働環境と言えるだろう。若手監督にとっては場数を踏めるだけに悪くはないが、キャリアを積んだ監督が再起を図るには覚悟がいる。

 そこで近年は、スペイン人指導者が外貨を求めて海外に進出するようになった。中国、カタール、インド、インドネシアなどアジア各国のクラブだけでなく、代表監督も増えつつある。ユース年代の指導者も含めると、その数を正確に把握することはできない。

「スペイン人監督というだけで保証書付き」

 そういう時代だ。

 スペイン人指導者の名声は、今や世界を席巻している。マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラは最高の名将だし、ロシアW杯で日本を撃破したベルギー代表を率いているのも、スペイン人監督ロベルト・マルティネスだった。他にも、プレミアリーグではラファ・ベニテス(ニューカッスル)、ウナイ・エメリ(アーセナル)などが采配を振るう。

 事実、スペイン人指導者は質の高い仕事をしている。

 たとえば、ロティーナ監督は、J2で残留争いをしていた東京ヴェルディを率いるようになり、2シーズン連続で昇格プレーオフに進出。その指導によって、ブラジル人FWたちはいちじるしく得点を増やすようになった。日本人選手も成長を示し、多くがJ1のクラブへ移籍していった。

 リージョ監督も、昨シーズン途中で神戸を率いた途端、「グアルディオラの師匠」の面目躍如だった。すぐさま選手の心をつかみ、目に余るほど士気が低下していたルーカス・ポドルスキを蘇生させた。そして控え選手までもが、「リージョのもとで練習することで確実にサッカーがうまくなっている」と、高いモチベーションを見せているのだ。

 一方、スペイン人指導者たちも日本での生活に満足している。
 
 中国のクラブでは、法外なサラリーを約束したにもかかわらず、不払いの騒動になっているケースが少なくない。練習設備が整っていなかったり、運営面の拙さも見られる。実際、イニエスタも中国のクラブとの話を打ち切って、日本を選んだ。

「日本人は礼儀正しく、教養がある。生活は便利だし、食べ物もおいしい。さまざまないいところを受け入れて進化してきた国なのだろう」

 神戸のリージョ監督は、日本へのリスペクトを込めて語っていた。こうした話はスペイン国内に広がる。こうして今や、両者は相思相愛の関係になりつつある。

 フリーの実力派スペイン人監督はまだまだいる。

 たとえば、1部レアル・ソシエダの監督を解任されたばかりのアシエル・ガリターノなども”悪い物件”ではない。3部にいたレガネスを率いて2部に昇格させたあと、クラブ史上初の1部にも導いた。昨シーズンはスペイン国王杯でレアル・マドリードを撃破し、準決勝進出。2部のミゲル・ムニョス賞(最優秀監督賞)、1部のミゲル・ムニョス賞を、2016、17年と、たて続けに受賞している。

 今後もJリーグのスペイン人指導者は増える可能性が高い。