底知れない才能が眠っているかもしれない──近畿大2年の佐藤輝明のことである。身長186センチ、体重92キロ、右投左…
底知れない才能が眠っているかもしれない──近畿大2年の佐藤輝明のことである。身長186センチ、体重92キロ、右投左打の内野手だ。その恵まれた体格を見ると、どこかの強豪校でびっしり鍛えられたのだろうと思わずにはいられない。
しかし、佐藤の出身校は兵庫の進学校として知られている仁川(にがわ)学院。高校時代の成績は、高校2年夏の4回戦進出が最高で、3年夏は初戦敗退。そのため全国的には無名の存在だった。

昨年秋のリーグ戦で3試合連続本塁打を放つなど、長打力が魅力の佐藤輝明
それでも全国の高校球児をくまなく見て回った近畿大の田中秀昌監督の目に留まり、同大学への進学が決まった。その才能は入学後すぐに開花。1年秋には4番を任され、2年秋までの4シーズンで通算7本塁打を記録。なかでも昨年秋のリーグ戦では3試合連続本塁打を放つなど、急成長を遂げている。
これまでの関西学生野球連盟の通算最多本塁打記録は、西浦敏弘(近畿大)の19本。
「3試合連続で打ったのはリーグ戦タイ記録らしいですけど、彼にはあと4シーズンありますから。十分に狙えるところにいると思います」
田中監督も佐藤の記録更新に太鼓判を押す。
佐藤が野球を始めたのは小学1年生の時だ。一時大ケガを負い、1年間、野球から遠ざかった時期もあったが、小学6年の時には阪神タイガースジュニアに選出されるなど、当時から光るものを持っていた。
ホームランの魅力に取りつかれたのも、ちょうどその頃だ。
「小さい時からホームランは目標というか、ずっと打ちたいと思っていました」
そんな佐藤が目標としているのは、MLB屈指の強打者であるブライス・ハーパー(ワシントン・ナショナルズ)。彼のように一打で試合の流れを変えられる、そんな攻撃的な選手になりたいと佐藤は言う。
昨年秋に行なわれた明治神宮大会でも、その非凡な才能を全国の舞台で披露した。
筑波大との2回戦で村木文哉(2年)が投じたアウトコースの144キロのストレートを逆らわずに打ち返すと、打球は風にも乗って、レフトスタンドで大きく弾んだ。「引っ張るだけでなく、逆方向にも遠くに飛ばせる力がある」と、関係者の評判はさらに上がった。
「以前と比べて、粗さがなくなかったかなと感じましたね」
そう話すのは、筑波大の川村卓監督だ。
この試合での第1打席、そして本塁打を放った第2打席と、佐藤は筑波大バッテリーに落ちる変化球をしつこく使われ、上下に揺さぶられた。それでも目線を上げ、低めに落ちるボールを追わないように頭を整理すると、高めに入ったストレートを一撃で仕留めてみせた。
しかし、いいことばかりは続かない。明治神宮大会準決勝の環太平洋大戦では、西山雅貴(3年)、仲尾元貴(1年)といった技巧派投手にうまく攻められ、佐藤のバットは沈黙した。
とくに8回表の一死満塁の好機では、変則左腕の仲尾に対してまったくタイミングを合わせることができず、三振に打ち取られてしまった。田中監督が言う。
「まだまだですね。一応、(大学)ジャパンに入れていただいたので、当然チームの期待も高いですし、相手バッテリーもギリギリで(攻めて)来るのはわかっているんですけど……そのあたりの対応力といいますか、もう少し頭を整理してバッターボックスに入らないといけないですよね。
どれもこれも打とうとしても、そう簡単には打てないですし、やっぱりトップレベルに行こうと思ったら、(三振した)ショートバウンドのボールに対しても打ちにいきながら見極める”間”がほしいです。ここぞという時に打つのがジャパンの選手、近大の4番だと思うので、そのあたりはまだまだかなと思います。
ただ、(筑波大戦の)レフトにホームランを打ったのは、そりゃたいしたものだと思います。だけど、やっぱりこういう場面で打つのが4番であって、おおいに反省してほしいですね」
田中監督があえて厳しく言うのも、「佐藤の能力はこんなものではない」という期待の裏返しである。
強力な援軍もいる。佐藤が小学生の時から暇を見つけては球場に訪れ、ビデオを回し続けてくれた父の存在だ。
「父がオープン戦の時から毎試合、動画を撮ってくれるので、そこでいい時と悪い時を見比べながら、打撃フォームをつくっています」
ビデオを見て、修正して、あとは自身の体にしみ込むまでバットを振る。
佐藤が言う。
「高校時代までは引きずるといいますか、『なんで打てんのやろう』とめっちゃ考えることもあったんですけど、大学に入ってからレベルが高くなって、打てなくても『自分の技術が足りへんから打てないんだろうな』って感じで、気持ちの切り替えができるようになりました」
高校までの実績を考えれば、佐藤にはまだまだ経験が圧倒的に足りない。大学球界には、150キロを超える投手もいれば、変化球主体の技巧派もいる。そこに惑わされず、自身のスイングを貫く技術の高さと心の強さが求められる。
「選球眼に関してはまだまだだと思っているので、とくに落ちる系の球はもっとしっかり練習して見極められるようにしたいです」
結果を恐れず、ポテンシャルを最大限生かす。大学生活3年目を迎える今季、さらなる成長を遂げた佐藤の姿に期待したい。