1月21日、バルセロナはセリエA・サッスオーロの元ガーナ代表FW、ケビン・プリンス・ボアテング(31)を、今シーズン終了までの期限付き移籍で獲得したことを発表した。レンタル料は100万ユーロ(約1億3000万円)で、買い取りのオプショ…

 1月21日、バルセロナはセリエA・サッスオーロの元ガーナ代表FW、ケビン・プリンス・ボアテング(31)を、今シーズン終了までの期限付き移籍で獲得したことを発表した。レンタル料は100万ユーロ(約1億3000万円)で、買い取りのオプションは800万ユーロ(約10億4000万円)。セビージャに放出した元スペイン代表FWムニル・エル・ハッダディの穴を埋めるように、空き番になった背番号19を与えている。

「めっちゃ、いい気分だぜ。サッスオーロにもいい仲間がいたから寂しい気持ちになったけど、こんなチャンスは滅多にない。バルセロナなら飛行機じゃなくて、走って来たかった。すげぇハッピーだ」

 ボアテングは入団会見で、その気持ちを率直に表している。
 



1月22日、バルセロナへの入団会見に臨んだケビン・プリンス・ボアテング

 もっともこの移籍劇は、少なからずメディアにもファンにも驚きをもたらした。当初は、「フェイクニュースではないか」という疑いが出たほどだった。なぜなら、ボアテングは過去10シーズンで、10チームを渡り歩いた選手。飽きっぽく、規律が守れず、しばしば問題を起こし、とにかく”悪童”という印象が強い。

 独特の感性を持つアタッカーで、ダイナミックなプレーはセールスポイントと言えるが、そのプレーは継続性に欠ける。今シーズン、サッスオーロでも13試合出場4得点と、特筆すべき成績は残していない。

「ルイス・スアレスのサブ」

 それを命題に掲げ、バルサは強化に奔走していた。アルバロ・モラタ(チェルシー)、フェルナンド・ジョレンテ(トッテナム)、クリスティアン・ストゥアーニ(ジローナ)、カルロス・ベラ(ロサンゼルス)ら、有力FWの名前が候補に挙がっていた。その結果、選んだのはボアテングというサプライズカードだった。

 なぜバルサはボアテングを選んだのか?

 ボアテングは、プロフェッショナルとして成熟しているとは言えない。

 事実、夜遊びにふけり、肥満になるなど、素行面は言語道断。過去には、酔っ払って器物損壊で罰金を命じられたり、暴行事件を起こしたこともあった。あろうことか、ピッチでも怒りの感情を制御できず、相手選手に対して足を振り上げるなど、目に余る行為が絶えない。その点、まさに悪童と言える。

 一方で、「純粋で幼いだけで、選手としての魅力はあまりある」という意見も根強くある。

 刹那的に繰り出すプレーは、大胆かつ繊細。ラス・パルマス時代に放ったボレーシュートなどは今も語り草になっている。選手としては前線のプレーメーカーのようなタイプで、技量だけでなく戦術的理解も高く、意外にも周りを使うプレーに長ける。カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)にも近く、プレーそのものはエゴイスティックではない。

「バルサはボアテングをずっと獲得リストに入れていた」

 一部のメディアでそう言われるが、真実なのだろう。

 実はそう言われるだけの根拠があった。バルセロナの伝説であるヨハン・クライフを崇拝し、バルサイズムに傾倒するキケ・セティエン監督(現ベティス)が率いたラス・パルマスで、ボアテングは抜群の存在感を示していた。2016-17シーズン、10得点しただけでなく、見事に攻撃を牽引。前線でアクロバティックなゴールを決めつつ、コンビネーションの起点となっているのだ。

 バルサとしては、思いのほか、他の候補との交渉が難航したこともあるのだろう。

「あくまでスアレスの控え」

 その条件を呑んだことが、ボアテングとの契約を加速させた。なぜなら、野心的なFWはこの前提に逡巡する。ドルトムントに移籍してブレイクしたスペイン代表FWパコ・アルカセルは、バルサで冷や飯を食わされていた。多くの候補選手の名前が浮上しては消えるのは必然だった。

「すべての条件を満たすFWはいない。ボアテングのキャラクターは不安要素だが、実力は申し分なし。レンタル料(100万ユーロ)とサラリーを払うだけで、リスクは少ない」

 それがバルセロナの下した現実的判断だった。バルサは昨年の夏、サッスオーロにブラジル人DFマルロン・サントスを売却。良好な関係を作っている。そこで、一気に交渉がまとまった形だろう。
 
 バルセロナの指揮官であるエルネスト・バルベルデは、チリ代表アルトゥール・ビダルを機能的に使いこなすなど、ピッチの中央にパワーを注入できる選手を好む傾向がある。ボアテングは肉体的に恵まれ、前線のインテンシティを高められる。そもそもスアレスは気性が荒く、戦闘的で、ボアテングとキャラクターとしては通じるところもある。

「先発選手として来たわけではないのは、俺も心得ているさ。でも、できる限りチームのことを助けたい」

 ボアテングは今のところ、殊勝に語っている。

「メッシ、スアレスのような選手たちと一緒にプレーできるなんて、マジで誇りに思うぜ。これは試験のようなものだろう。いいプレーをして、契約を延長する。それが俺の目標さ」

 1月23日のスペイン国王杯準々決勝、敵地でのセビージャ戦で、ボアテングは早速、遠征メンバーに入っている。