1月18日から行なわれたスキージャンプ女子W杯蔵王大会。最終日の20日は湿った雪が降り続き、体重の軽い高梨沙羅(クラレ)にとっては助走でスピードが出にくい不利な条件になった。大会初日は2位の成績を残して表彰台に上がった高梨沙羅 2本目…

 1月18日から行なわれたスキージャンプ女子W杯蔵王大会。最終日の20日は湿った雪が降り続き、体重の軽い高梨沙羅(クラレ)にとっては助走でスピードが出にくい不利な条件になった。



大会初日は2位の成績を残して表彰台に上がった高梨沙羅

 2本目は、この回2番目で94.5mを飛んで、1回目の8位から6位に順位を上げるにとどまったが、その表情は意外にも明るかった。

 今季は開幕戦から2位1回、3位2回だけで優勝はない状況。札幌と蔵王の国内連戦に戻ってきた高梨は、1週前に行なわれた札幌大会で第1戦は今季最低タイの11位、2戦目も8位と苦戦していた。

 その原因は、アプローチ姿勢をしっかり組めないことにあった。そのため踏切では上半身が先に動いてしまい、飛び出しでの減速が大きくなっていた。

 それでも蔵王大会初戦では、風向きがコロコロ変わる悪条件の中で1本目に92mを飛んで2位につけると、2本目も94mで5位のジャンプにまとめ、ダニエラ・イラシュコ(オーストリア)に次ぐ2位になった。

 そこで目を引いたのは、助走速度の改善だ。札幌大会ではW杯ランキング1位のカタリナ・アルトハウス(ドイツ)には1本目に時速1km、2位のマーレン・ルンビ(ノルウェー)には2本とも0.9km差をつけられていた高梨。しかし、この日の1本目はルンビと同じ速度で、アルトハウスともほぼ同じ速度を出していた。

「札幌の時とはスタートのやり方を変えて、それがこの蔵王の台には合っているかなと感じました。それまではゲートを離れてからゆっくりと自分のポジションを作ることを考えていましたが、それだとちょっと違うかなというのを札幌の大会で思ったので。

 蔵王のような助走路の傾斜が緩やかな台は苦手で、それなりの難しさのある中でゆっくり組み始めるとタラタラしてしまい、傾斜角度が変わるR(助走路の曲線部分)にうまく入っていけなくなってしまうと思ったので、ゲートから離れた時のリズムを大切にしていち早く自分のポジションに乗ることを意識するようにしました。

 上からの圧力を感じないとしっかり踏み切れないのですが、この蔵王はその圧力を感じにくい台なのでそれを意識しながらいろいろ試している中で、この組み方がいいのかなというのが見えてきました。陸上のシミュレーションでもいろいろ試してみて、短い練習期間の中で『こうしていこう』というのが見えたのはすごくいい収穫だったと思います」

 また、今季自己最高タイの2位になったことで、気持ちが少し楽になったという。

「やっぱり国内の大会では、ずっと応援してくれる人たちの前でいい結果を出したいという気持ちもあるので……。これまでいろいろ試している中でどうしても自分のいい兆しが見えなくて、うまくいかない状況が続いていました。だからこそ、こういういい結果は素直にうれしいし、次に挑戦するモチベーションというか、糧にもつながります。ここからいい波を持っていければと思います」

 好条件の中で行なわれた19日の団体戦では、17年12月のドイツ・ヒンターツァルテンと18年の蔵王に続く、日本のW杯団体3連覇を逃す3位に止まったが、個人の成績としてはルンビをわずかに抑えてアルトハウスに次ぐ2位の得点を獲得し、確実に表彰台を狙える圏内に力が戻ってきていることを証明した。

 そして最終日の個人戦は6位だったものの、「コーチのスタート合図は見えないし聞こえないことを最初から覚悟して、自分のタイミングでスタートをした」という2本目は助走速度もライバルたちに負けることなく、飛距離を伸ばした。

「助走のレールには雪が積もっていてRの手前にはコブがあるような状態でしたが、アプローチを変えたおかげで、そのコブを乗り越えられたと思います。この大会で自分が探していたものを一つ見つけられたかなと思うので、それを大切に自分のものにして今度はその先につなげていければいいかなと思います」

 昨季は平昌五輪で金メダルを逃したあと、ずっと勝利がなかったW杯の最終戦で2勝して通算勝利数を55まで伸ばした。一方でヨーロッパ勢が急成長してきた中で、自分がもっと強くならなければいけないことを強く感じた。だからこそ今季の高梨は、挑戦のシーズンと位置づけているのだ。以前のいい状態に戻すだけでは表彰台には届いても勝つことはできないという思いがあるからこそ、様々な試みをしている。

 試行錯誤のなかで先が少し見えてきた今回の結果。このあと試合が続くヨーロッパは、蔵王と同じく助走路の傾斜が緩やかなジャンプ台が多いだけに、ここでいい感触を得られたのは高梨にとって大きな収穫だった。この自信をこれから結果につなげられるか、注目したい。