今年の大阪国際女子マラソンで大会前に注目されたのは、ネクストヒロイン枠で出場した大森菜月(ダイハツ)、リオデジャネイロ五輪出場から2年半ぶりのマラソン出場となる福士加代子(ワコール)と田中智美(第一生命グループ)の3人。このうち、誰がMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権を獲得するのかが焦点だった。



今大会唯一となるMGC出場権を獲得した中野円花

 だが、その注目選手のひとりはスタート直後に消えた。田中が先頭集団にはつかず、第2集団についたうえ、最初の5kmで超スロースタートになってしまったのだ。

 一方、先頭集団についた日本勢は3km過ぎで4人に絞られ、10km過ぎでは小原怜(天満屋)、福士、大森の3人になる寂しい状況。ペースメーカーが25kmまで1時間25分04秒と設定どおりに引っ張るなか、大森が20km手前の給水から遅れ始め、福士は13km手前で大森と足を絡めて転倒した影響が出てしまい25km過ぎから離されてしまった。結局、福士は、30km以降に何度も立ち止まり、35km過ぎで棄権した。

 残された期待は「殻を破るレースをしたい」と臨んだ小原の走りだった。小原はペースメーカーが外れた30km過ぎからその意欲を見せたが、ついてきたファツマ・サド(エチオピア)とボルネス・ジェプキルイ(ケニア)を離せないままペースダウン。

 30~35km区間は上位8名に限って最速のラップタイムを出した選手に「ラップチャレンジ賞」として50万円の賞金がかけられていたが、16分台にチャレンジする姿勢も見えないまま3人は並走。結局、ジェプキルイがサドを制して賞金を獲得したが、ラップタイムは17分32秒で、小原も17分33秒という凡レースになった。

 35km過ぎには、給水後に小原が前に出てジェプキルイを引き離す展開に持ち込んだが、そのままペースを上げることができず、38km手前でサドに追い抜かれてジワジワ離される展開に。

 この5km区間のラップもサドが速かったわけではなく、仕掛け合戦とは言えなかった。ゴールタイムは1位のサドが2時間25分39秒で、2位の小原は2時間25分46秒と、見どころのまったくないレースだった。

 天満屋の武富豊監督は試合を振り返り、苦言を呈した。

「12月に入ってからやっと練習ができ始め、1月5日に走った30kmがよかったので『これだったらいけるんじゃないかな』と思えるくらいでしたが、その後は腰痛が出て2週間走れず、本人も出られるかどうか不安になっていました。30kmと35kmからのスパートはタイミング的にはベストでしたが、行き切れなかったのは彼女の大きな課題である気持ちの問題。彼女の能力ならいけるはずだが、ここで決めてやるという覚悟のなさが出てしまったと思います」

 今回のレースで新たにMGC出場権を獲得したのは、2時間27分39秒で4位になった中野円花(まどか/ノーリツ)のみ。日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「ここでMGC獲得者が4、5人出ると思っていたので、2時間28分切りがひとりというのは……。女子の強化が遅れていると思う」とショックを隠せなかった。また、この大会で期待されたのは、福士と田中というベテランで、女子マラソンの層の薄さがあらためて露呈した格好だ。

 3月の名古屋ウィメンズマラソンを見ても、期待できるのはマラソン初挑戦の昨年9月のベルリンで9位(2時間25分46秒)の上原美幸(第一生命グループ)くらい。

 今年9月に行なわれるMGCレースを睨めば、現在9人の出場が決まっているなかで、本番の東京五輪で期待できそうな存在は、自己ベストを2時間22分23秒まで伸ばしている松田瑞生(ダイハツ)が筆頭となる。

 その松田に、初マラソンだった昨年の名古屋で2時間23分07秒の日本人1位になった関根花観(はなみ/日本郵政グループ)と、昨年8月の北海道マラソンを2時間28分32秒で制した鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、どこまで対抗できるか。

 そのほか、ダークホースとしては、前田穂南(天満屋)がいる。前田は、昨年の大阪で松田に負けたものの、25kmからスパートして30km過ぎまでトップを走って2時間23分48秒の自己ベストを記録した。次の出場予定は東京マラソンだが、2時間18分34秒を持つルティ・アガ(エチオピア)らが出場するスピードレースで得るものがあれば、一皮むける可能性もある。

 男子は昨年、設楽悠太(ホンダ)が日本記録樹立すると、大迫傑(ナイキ)が8カ月後に塗り替えるなど、一気に競争が激化し、MGCレースに21人が名乗りを上げている。それに比べると、女子の層の薄さは際立っている。そうした苦境が露呈してしまったのが、今回の大阪国際女子マラソンだったと言える。

 かつての強さを取り戻すために、甘さも見える選手の意識改革が第一に挙げられるが、選手を取り巻く周囲の環境も含め、日本女子マラソン界は変革が必要な時期なのかもしれない。