昨年のドラフトは、1位指名で高校生が5人、大学生が6人、社会人が1人。2位指名では高校生4人、大学生7人、社会人1…
昨年のドラフトは、1位指名で高校生が5人、大学生が6人、社会人が1人。2位指名では高校生4人、大学生7人、社会人1人と、高校生と大学生が大多数を占めたが、今年のドラフトの上位指名は高校生、それも投手で占められそうな雲行きである。
昨年は、根尾昂(大阪桐蔭→中日)と小園海斗(報徳学園→広島)に4球団、藤原恭大(大阪桐蔭→ロッテ)に3球団と、3人の高校生野手に1位指名が重なったが、今年は3人の”高校生投手”に指名が重複すると見る。

最速157キロを誇る大船渡の本格派右腕・佐々木
その3人とは、佐々木朗希(ろうき/大船渡高/右投右打)と奥川恭伸(やすのぶ/星稜/右投右打)に、今年は左腕が枯渇状態であることから及川雅貴(およかわ・まさき/横浜高/左投左打)が浮上してくる。
なかでも潜在能力の凄さで言えば、佐々木だ。身長189センチ、体重91キロの大きなサイズにもかかわらず、ボディーバランスが秀逸で、フォームがまったく崩れない。フォーム自体はすごく静かで、たいした力感はないが、それでも150キロを連発するから驚かされる。
打者にしてみれば、「その腕の振りでどうしてこれだけのスピードが出るのか……」と戸惑うに違いない。なにかの拍子にスイッチが入れば、軽く160キロを超えてきそうな雰囲気を漂わせている。
佐々木と同じ本格派右腕でも、大舞台の経験値の高さで上回るのが奥川だ。
中学軟式で全国制覇を達成し、ここまで甲子園にも2度出場している。昨年秋も石川大会、北信越大会を当たり前のように勝ち抜き、明治神宮大会にも出場。ダントツの優勝候補に挙げられながら、決勝でよもやの敗戦。それでも、全国の舞台で着実に経験を積んで、高い実戦力を身につけた。
奥川の最大の特長は角度だ。踏み出す左足のステップ幅が浅く、そのためボールに角度がつく。身長183センチから投げ下ろすためにリリースポイントが高く、打者は思わずヘッドアップしてしまう。そうなるとインパクトの精度が落ち、打ち損じを引き起こす。これは間違いなく大きなアドバンテージだ。加えて、スライダー、フォークといった変化球もハイレベル。
「変化球はベースの上で消える……」
昨年秋の神宮大会で、奥川の快投に封じられた打者たちから聞いた言葉だ。高校生でこれだけの完成度がある投手はめったにいるものではない。高校生でありながら”即戦力”の可能性を秘めている。
昨年のドラフトで、3位までに指名された36人のなかで”左腕”はたったの2人しかいなかったが、今年はそれよりも厳しい状況だ。だからこそ、及川への注目度は日増しに高くなっている。
高校2年の秋までに150キロに到達した左腕と言えば、花巻東時代の菊池雄星(西武→シアトル・マリナーズ)以来だろうか。
しなやかな腕の振り、右打者の懐(ふところ)をえぐるクロスファイアーの角度と強さは一級品。それにスライダーも、現時点でプロ級のキレを持っている。あとは調子の波をいかに穏やかにできるかだろう。
この3人に続くのが、189センチの大型右腕・廣澤優(日大三/右投右打)。チームメイトには井上広輝という快速右腕がいて、彼の方が先に注目を浴びていた。だが、井上がケガで投げられない間にスッと現れたのが廣澤だった。
腕の長さがハンパなく、そのため”遠心力”がつく。普通の高校生なら遠心力に腕力、握力が負けてしまい、ボールが高めへと暴れてしまうのだが、廣澤にはそれがない。右打者の外角低めに決まった時のストレートの威力と角度は、奥川に匹敵か、それ以上と見る。
もちろん、奥川ほどの完成度はないが、伸びしろというか、未知の魅力を廣澤には感じる。また、日大三には廣澤と井上以外にも主戦級の投手がいて、肩の消耗が少ないのも大きなプラス材料だ。
高校生の投手でもうひとり、注目を集めているのが西純矢(創志学園/右投右打)だ。昨夏の甲子園初戦でセンバツ8強の創成館相手に140キロ代後半のストレートと高速スライダーで、16三振を奪って見せた快投は記憶に新しい。
その西だが、昨年の秋に体のシルエットが変わっていて驚いた。遠目でもわかる隆々としたごつい体格。ボールのキレに重さが加わったのは間違いない。パワーなら、高校生投手のなかではナンバーワンだろう。
大学生なら明治大のエース・森下暢仁(まさと)の評判が高いようだが、「打ちにくさ」で津森宥紀(ゆうき/東北福祉大/右投右打)を推したい。
サイドハンドから最速149キロの速球を誇り、スライダー、チェンジアップの扱いもうまく、プロで通用する条件は満たしている。制球力、対左打者など課題は多いが、ナチュラルに激しく動くボールの軌道は魅力十分。
しかも昨年3月に右手中指を剥離骨折し、爪も剥がすアクシデントに見舞われながらも6月の大学選手権で好投を続け、全国制覇。いい意味での”鈍感力”もプロ向きと見ている。
投手の次は捕手だ。今年の高校生は、捕手も多士済々の逸材が揃う。なかでも筆頭は、有馬諒(近江/右投右打)だ。
昨年は春夏続けて甲子園に出場し、夏はベスト8進出を果たすなどチームの躍進を支えたが、有馬のすばらしさはプレーよりも”説明能力”にある。試合後の囲み取材での”答弁”がじつに唸らせる。
記者からの質問に対して、そうなった背景、理由、結果をじつに簡潔明瞭に返答できる。身体能力なら有馬よりも高い選手はいくらでもいるが、捕手としての総合力で有馬は群を抜いている。
大学生捕手は、東洋大の佐藤都志也(としや)が高く評価されているが、肩の強さでは海野隆司(うみの・たかし/東海大/右投右打)。
昨年の日本シリーズでソフトバンクの甲斐拓也が次々と広島の足を封じ、一躍”甲斐キャノン”が脚光を浴びたが、同じく肩でメシを食っていけるとしたら、この海野だ。
肩だけじゃない。ショートバウンドを体で吸収するように止められる技術も出色。投手に気持ちよく投げてもらおうとする姿勢がすばらしく、”いい匂い”のする捕手である。
野手なら、石川昂弥(たかや/東邦/右投右打)のバッティングに期待したい。石川はただの長距離砲ではなく、打球方向がじつにいい。金属バットで引っ張った当たりの打球は”出会い頭”もあり、それほど信用できないが、石川は右中間に信じられない飛距離を出せる。左右の違いはあるが、履正社時代の安田尚憲(ロッテ)を彷彿させる。
力任せに強く振ろうとせず、8割の力で振り抜き、軽々オーバーフェンス。タイミングの取り方、ミート力、しなりを生かせるスイング……すべてにおいて高校生のレベルを凌駕している。
今回は9人の選手を挙げたが、このほかにも逸材は隠れている。昨年のドラフトで1位指名された東洋大の上茶谷大河(DeNA)、大阪ガスの近本光司(阪神)、金足農の吉田輝星(日本ハム)だって、昨年のいま頃はごくごく一部の人にしか知られていなかった。
ここから秋までにどんな逸材が飛び出してくるのか、楽しみは尽きない。