「横一線」――ロッテ・井口資仁監督は2019年のキャンプスタート前に、これから始まる各ポジション争いについて、そう明…
「横一線」――ロッテ・井口資仁監督は2019年のキャンプスタート前に、これから始まる各ポジション争いについて、そう明言した。
昨年フル出場を果たした鈴木大地、田村龍弘、中村奨吾、藤岡裕大の4人についても、一旦リセットして、キャンプ初日から行なわれる紅白戦で純粋に全選手を競わせる。チーム内に活気と緊張感を持たせ、よりハイレベルなポジション争いをさせるのが、一番の狙いだ。
キャンプ初日からサバイバルが予想されるなか、虎視眈々と”下剋上”を狙う選手がいる。今年で28歳を迎えるプロ6年目の三木亮だ。

ムードメーカーとして首脳陣からの信頼も厚いロッテ・三木亮
「まだ30歳にもなっていないですし、そういう気持ちを常に持っていないとダメだと思うんですよね。やっぱりスタメンで出ることが一番だと思うので……」
昨年は1年を通して一軍でプレーした三木だったが、スタメンでの起用は全143試合中わずか6試合。そのうち3試合は本職ではない外野での出場だった。また、代走からの途中出場は31試合、守備固めからは21試合、代打からは8試合。つまり、77試合は出番がなかったことになる。それでも三木は、試合開始からゲームセットまでベンチで声出しをするなど、チームの雰囲気づくりに徹した。
一度、定着した序列を変えるのは並大抵のことではない。それでも三木は抗(あらが)う。日々の鍛錬を積み重ねながら、「今季こそは」とレギュラー獲りを誓う。
三木の1年の始まりは決まってロッテ浦和球場だ。新人たちが合同自主トレで汗を流しているのを傍目に、自身のやるべきことに没頭。そのタイムスケジュールは1ミリの無駄もない。
「基本的にほかの人に合わせるのが得意じゃないんです。やっぱり自分がやりたいことと、ほかの人がやりたいことって違うじゃないですか。そこで『違うのにな……』と思いながら練習するよりも、自分がやりたいことをやる感じの方が効率もいいですし。入団の時からそのようにしていますが、キャンプに入った際『あれっ、体が動かない』というのもなかったので、今でもそうしています。ひとりで練習していても、ある程度はこなせていると思うので……」
他球団の選手や実績のある先輩たちと練習することで、新しい発見があったり、引き出しを見つけたりすることもあるだろう。三木はそういった自主トレのやり方を否定しているのではない。
「もちろんいろんな人の話を聞いたりして収穫はあるでしょうし、それでよくなることもあると思います。ただ、悪くなる可能性もゼロではないと思うんです。そうなった時に、結局責任を取るのは自分なわけじゃないですか。だったらひとりでやって『アカンかったらしょうがない』と思えた方が、まだあきらめがつくと思うんですよね」
一昨年のシーズン、三木はショートのレギュラーポジションをつかみかけた。開幕スタメンは中村だったが、それでも少ないチャンスを確実にものにしてきた三木は、5月18日の西武戦以降、ショートのレギュラーに定着した。しかし、8月24日の楽天戦で右手に死球を受け右手の指を骨折。全治3~4週間の診断を受け、戦線離脱を余儀なくされた。
再起をかけた2018年シーズンも、ルーキー藤岡のインパクトに押され、再びバックアップ要員となった。代走や守備固めなど試合途中での起用が多くなり、ポジションもかつてレギュラーを任されたショートではなく、ファーストや外野での起用がほとんどで、ライバルと競い合うまでには至らず、歯がゆい日々を過ごすことになった。
そんな現状について、三木は次のように語る。
「(藤岡と)打つ方もそこまで負けているとは思えないし、守備だって劣っている感じはしない。さすがに肩は藤岡の方がすごいですけど。でも、使うのは監督なので結果で示すしかないです」
その藤岡の強肩に対抗するため、三木は捕球から送球までの早さ、打球への入り方にも工夫を加える。
「地肩の強さは持って生まれたものだと思うので、そこをカバーできるとしたら捕ってからの早さ、切り替えの早さしかないと思うんです。捕ってからのワンステップだったり、すぐに投げるための打球への入り方だったり、そこを工夫する。それがよくないと一発でボールを投げられないと思うので、そこを意識するようになりました」
バックアッププレーヤーとしての起用が続くなかで、自然と意識するようになったこともある。”一発目”の重要性だ。
「試合でポッと出た時に100%に近いプレーをしなければいけない立場じゃないですか。そういう点では徐々に(試合に)慣れていく時間というのがないわけで、そこは今まで以上に練習から意識してやるようにしています」
打撃練習での1打席目、守備練習での1球目、走塁練習での1走目。ここに神経を研ぎ澄まし、最大限に集中力を高める。バッティングではより正確性を出そうと、今季からフォームを少し変えた。昨年までの足を上げる形から、今年はすり足、ややノンステップに近い形でバットを振っている。
「足を上げて、(バットを)引いてとやっていると、踏み込んだ時にスタンスが広くなっていくんですよね。だから昨年秋から『狭く、狭く』を意識していて、そうなっていくと余計な動きを省きたくなってくるんです。昨年も相手投手がクイックで投げる場面では今のような形だったのですが、今年はクイックとか関係なく、先に引いて、そこから前にいくだけの感覚でやってみようかと思っています」
また、三木は俊足の選手としても期待されている。出塁率を上げることを最優先すれば、長打は二の次だ。センターから右方向を意識したバッティングと、粘って出塁することに徹しようと、あらためて決意したという。
「長打は誰も求めてないと思うので……。たまにタイミングが合って、いいところで当たった時に(スタンドまで)いけばいいかなって感じで考えています」
そんな三木は、これまで鳥越裕介ヘッドコーチから多くのアドバイスを受けてきた。なかでも記憶に残っているのがこれだ。
「チーム内での役割的なことですね。ムードメーカー的な存在というか、ベンチで盛り上げ役が必要だと言われました。勝っている時はみんな明るくやれるけど、負けている時こそ、そういうヤツが必要だと。やっぱり強いチーム(ソフトバンク)から来られた方なので、それは確かにそうだなって感じました。やっぱり劣勢になった時とか、ベンチ内が静かになる時がありました。そこは気づかされたといいますか、自分が変えていかなきゃいけないと思いました」
「みきてぃー!」というファンおなじみのフレーズも、少しでもチームを明るくしようと思ってのことであり、いじられることは百も承知である。
真剣にムードメーカー役に徹しようとする姿に、昨シーズン一度もファームに落ちなかった理由がわかったような気がした。
「それまでも声は出しているつもりでいたんですけど、負けている時はどうしても自分のことだけに集中しすぎている感じで、その役に徹しきれていなかった。それをスタメンの選手にやれというのも難しいじゃないですか。そこはスタメンで出ていない人間が率先してやらなきゃいけないと思います。もっとベンチ内を活性化して、相乗効果となって、チームをよくしていく。それも必要かなって……」
昨シーズン限りで、岡田幸文、金澤岳、根元俊一といった3人のベテラン選手が引退した。彼らは背中で、時には態度でチームを引っ張っていた、ある意味チームの顔である。その役割を今後は誰かがしていかなければいけない。三木の取材を続けていくうちに、その役割を彼なら果たしてくれるのではないかという気がしてきた。
「普段の立ち居振る舞いですよね。試合に出ても出なくても、いつもと同じスタンスというか、変わらない。そういうところを見ている人が必ずいると思うので……」
三木の目指す先は、もちろんレギュラーである。しかし、レギュラーであろうとなかろうと、三木がチームのためにすることは変わらない。2019年、何かが変わり始めようとしているロッテ。三木もまた、そんなチームの間違いなくキーマンである。