現地時間の1月19日、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行なわれたWBA世界ウェルター級タイトル戦で、6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)が2019年になって初めてリングに登場した。 40歳になったパッキャオは…
現地時間の1月19日、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行なわれたWBA世界ウェルター級タイトル戦で、6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)が2019年になって初めてリングに登場した。
40歳になったパッキャオは、挑戦者エイドリアン・ブローナー(アメリカ)に3-0(117-111、116-112、116-112)の判定勝ち。ひとまわり若い29歳の相手を寄せつけず、ハイレベルな実力を保っていることを証明する結果となった。
WBA世界ウェルター級の王座を防衛したパッキャオ
この試合前後、宿敵フロイド・メイウェザー(アメリカ)とパッキャオの再戦が大きな話題になった。昨年末に日本で那須川天心とエキジビションマッチを行なったメイウェザーは、パッキャオ対ブローナー戦をリングサイドで観戦。この一戦の前後には、NBAの試合会場でもふたりが2度にわたって顔を合わせ、「リマッチが計画されているのではないか」という推測を煽っている。
2015年の初対戦には、約6億ドル(約658億円)の興行収入を叩き出した”世紀の一戦”。その再戦は本当に行われるのか。
今回はアメリカのスポーツ専門チャンネル『ESPN.com』の人気企画、「5-on-5ディベート」をモデルに、パッキャオ(&メイウェザー)に精通した3人のエキスパートに3つの質問をぶつけてみた。「3-on-3」に参加してくれたパネリストの言葉から、”世紀のリマッチ”の可能性が浮かび上がってきた。
【パネリスト】
●ライアン・サンガリア:『リングマガジン』のライター。フィリピン系アメリカ人で、過去10年近くにわたってパッキャオの全試合を取材。ブローナー戦前にはパッキャオのトレーニングキャンプにも帯同した。
●ウォーレス・マシューズ:『ニューヨーク・デイリーニューズ』のボクシング記者。35年にわたって『ニューヨーク・タイムズ』、『ニューヨーク・ポスト』、『ニューズデイ』、『ESPN.com』などで健筆をふるい、TV放送のレポーターも務める。自身も元アマチュアボクサー。
●ショーン・ナム:『ハンニバルボクシング』、『UCN.com』などで活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによる内部情報に定評がある。
Q1 ブローナー戦でのパッキャオの印象は?
サンガリア「”40歳の老雄”と”20代の4階級制覇王者”の対戦という背景を考えれば、そのパフォーマンスは印象的だったという他ない。ブローナー戦でのパッキャオは、2017年7月に同じくブローナーを下した際のマイキー・ガルシア(アメリカ)よりも『支配的な強さ』という意味で上だった。パッキャオはこの試合で、依然としてハイレベルで戦えることを証明した」
マシューズ「パッキャオの出来は悪くなかったが、オフェンス面の迫力はメイウェザーと対戦した頃の3、4年前と比べて落ちていたように思う。パンチにはキレがなく押すような感じで、左を打つ際には体が前に突っ込んでしまっていた。それでも、強さと積極性はブローナーを圧倒するのに十分すぎた。ブローナーは勝負をかけることなく、怖がっているような戦い方だった。全盛期の力からはほど遠かったものの、40歳という年齢を考えれば、パッキャオのエナジー、積極性、スタミナは上質だった」
ナム「ほとんどのボクシング関係者がパッキャオ勝利を予想し、実際にそうなった。ブローナーを相手にこれほど支配的な勝ち方をするとは驚きだったね。危うい瞬間もあるだろうと予想されたが、結局、パッキャオにピンチは訪れなかった。今のパッキャオが、テレンス・クロフォードやエロール・スペンス・ジュニア(ともにアメリカ)といったウェルター級のエリートたちと対戦しても、痛めつけられてしまうだろう事実に変わりはない。そうだとしても、全盛期の若い選手たちを打ち負かすパッキャオの姿が見られるのはうれしい。それは5年前には想像もできないことだった」
Q2 メイウェザー対パッキャオの再戦は実現すると思うか?
サンガリア「メイウェザー戦は実現しなければならない。そうでなければ、パッキャオが戦い続ける意味はない。若さと体格に恵まれ、これから自身の歴史を築き上げようとしているウェルター級のトップ選手(クロフォードやスペンスなど)とのリスキーな戦いに臨む理由もない。パッキャオがやり残した仕事はメイウェザーとのリマッチだけだ」
マシューズ「再戦は行なわれると見ている。互いにとってリスクが少なく、第1戦ほどではないにせよ、大金が転がり込んでくるファイトだからだ。パッキャオとメイウェザーが、同じイベントで何度も”偶然に”居合わせていることは、リマッチへの布石だとしか思えない。何より、ここまでキャリアを積んできたふたりには、他に戦うべき相手は存在しない」
ナム「とてつもない大金が動く一戦だけに、まとまらないとは考え難い。パッキャオの試合やNBAのゲームにメイウェザーが繰り返し現れ、ふたりが顔を合わせていることは、メイウェザーが再戦を盛り上げようとしていると見るのが妥当だろう。一方のパッキャオも、税金滞納問題などが原因でお金が必要。もともと、パッキャオがプレミア・ボクシング・チャンピオンズと契約したのは、メイウェザーと戦うためだったはずだ」
Q3 メイウェザー再戦が行なわれたとして、パッキャオに勝機はあるのか?
サンガリア「パッキャオに勝てるチャンスが生まれるかどうかは、メイウェザーがどんな状態で出てくるか次第。今年42歳になるメイウェザーが激しいトレーニングをこなせるのか。前に出てくるパッキャオのスタイルをかわし通すだけの反射神経を保てるか。パッキャオにもこれ以上の伸びしろはないが、再戦では右肩の故障がないと考えれば、第1戦のときよりも戦力は上かもしれない。メイウェザーにとってパッキャオとの対戦は、日本のフェザー級のMMA選手(那須川天心 )と戦うのとはワケが違う」
マシューズ「ブローナー戦を見る限り、リマッチで結果が変わるとは個人的には思えなかった。『メイウェザーが反射神経とスピードを保っている』という条件つきだが、つんのめるように飛び込んでくるパッキャオは、メイウェザーのカウンターの餌食になるだろう」
ナム「パッキャオにとって不利な予想になることは間違いない。ただ、メイウェザーは何年も世界レベルの選手と戦っておらず、どれだけ衰えているかがはっきりしない。那須川とのエキジビションマッチでは、『太り気味だった』ということ以外はわからなかった。不確定要素は多いが、パッキャオには『よりコンスタントに試合をこなしてきたこと』、『前回と違って右肩が万全であること』といったアドバンテージがあるだけに、再戦が実現したら面白い結果になるかもしれない」
以上、3人の識者が「実現する」と見ている”世紀のリマッチ”は、前回の対戦とは違う結末が待っているかもしれない。