サーファー 間屋口 香がサーフシーンのリアルを綴る。サーファーならずとも、そしてサーフィン初心者でも胸にグッとくる、ハートウォーミングな連載コラム『Surf For Life』。平成最後のこの一年はとんでもない年になってくれた。私は産まれて…

サーファー 間屋口 香がサーフシーンのリアルを綴る。サーファーならずとも、そしてサーフィン初心者でも胸にグッとくる、ハートウォーミングな連載コラム『Surf For Life』。

平成最後のこの一年はとんでもない年になってくれた。私は産まれて35年、サーフィン歴はたかが23年。それでも今年はサーフィン界の新たな幕開けとなったのではないかと感じている。ウェーブプール競争、メーカー合併、日本人達の快挙、サーフィンが世界スポーツ枠に加わったこと、新たな組織内改革、アダプティブサーフの発展などだ。

その中でも特に日本人達の快挙に注目したい。
日本人の快挙はサーフィン界だけに止まらず、テニス界では大阪なおみが大きな話題となり、アイデンティティーの在り方についても一石を投じた。

五十嵐カノアや前田マヒナが日本国籍を選んだ。WSLに参戦する日本人男女のトップ2人が彼らとなった。マヒナに関しては2019年度からは日本をベースに世界を転戦することを意思表明している。

9月に愛知県田原市で開催された世界選手権大会では47カ国、240選手の参加の中、日本は初の団体金メダルを獲得した。五十嵐カノアが銀、村上瞬が4位銅メダルを獲得。
10月にカリフォルニア州で開催された世界戦ジュニア大会でも、上山キアヌが日本人初18歳以下のクラスで金メダルを獲得、そして日本は団体金メダルも獲得するなど、快挙が続いた。

そしてWSLクオリファイシリーズでは、五十嵐カノアがツアーチャンピオンに輝いた。

こんなにも日の丸がサーフィン界でなびいた年は今までにない。

サーフィンの歴史に新たなページが追加され、日本は新たな歩みを踏み出した。

1人が飛び抜けると、後に続けと他のサーファー達の意識とレベルが引き上げられた。“なんだ自分達にもできるじゃん”と。

今まで日本人がぶち破れなかった壁を1人が破り、その穴を他の皆でこじ開け、どんどんその穴が広がっていった。

そうやって日本人サーファー達の意識が特に前進したのが2018年だった。

極端に技術レベルが上がった訳ではないが、全てはコンフィデンス(自信)のおかげではないだろうか。

大きな波に乗るためのコンフィデンス。

日本語が通じない環境の中でも自分を出すコンフィデンス。

負けても動じないコンフィデンス。

勝てるというコンフィデンス。

向上心溢れるコンフィデンス。

2018年は今まで日本人サーファーがどうしても払い落とせなかった足かせが片方外れた気がする。

季節的にも2019年以降からもこのいいカレントに乗るために、各々が明確にどこでどんな活動をしていくのかを早急に決めなければいけない。

レベルを上げたい選手や、低迷しているコンペティター、何にどう重きをおけばいいのか迷っているサポーターやメーカーがいるのであれば、まず各々がどこに重きをおきたいのか再確認してみよう。

日本にはWSL(ワールドサーフリーグ)、NSA(アマチュア日本サーフィン連盟)、JPSA(日本プロサーフィン連盟)、この3つの組織がありそれぞれのスケジューリングでツアーが開催されている。

参加しようと思えば全ての組織に選手達は登録することができる(プロ登録した選手がNSAに登録することは不可)。

どの試合に出れば自分にとって価値があるのか?

どこに携われば自分のレベルが上がるのか?

稼ぎたいのか?

上手くなりたいのか?

肩書きや称号が欲しいのか?

ただ単に楽しみたいのか?

交流したいのか?

安定したいのか?

自分の為の活動なのか?

誰かのための活動なのか?

どうしたいのか?

選手ならばどうすればレベルを上げられるのかを常に考えるだろう。同じ場所に止まっているだけでは進化は起こらない。

例えばヒザ波のホワイトウォーターでテイクオフができるようになれば、次は横に走れるようにフェイスがある波を求めて波質を変えなければいけない。

全く違う例えでいえば、2歳の時に履いていた靴は、3歳ではもう履けなくなる。大きなサイズに履き替えなければいけない。

それと同じで、日本で世界一のレベルに達したと思うのであれば、今までの練習の場を卒業して世界レベルの海へ入学しなければいけない。

それぞれのコーチから得られるもの、そこの波から得られるもの、それを得た後どう次の進化をするのか。

上には上があり、上に行こうと思っているのであればその場へいかない事には話にならない。

どうすれば世界に通用するレベルに到達できるのか、答えははっきりと出ている。

でも果たして10代にそれができるだろうか?

答えはノーだろう。環境改善の見極めや、金銭の使い方、選択する上でのアドバイスは必ず周りからの強いサポートが必要となる。

期待を寄せる選手がもっともっと上に行けるように、何が必要なのか。

ちやほやするのは本当の意味でのサポートではない。

居心地がいいところにとどまる選手自身も成長は見込めない。

選手も家族もサポートする側も、覚悟が必要なことを忘れないでおきたい。

選手をしていると分かると思うが、勝って心から嬉しい試合と、周りは喜んでくれるのに、本心では勝っても胸を張って喜べない結果がある。

本当の意味で勝負に挑めば結果がどうであれ、納得することができるかもしれない。

全身全霊を注ぐものがあるとはなんて幸せなことだろう。

新たな日本サーフィンの歴史がスタートしている今、携わる皆でこの上昇気流に乗っていきたい。

Written by 間屋口 香(Kaori Mayaguchi)© Red Bull Media House

◆AUTHOR PROFILE

間屋口 香(Kaori Mayaguchi)
プロサーファー。10代で全日本タイトルを獲得し、20代は世界レベルで活動。ASP WQS6などの世界大会で好成績を残す。現在はコンペティションシーンからは引退し、地元である徳島県をベースに「サーフィンの楽しさを伝える」活動に従事。