この冬、マンチェスター・シティから1700万ユーロ(約22億円)でレアル・マドリードに移籍してきたスペイン人の攻撃的MFブラヒム・ディアス(19)が、1月9日、サンティアゴ・ベルナベウでいきなりデビューを飾っている。78分、ブラジル人…
この冬、マンチェスター・シティから1700万ユーロ(約22億円)でレアル・マドリードに移籍してきたスペイン人の攻撃的MFブラヒム・ディアス(19)が、1月9日、サンティアゴ・ベルナベウでいきなりデビューを飾っている。78分、ブラジル人FWヴィニシウス・ジュニオールとの交代でピッチに立った。右サイドの攻撃的ポジションを任され、歓声を浴びた。
「(サンティアゴ・)ソラーリ監督からは、『いつもやっているように、楽しんでこい』と言われて送り出されたよ。ベルナベウでデビューすることができた。忘れられない日になったよ」
試合後に語ったブラヒムは、誰ともユニフォーム交換をしていない。大切に持ち帰り、自宅に飾るのだという。まだ初々しさが残るルーキーだ。
そのポテンシャルの高さは誰もが認めるところだ。左右両足が使えて、仕掛ける技術、強度が抜群に高い。クレバーなだけでなく、即興性もあって、なおかつフィジカル能力も兼ね備え、「スペイン人選手では10代で最高の素材」とも言われる。
ブラヒムは、開幕から不振を極めるレアル・マドリードの救世主となれるのだろうか?
ベティス戦でリーグ戦デビューを飾ったブラヒム・ディアス(レアル・マドリード)
デビュー戦でのブラヒムのプレーはあくまで”お披露目”だった。入団後まだ間がなく、練習もろくにできていない。投入されたのは格下のレガニェスを相手に3-0とリードした状況で、チャンピオンズリーグでも国内リーグでもない、スペイン国王杯の終盤10分程度の出場だ。
もっとも、ブラヒム本人は血気盛んなプレーを見せている。
ワンプレー目、自陣でイスコから受けたパスを、ブラヒムは即座に反転し、前に運ぼうとした。これに相手マーカーがたまらずファウル。FKを得ている。積極的なプレーは途切れない。逆サイドから展開したボールをフリーで受けると、エリア近くの3人が居並ぶゾーンで、果敢に仕掛けた。これは引っかけられてしまいボールを奪われた。若さが出たが、少しも動じなかった。
そして90分にさしかかったときだ。ゴール前に運んだボールに対し、ブラヒムは中央を走り込み、シュートまで持ち込もうとしている。結局、相手の足が出て、ボールを突かれたものの、そのこぼれ球をイスコがエリア外から豪快に狙った。
19歳のルーキーは、攻撃センスの片鱗を見せた。
ブラヒムは、スペインの南部アンダルシアのマラガ出身である。その名前からわかるようにモロッコ系の選手。祖父の影響が強く、誰よりも家族を大事にし、クラブ入団での顔見せにも同伴したほどだ。
7歳でマラガの選手として頭角を現し、レアル・マドリード、バルセロナだけでなく、各国のクラブからオファーが舞い込む。11歳でバルサと仮契約したが、1年で価値は急騰。35万ユーロ(約4500万円)という移籍金にバルサが尻込みし、破談になった。その後、13歳でマンチェスター・シティに移籍した。
ブラヒムはイングランドに渡ってからも、物怖じするところはなかった。コミュニケーション能力に長け、英語も習得。プレーのリズムにも簡単に慣れ、ユース年代では敵なしの選手になった。
特筆すべきは、その”アンダルシアらしさ”だろう。アンダルシアはステレオタイプなスペインの印象そのまま、フラメンコや闘牛が盛んな地域だ。サッカーにおいても芸術性、即興性に優れる。イスコ、ホアキン・サンチェス、ヘスス・ナバスなど、芸術的ボールプレーヤーを多く輩出しているが、ブラヒムもその系譜を継いでいるのだ。
2016年には、17歳にしてカップ戦でプロデビュー。翌年にはチャンピオンズリーグ、プレミアリーグでプレーした。
一躍、注目される存在になったが、今シーズンは「欧州最強」とも言える陣容のシティにおいて、出場機会をつかめていない。国内リーグ出場は0。リーグカップで4試合に出場し、2得点したのみだ。
「欧州のビッグクラブではどこも、若手がポジションを勝ち取るのは簡単なことではない。ダビド・シルバの例でもわかるだろう。彼でさえもクラブを渡り歩きながら、まずは1部で経験を重ね、先発に定着し、力をつけてきた。ブラヒムはいいヤツだ。幸運を願っている」
ブラヒムの才能を買っていたシティの指揮官ジョゼップ・グアルディオラは、今回の移籍について「去る者は追わず」のスタンスで、多くを語っていない。
レアル・マドリードでも、ブラヒムはポジション争いに勝つことが先決となる。率直に言って、シティに匹敵、もしくはそれ以上の力を有する選手がいる。ひとつ年下、18歳のヴィニシウスはそのひとりだ。
レアル・マドリードはジネディーヌ・ジダン監督が去った後、ひどく混乱している。フレン・ロペテギ監督は更迭され、後任のソラーリの雲行きも怪しくなってきた。シティ以上に、困難な状況にある。
ブラヒムのデビュー戦の評判は上々だが、それはご祝儀のようなものだろう。「ユベントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドに代わって英雄に……」という期待の声も聞こえてくるが、選手としてのタイプはまったく違う。
「地に足をつけてプレーするよ」
ブラヒムはそう語っている。
1月13日、リーグ戦第19節の敵地でのベティス戦でもブラヒムはメンバーに入った。そして81分、ウルグアイ代表MFフェデリコ・バルベルデに代わって出場、リーグ戦デビューを飾る。チームは試合終了直前に得たFKをダニ・セバージョスが決め、土壇場で1-2と勝利している。