フェルナンド・イエロ インタビュー前編 優勝候補の一角と見られながら、ベスト16で敗退――。昨年のロシアW杯は、スペ…

フェルナンド・イエロ インタビュー前編

 優勝候補の一角と見られながら、ベスト16で敗退――。昨年のロシアW杯は、スペイン代表にとって不本意な結果に終わった。

 スペイン代表は、W杯開幕直前にレアル・マドリードの監督就任を決めていた指揮官のフレン・ロペテギが急遽解任された。後任に指名されたのは、スポーツディレクター(SD)としてチームに帯同していたフェルナンド・イエロ。レアル・マドリードだけでなく、スペイン代表でも長らくキャプテンとして活躍した”レジェンド”は短期間でチームをまとめ、苦戦しながらもグループリーグ突破に導いた。だが、決勝トーナメント1回戦で開催国のロシア代表にPK戦の末に敗れた。

 今回、日本の子どもたちの指導のため、レジェンドクリニック(※)の一員として1月上旬に来日したイエロの独占取材に成功。スペインのベスト16敗退の舞台裏や、”ティキ・タカ(正確でエレガントなパスを回すスタイル)”から脱却しつつあるスペインサッカーの現状、不調にあえぐ古巣レアル・マドリードの問題点などを語ってもらった。

(※)レアル・マドリードで活躍したミチェル・サルガドをはじめ、世界中のレジェンドを日本に招き、世界を舞台に活躍した彼らの経験を日本の子どもたちに伝えるサッカークリニック




サッカークリニックで来日したイエロ

――まず、昨年のロシアW杯を振り返っていかがですか?

「全体的には、アジアのレベルが急激に上がったということが強く印象に残っている。それはアフリカも同様だね。昔のW杯であれば、ある程度勝ち点が計算できる相手が存在したが、昨年の大会はこれまでになく各国の力が拮抗していたと言えるだろう。

 私たちがグループリーグで対戦したイランも、1-0で勝ちはしたが非常に難しい相手だった。フィジカル面でも戦術面でも、高いレベルだったよ。モロッコにしてもしかりだ。大会を通して難しい試合の連続で、私の予想を超えていた部分があった」

――グループリーグ第3戦のモロッコ戦(2-2)では先制点を許し、アディショナルタイムに追いつくという展開でしたね。

「ゲームプランでいえば『リスクを避ける』『デイフェンシブな戦い』という意識が少し強く働いたのかもしれない。だが、先制点を与えたことで変更を余儀なくされた。結果論だが、モロッコとの激戦での消耗が、少なからず決勝トーナメントにも影響したかもしれない」

――決勝トーナメント1回戦のロシア戦では、ボール支配率74%、シュート数25と圧倒しながらPK戦で敗退となりました。

「ロシアはよく組織されたチームで、圧倒的な運動量があった。どんなに特別な選手を揃えていても、11人が自陣に引いて守る相手を崩すのは簡単ではない。チャンスの数で勝敗が決まるわけではないし、実際に私たちは多くの決定機を決めきれなかった。フィニッシュの質が最後まで上がってこなかったのが悔やまれるよ」

――あらためて、W杯敗退の理由はどこにあると考えていますか?

「現代サッカーはチャンスで決めきれないと勝てない。さっきも言ったように、フィニッシュを決めきれなかったことがすべてだろうね。選手のコンデイションはよかったし、ロッカールームの雰囲気も情熱に満ちていた。メンバー的にも頂点を狙えるチームだったが、結果を見ると足りなかった部分があったのも事実だ」

――ロシアW杯で”サプライズ”だった国は?

「繰り返しになるけど、アジアのチームの躍進が印象に残っている。とくに日本と韓国は世界に大きなインパクトを与えた。ドイツ戦での韓国は試合終了までよく走り、よく守っていた。あれだけの闘志を持ったチームは観客の心を打つ。トットナムで活躍するソン・フンミンも常に脅威となっていた。世界中を見渡しても、W杯でドイツに2-0で勝てるクオリティを持つチームはあまりないだろうね。

 日本も組織化され、よく走るチームだった。ベルギー戦は残念だったね。オープンな展開で、ベルギーをギリギリまで追い詰めた戦いぶりはすばらしかった。ただ、厳しい言い方をすれば、(2点を先制した)あの試合展開であれば勝たないといけない。強豪国との差は、そういった試合運びやサッカーの理解力にあるということを再認識する結果だったんじゃないかな」

――話をスペインに戻します。現在のスペインサッカーは”ティキ・タカ”と呼ばれ、世界を席巻したスタイルからの脱却を図っているように映ります。

「サッカーのトレンドは短いスパンで変化していくもの。それに、もっとも大切なことは、チームが選手の特徴をどう生かすかだ。だから、このスタイルがいい、悪いといったような正解はない。ただ私に言えることは、ティキ・タカで圧倒的な強さを誇った時のスペイン代表にはシャビがいて、全盛期のアンドレス(・イニエスタ)がいた。特別なふたりの選手に加え、ダビド・ビジャというどこからでもゴールを狙えるフィニッシャーがいたからこそ成立した。

 ポゼッションを重視するべきか、堅守からのカウンターが正しいのかといった見方は、チームにいるメンバーによって異なる。当時のチームは特別な存在で、そのスタイルをそのまま今の代表に取り入れることは不可能ということだ」

――ひとつのサイクルがロシアW杯で終わり、4年後に向けて新たな才能達の台頭も待たれます。

「イスコ、マルコ・アセンシオ、アルバロ・オドリオソラといったロシアW杯メンバーは、4年後も主力としてチームを牽引するように育ってほしい。スペインには優れた育成環境があり、常に競争がある。私が見ている限りでも、才能溢れる選手たちが揃っている。彼らに必要なのは経験で、経験によって自信がつけば”化ける”選手が出てくるはずさ」

――あなたの古巣であるレアル・マドリードは、ラ・リーガで首位のバルセロナから勝ち点8差の3位(2月4日時点)と苦しんでいますが、どこに問題点があるのでしょうか。

「今のレアルはDF面に明らかな問題を抱えている。昨季まで見られなかったゴール前での甘さや、中盤でのプレスがハマっていないことが戦術的にチームの穴になっている。

 去年までは、そういった問題点を得点力でカバーできたためDF陣の問題が顕在化しなかったが、今年は思うように得点できないことがチームの機能を低下させている。ただ、レアルのようなビッククラブでは、必ずこういった周期が訪れるものだ。私が現役の時も、そういった時期は何度もあったよ。勝利を義務づけられ、フットボールの外でも大きな影響力を持つクラブだけに、世間からの批判は受けとめなければならない。

 ただ、この不調は長くは続かないと見ている。監督の(サンティアゴ・)ソラーリとはよく連絡をとる間柄だが、彼は人格者でチームからの信頼も厚い。いろいろと試行錯誤しているようだから、状態は必ず上向くだろう」

――得点力不足との指摘がありましたが、やはりクリスティアーノ・ロナウド移籍の影響は大きかったのでしょうか。

「誰の目から見ても明らかなように、ロナウドのような傑出した選手がチームを去るとチームづくりを根本から見直さなければならない。10年間もチームのエースを務め、彼のゴールでレアルは多くのタイトルを獲得してきた。クラブの長い歴史のなかでも、間違いなく最重要人物のひとりだ。

 彼のように稀有な得点能力を持つ選手が移籍したことで、チームの得点力が落ちることはある意味必然だ。それだけスペシャルな存在であることに疑いの余地はない。ただ、クラブは新しいサイクルを迎えたということだ。ロナウドの代わりに、新たなチームの顔となる選手は自ずと出てくるよ。それがレアル・マドリードの哲学でもあり、積み重ねてきた歴史の重みでもあるのだから」

(後編につづく)