菊池雄星がシアトル・マリナーズと契約を交わし、念願のメジャー入りを果たした。シアトルでの入団会見では誰もが驚くほど…

 菊池雄星がシアトル・マリナーズと契約を交わし、念願のメジャー入りを果たした。シアトルでの入団会見では誰もが驚くほどの英語力を披露し、早くもアメリカのファンの心をつかんだ感があった。聞けば、早くからメジャーでのプレーを念頭に、英会話の研鑽(けんさん)に励んでいたという。

 そうしたメジャー志向だった菊池の足跡をたどってみると、「なるほど」と思えるふしがある。菊池が所属していた西武は、2010年秋のオーストラリアンベースボールリーグ(ABL)の発足を受けて、メルボルン・エイシズへ若手有望株の派遣を継続して行なっており、菊池も2011年オフにオーストラリアのウインターリーグに参加している。ある意味、西武の選手にとっては、オーストラリアでのプレーはスター街道への登竜門となっている。



2017年のドラフトで西武から1位指名を受けた齊藤大将

 そのオーストラリアでも、今回の菊池のメジャー契約は選手たちの間で話題になっていた。オーストラリア代表の常連でもあるベテラン投手のドゥシャン・ルジックは、かつてオーストラリアでプレーした選手がメジャーリーガーになったことに大きな喜びを感じていた。

「彼がプレーしたシーズン、僕は妻の出産があったためにキャンセルしたから直接面識はないんだけど、いいピッチャーだったと聞いたよ。ABLでプレーしていた選手がメジャーに行くことは、本当に喜ばしいことだよ」

 菊池だけではない。とにかく、日本人投手の評価はオーストラリアですこぶる高い。実際、このオフにABLのキャンベラ・キャバルリーでプレーした今永昇太(DeNA)は、ホップするような回転のいいストレートでマイナーの有望株をまったく寄せつけなかった。

 また、アメリカでプレー経験のあるエイシズのオーストラリア代表常連のベテランも、一緒のチームでプレーした高木勇人と齊藤大将(ひろまさ)のふたりに太鼓判を押す。

 高木は一昨年のオフ、FAで移籍した野上亮磨の人的補償として巨人から西武に移籍してきた右腕である。ルーキーイヤーだった2015年には9勝を挙げ、将来を嘱望されたが、その後伸び悩み、西武移籍初年度となった昨シーズンも一軍登板は8試合にとどまり、わずか1勝に終わっている。

 素材のよさは巨人時代にもプエルトリコのウインターリーグに派遣されていることからもうかがい知ることができる。首脳陣とすれば、何かのきっかけで大化けするのでは……と感じずにはいられないのだろう。

 一方の齊藤は、明治大からドラフト1位で入団しながら、ルーキーイヤーの昨年は16試合に登板して1勝3敗と不本意な結果に終わった。こちらも首脳陣からすれば、なんとかブレイクしてほしい素材である。

 西武としては、オーストラリアで殻を打ち破ってほしいという思いでふたりを送り出したようだが、ともに今シーズンに向けてのきっかけをつかんだようだった。

 例年、西武の選手が派遣されるのはクリスマスまでとなっている。ABLではちょうど前半戦を終えた頃だが、高木は6試合に先発して3勝1敗、防御率3.34、齊藤は11試合すべてリリーフでの登板で、計16回1/3を投げて無失点の好投を見せた。

 とりわけ現地の選手から評価が高かったのが齊藤だ。

「あいつはメジャーでもできる」

 そう語ったのは、昨年の侍ジャパンとのテストマッチで代表チームの正捕手を務めたアラン・デ・サンミゲルだ。その根拠を尋ねると、「だって、ついこの間までヤツらのボールを受けていたんだぜ」と確信に満ちた表情で言ってきた。

 サンミゲルは、2005年から2017年までアメリカのマイナーリーグでプレーし、3Aに在籍していた時は調整中のメジャーリーガーの球を受けていた。それを考えると、単なるリップサービスではないことがわかる。

 そしてサンミゲルの隣にいたルーク・ヒューズもその言葉にうなずく。

 現在、ヒューズはオーストラリア野球連盟のスタッフとして野球の普及やマーケティングの仕事をしながら、ABLでもベテラン一塁手としてプレー。かつてはメジャーリーグでプレーした経験を持ち、ミネソタ・ツインズで西岡剛(元阪神など)と二遊間を組んだこともある人物だ。

 また、日本での野球経験者も絶賛する。エイシズの遊撃手でチームの主軸を打つダリル・ジョージは、アメリカでプレーした後に来日し、独立リーグのルートインBCリーグ(新潟アルビレックス)で2シーズン送り、オリックスと育成契約を果たした。そのジョージは齊藤について「とにかくストレートの力強さが印象に残っている」と称した。

 ストレートの球速に関しては、オーストラリアの主戦級投手やアメリカのマイナーからの選手の方が明らかに勝っている。ただ彼らのストレートは、いわゆる”動く球”で、日本の投手のように浮き上がってくるようなきれいな回転のボールではない。

 ABLでプレーする打者に聞いても、日本人投手の回転のいい球筋は、強烈な印象を与えたようだ。

 今季プロ2年目を迎える齊藤は、オーストラリアでの武者修行をきっかけに飛躍することができるのか。齊藤のこれからのピッチングから目が離せない。