総合力の高さで東海大が初優勝を決めた第95回箱根駅伝で、「これぞ箱根駅伝の駆け引き」という面白さを見せてくれたのが、往路の東洋大と青学大のレース戦略の組み立て方だった。

 青学大の原晋監督は、12月29日の区間エントリーで、3区に湯原慶吾(1年)、4区に岩見秀哉(2年)の3大駅伝未経験のふたりを入れて、前回2区区間賞の森田歩希(4年)と1区区間5位の鈴木塁人(3年)を補欠に回していた。



5連覇はならなかったものの、復路優勝で底力を見せた青学大

 一方、東洋大の酒井俊幸監督は、前回2区区間3位のエース相澤晃(3年)と3区区間賞の山本修二(4年)を補欠にして、2区と4区は当日変更を見据えていた。

「森田くんは故障気味と聞いていたので、往路なら3区だろうなと思っていました。原監督は3区に強い選手や調子のいい選手を置く傾向があるし、2区に梶谷瑠哉くん(4年)を置いたということで、3区に軌道修正できる選手が必要と思った。4区を代えてくるかなという予測もしたけど、青学大は全体のレベルが高いので、『誰を使っても(大丈夫)』という点が大きいと思いました。

 森田くんはひとつ抜けている存在だと思っていますが、彼を含めて誰が来ても今の相澤だったら突き放せるし、むしろ山(5区)にアドバンテージを持って入っていかないと(東洋大の)往路優勝はないと思って相澤を4区にしました。区間賞は当然で、そこで後続を目いっぱい引き離すことが彼に課した役割でした」(酒井監督)

 青学大の1区は今季急成長した橋詰大慧(4年)で、東洋大は同区区間賞獲得の西山和弥(2年)。実績は西山が上だが、5000mと1万mのベストを見ると橋詰が上で勝負はどちらに転ぶかわからず、大差にはならないと予想された。実際、西山が六郷橋あたりから先に仕掛けて区間賞を獲得したが、橋詰も粘って6秒差の3位でつないだ。

 2区は東洋大の山本が中大の堀尾謙介(4年)と競り合って先頭を行く形になり、青学大の梶谷はじりじり突き放される展開に。結局、山本はラストで国士舘大のライモイ・ヴィンセント(1年)に首位を明け渡す思わぬ展開になったが、10位に落ちた青学大との差は59秒に広がっていた。

 しかし、青学大は当日変更で3区に入れた森田が爆走。区間記録を12秒更新する1時間01分26秒を出し、東洋大の吉川洋次(2年/区間2位)を抜いて7秒差をつけるすさまじい走り。ここまでは両監督の作戦が正面からぶつかり、競り合いが続いた。

 決着をつけたのは、4区の相澤だった。スタートして1.8kmで青学大の岩見に追いつくと、2.7km過ぎから前に出て、一気に引き離した。岩見は秋から調子を上げて、11月の世田谷ハーフで1時間03分13秒の自己新を出し、1万mでは青学大今季5位の28分49秒13を出していた。原監督が4区終盤の上りにも対応できると踏んでの岩見の起用だったが、相澤が相手では荷が重かったのだろう。結局、岩見は区間15位。東洋大との差を3分30秒に広げられてしまった。

「私自身が4区の難しさ、大事さをもっと自分自身に圧をかけるべきだったと思います。岩見も普通にいけば当然走るだろうと思っていたが、やっぱり箱根には他とは違うプレッシャーがあるんだなと感じました。初駅伝の選手に負担をかけたのは私の責任」

 原監督は4区の岩見の起用をこう振り返った。ただ、4区終了時点ではまだ逆転の可能性はあると考えていただろう。青学大の5区は前回も5区を走った竹石尚人(3年)。前回は、脚に痙攣が起きた状態での区間5位だった。それだけに原監督は「今回はもっと走る」と自信を持っていた。

 ところが竹石の走りは重く、まったくペースが上がらない。駒大や国学院大、法大に抜かれるまさかの展開になり、前回より2分以上遅い1時間14分52秒で区間13位。東洋大だけではなく、東海大にも大きく差を広げられ、青学大の往路は東洋大と5分30秒差、東海大とは4分26秒差の6位という結果になった。

 原監督は、竹石の5区と小野田勇次(4年)の6区は早くから決めていたはず。その安心感が、これまで直前の選手の体調を見極め、戦略ミスがなかった原監督の目を狂わせたのかもしれない。

「4区と5区は私の誤算。チームが右肩上がりの時は成果が出てうれしいばかりだが、5連覇を狙ううえではその進化を止めて、これまでの4年間と比べてどうかというところで終わっていた」と原監督は反省の弁を口にした。

 だが、青学大は復路で驚異的な底力を見せた。9区と10区のエントリーは全日本でともに区間賞を獲得した吉田圭太(2年)と吉田裕也(3年)。鈴木塁人を、これまでも重視してきた8区に当日変更で入れると予想された。だが原監督は、8区には1年生の飯田貴之を入れ、10区に鈴木を入れてきた。6区の小野田と7区の区間記録保持者・林奎介(4年)には絶対的な自信を持っているだけに、そこで差を詰め、最終的には9区と10区で勝負をつける戦略をとったのだ。

 一方、東洋大は6区の今西駿介(3年)が区間新で走った青学大の小野田に15秒差の58分12秒で食い下がり、7区の小笹椋(4年)はひざの故障を抱えながらも区間3位の粘りの走りを見せた。また、8区の鈴木宗孝(1年)は東海大の小松陽平(3年)に突き放されて51秒差の2位に落ちたが、青学大の飯田には10秒負けただけで大崩れはしなかった。

 ところが、東洋大は9区と10区で区間19位と10位。これには酒井監督も「想像もしてなかった。僕が監督になってから9区と10区で区間ふた桁は初めてです」と驚きを隠せなかった。

 この結果、東洋大は青学大に9区で8秒差に詰められ、10区であっさり逆転されて2分13秒差をつけられてレースを終えた。東洋大を上回るという点では、青学大の戦略は正解だったということだ。

「8区までは想定どおりだったというか、よく頑張ったなと選手たちの健闘に感動する場面がありました。ただ、全体的に見ると1枚足りなかったですね。前回7区区間3位になっていた渡辺奏太(3年)が今年も使えれば8区までに起用していたし、8区の鈴木は淡々と走るタイプだったから、(本当は)9区で走る姿を見たかった。9区の中村拳梧(4年)も10区だったらもっといい走りをしていたと思う」

 こう話す酒井監督は大会前、青学大の選手層の厚さを警戒して、復路の前半でも勝負ができなければいけないと話していた。だが、結局は渡辺が使えなかったこともあり、往路勝負に徹した。

「もちろん復路に1枚残しておくことも考えました。そのひとりを8区に持ってくるのも手かなと。鈴木を8区ではなく往路の4区に持っていって、相澤あたりを8区に回すのも面白いかなと思ったけど、今回は流れを重視しました。(復路でも勝負するための)そんな作戦は次に取っておきます」

 今回は往路優勝が東洋大、復路優勝は青学大、そして総合優勝が東海大と、すべて違う珍しい結果。東海大は全10区間で区間1位は1区間ながら、2位が5区間という総合力の高さを見せた。また、青学大は区間1位が4区間で2位が2区間というすばらしい結果を残している。

 次回に目を向けると、東海大は今回出場できなかったエース格の關颯人(3年)のほかに、今回5区の西田と6区の中島が残り、優勝を経験したことで選手たちが自信をつけて盤石と言える。東洋大も今回走った4年生は3人だけで、主力と特殊区間で走った選手が残る。

 だが、青学大は4年生5人が卒業してしまい、戦力ダウンが気になる。そんな中で原監督がどんなチームを作り上げてくるか。来年の箱根駅伝は、穴がない東海大に対し、原監督や酒井監督がどんな戦略で挑んでくるかが見どころになりそうだ。