現役のアスリートとして競技を続けながら、仕事やプライベートを両立させていくためには、どのようなことが大切で、どのようなことで苦労しているのか。「デュアルキャリア」を体現している現役アスリートに、仕事と競技を両立するための秘訣を聞く。 アメ…

現役のアスリートとして競技を続けながら、仕事やプライベートを両立させていくためには、どのようなことが大切で、どのようなことで苦労しているのか。「デュアルキャリア」を体現している現役アスリートに、仕事と競技を両立するための秘訣を聞く。

アメリカンフットボール(以下、アメフト)選手として活躍しながら、大型スポーツ専門店スーパースポーツゼビオドームつくば学園東大通り店(茨城県)で働く三宅剛司さんへのインタビュー後編。同社の「アスリートナビゲーター」として競技生活を送る、そのデュアルキャリアはどのような働き方なのか。今回は、その真意に迫る。

取材・文/佐藤主祥

三宅さんの記事前編》 2013年4月から、スーパースポーツゼビオドームつくば学園東大通り店で『アスリートナビゲーター(※正社員として働きながら競技に打ち込める、アスリートのための制度)』として、働き始めた三宅さん。

仕事の内容としては、主にスーパースポーツゼビオ店内にて展開しているスポーツドラッグストア「Xiasis(ジアシス)」の店頭に立ち、接客・販売を行っている。ここではアスリートのためのコンディショニングサポートを行うほか、スポーツの専門性をもってスポーツに携わるお客さんの健康面をサポートしている。コンディショニングのための医薬品やサポーター、そして数多くのプロテイン・サプリメントも揃っており、実際に試飲できる「プロテインバー」も設置している。

だが、そういった医薬品などを店頭で扱うには“登録販売者”という一般用医薬品を販売するための専門資格を取る必要があった。

「これから年齢を重ねていく中で、身体をケアする医薬品などの知識は身に付けるべきだと思ったので、資格取得に踏み切りました。取らないと売り場に立てないっていうのもありましたけどね(笑)」 登録販売者の資格を取得するためには、年1回のみ実施される試験に合格しなければならない。合格率も受験当時は47パーセント、低いときは30パーセント程度しかないという。それでも三宅さんは、猛勉強の末に合格し、現役アスリートナビゲーターで唯一の資格取得者となった。実際に医薬品の専門性を身に付けたことで、どのようなことに活かされているのだろうか。

「医薬品を扱うための勉強をしたことで、体の仕組みについて理解することができました。それによって“その人に合った医薬品やサプリメントはどのようなものなのか?”ということを提案する能力が身につきましたね。

例えば、怪我をしたお客さんが来店されたとします。そのとき“この薬をどうぞ”だけではダメで具体的にどの部分がどう悪いのか、そして健康面についてもしっかり聞いていくと『実は私、こういう薬を飲んでいるんです』という情報が出てくることがあるんです。

その薬との併用によって、副作用を引き起こしてしまう可能性のあるサプリメントが導き出された場合は、一緒に飲んでも安全な医薬品を提案したりします。このような感じで、店頭での接客・販売の際に、広い視野を持ってお客さんと向き合えるようになりましたね」

また、現役アスリートだからこそできることも多々あると、三宅さんは話す。

「店内にある医薬品や健康器具、プロテインやサポーターといった商品は全てスポーツに必要不可欠なものばかり。アスリートである僕自身が、実際に競技の現場で使用して効果を実感し、その経験を実例として説明すると信憑性が増してお客さんも納得してくれるのです。そこは現役アスリートだからこその強みだなと感じます。

それに加えて、競技力向上を目的とした方もいるので、そういった悩みも共有したりします。 トレーニングにおけるアドバイスや、おすすめのサプリメントを紹介します。実際に『競技成績が上がりました!』『おかげで体を大きくすることができました』といった感謝の言葉もいただけるので、そうやって少しでもお客さんの力になれていることを実感できたときは、本当に嬉しかったです」 店頭でお客さんとコミュニケーションを取ることにより、自身の“ファン”も増えたと話す三宅さん。ゼビオの同僚も含めて、実際に試合会場に駆けつけて応援してくるという。それが、競技を続けるうえでも、店頭で働くことにおいても大きなモチベーションとなっている。

「応援しに来てくれる人がたくさん増えたので本当に嬉しいですし、みなさんに感謝しています。ただやはり、一般の社員より店頭に顔を出す頻度は少なく、いつも迷惑をかけてしまっている。だから会社の広告塔じゃないですけど、明るいニュースを届けられるように結果を出し続けなきゃいけないと思っています。また、ゼビオでの活動・働き方を世間に広く知ってもらい、認めてもらうためにも、さらに頑張らなければいけないですね」

しかし、三宅さんは半年前に大怪我を負い、手術を受けた。現在は、リハビリをしながら働いているため、試合に出場できない状態。今年35歳を迎える年齢での大怪我。彼の頭には『引退』の2文字がちらついた。そんなとき、支えとなったのが家族やチームメイトの存在だった。

「怪我したときは落ち込みましたが、オービックシーガルズのチームメイトが支え、励ましてくれたんです。妻も栄養面を考えてくれたり、僕にあまり負担がかからないようにしっかりサポートをしてくれました。子供も2人いるので、その子たちの笑顔にも助けられています」

リハビリが順調に進めば、早ければ11月に復帰可能。それまで試合や練習には参加できないが、プレーできるまではチームのサポートに徹しているという。そこには、前編でも記載した、大学アメフト部でコーチをした経験や海外挑戦での学びが活きている。

「今は過去に経験してきたことが活かされているなと感じます。実際に大学でコーチしていたことにより、若手に技術等のアドバイスができる。加えて、米国でプレーした際に学んだ本場のテクニックは自分しか知らない部分だと思うので、そういった技術を伝えることもできます。もちろん、選手に合ったトレーニング器具やサプリメントを紹介するなど、仕事で得た知識をチームに還元することも僕の役割だと思っています」 まだまだ第一線で活躍する事に意欲を燃やし続けている三宅さん。まずは2014年から遠ざかっているXリーグ優勝と日本選手権優勝を目標に、これからも全力で走り続ける。だが、スポーツ選手である限り、いつしか引退する時期は必ず訪れるもの。そのセカンドキャリアに向けて、三宅さんは常に考えることを欠かさない。

「引退した後に、自分はどんな人生を送りたいのか。それを現役のときから考えることは非常に大切だと思います。アスリート人生を終えた後、自分に何ができるかを考えたときに、万が一『何もないじゃん』っていうことになっては不安ばかり残るし、関わってきたスポーツに対してもよくないと思うんです。自身のキャリアを考えるっていうのは競技にも繋がってくるので、現役から“競技+キャリア”のセットで考えていくべきだと思いますね」

“仕事でもアメフトの現場でも、ずっとスポーツと関わり続ける”その姿勢や考え方は、競技を続けることが困難なアスリートに勇気を与え、希望を届けることができる。三宅さんの活動・働き方が認知され、浸透していけば、スポーツ界の未来はきっと明るい。 (プロフィール)
三宅剛司(みやけ・たけし)
1983年7月12日生まれ、大阪府出身。1999年、大阪産業大学附属高等学校でアメリカンフットボールを始める。2002年に立命館大学に入学し、4年連続で甲子園ボウルに出場し、1年から3年まで(2002,03,04年)3年連続で勝利し大学日本一に。卒業後、2006年にアサヒ飲料チャレンジャーズでプレー。 2007年オービックシーガルズに練習生として参加し、2008年選手登録。2013年に、ゼビオグループのゼビオナビゲーターズネットワークに入社しアスリートナビゲーターとして大型スポーツ専門店スーパースポーツゼビオにて勤務。現在は、仕事と競技を両立して行う。

※データは2018年11月28日時点