今年の出雲駅伝と全日本大学駅伝を隙のない走りで制した青山学院大が、調整力の確かさに加え、層の厚さと各選手のレベルの高さを誇り、優勝候補と目されている第95回箱根駅伝。その厚い壁を壊す可能性を持っているのが、スピードランナーを擁し、その…

 今年の出雲駅伝と全日本大学駅伝を隙のない走りで制した青山学院大が、調整力の確かさに加え、層の厚さと各選手のレベルの高さを誇り、優勝候補と目されている第95回箱根駅伝。その厚い壁を壊す可能性を持っているのが、スピードランナーを擁し、その主力となる3年生を10人エントリーしてきた東海大と、前回は往路優勝を果たして総合2位になった東洋大だ。



前回の箱根では6区を走り青学大の小野田勇次と戦った東洋大の今西駿介

 前回大会で東洋大は4年生の故障者が多く、チームを引っ張っていくには不安と考え、当時3年生の小笹椋を駅伝主将に任命。さらに出雲と全日本に起用していた3人を含めて4人の1年生を主要区間で起用し、「1年生を使うにはこっちも覚悟が必要だった」と酒井俊之監督は振り返る。

 箱根初出場となる2年生も3人使うという、若いチームで挑戦しながらも1区の1年生の西山和弥が青学大に25秒差をつける区間1位で滑り出すと、2区の2年生の相澤晃も区間賞のふたりと3秒差の区間3位で1位をキープ。3区は3年のエース・山本修二が区間賞の走りで2位以下を引き離し、4区も1年の吉川洋次が1秒負けの区間2位ながら、それまでの区間記録を1分以上上回る快走で、2位に上がってきていた青学大との差を2分03秒差にまで広げた。5区では1年の田中龍誠が青学大に36秒差まで詰められたものの、往路優勝を果たしている。

 大きな可能性を持ったまま今シーズンを迎えた東洋大。今年の出雲と全日本は2位、3位と不本意だったが、酒井監督は「ともに青学大に先手を取られる展開になりましたが、もうひとつかみ合っていれば(勝つ)可能性はあったと思う」と振り返る。それぞれ2区を走った西山(2年)が力を発揮しきれていなかったが、出雲は5区の今西駿介(3年)と最終6区の吉川(2年)が区間賞獲得の走りで青学大を追い上げた。

 また、全日本は1区11位からの展開で2区の西山が14位まで順位を下げたが、その後は少しずつ追い上げて7区の山本(4年)で3位になり、8区の相澤(3年)は青学大の梶谷瑠哉(4年)を21秒上回るタイムで区間賞を獲得。

 前回の往路を区間上位で走っている山本、相澤、西山、吉川の4人の主力が今回のキーポイントになると酒井監督は言う。昨年は全日本の2区で区間2位になり、箱根でも7区区間3位だったスピードランナーの渡邊奏太(3年)がエントリーメンバーに入れられなかったのは誤算だが、前回しっかり走った選手たちは高い意識を持って着実に力を付けてきている。

 今シーズンもエースを担う山本は、前回の箱根の後、疲労骨折が判明して練習に復帰できたのは7月からだったが、「自分の体と向き合うことができた半年間で無駄な時間ではなかったし、これまで以上にフィジカル強化にも取り組んできた。出雲は8割もいっていない状態で、全日本もまだ走り込み不足で、そこからしっかり走り込めている」と、調子を上げて本番に臨もうとしている。

 また、3年の相澤も「やっぱり自分はチームにとって区間賞を取らないといけない存在だと思う。山を登る人がやるくらいの練習をしないと2区の最後の坂は上れないので、昨年より山の練習量を増やした」と前回3秒差で逃した2区の区間賞獲得を狙う。

「西山も出雲と全日本はよくなかったですが、その後は練習も継続できている。彼も昨年の12月はほとんど走れない時期もあったんですが、それに比べるとすごく練習ができているので安心しています。それに吉川も出雲の後は少し不安が出て全日本は外れたものの、箱根に向けては仕上げてくるはず」

 こう話す酒井監督が注目しているのは、前回6区を走って59分31秒で区間5位になっていた今西(3年)だ。「昨年の彼は部内の選考会の後で6区に行くと決めて、その後の出雲があまりよくなくて全日本はメンバーから外れての箱根というところでした。箱根を終えてから意識が変わり、その後のアジアクロカンでは実業団の選手を抑えて銅メダルを獲得していますし、世界学生クロカンにも出場しました。

 その点では、経験もだいぶ上積みしていて出雲も昨年と同じ5区を走って区間賞を獲得しているし、全日本も14位と悪い位置でもらっても区間4位で順位を8位まで上げる走りもできている。この1年間で、だいぶ頼もしい選手に成長してくれたなと思っています」と評価する。

「青学大はたぶん復路の選手層が一番厚いと予想されるので、そう考えた場合7区と8区で勝負を決めてくるという戦術で来るのではないかと思います。前回は7区を終えた時点で”勝負あり”というような展開になってしまったので、往路を取れても取れなくてもそこまでは接戦で持っていきたい。対青山を考えれば、ほかにも往路だけでも取りたいと狙ってくる大学もあるだろうから、前半は多分混戦になると思います。その混戦から3、4区で抜け出しても5、6区の展開次第で7、8区の走りは全く変わってしまうので、7区と8区でうまく前の方につけられれば面白いかなと思います」

 青学大の原晋監督は、今年5区にも自信を持っていると伝えられている。前回1時間12分49秒で区間5位だった竹石尚人(3年)がさらに力をつけているのだろう。それ以上に3年連続で6区を走っている小野田勇次(4年)は57分台の区間記録を出してもおかしくない状況だ。

 酒井監督はこう話す。

「小野田君に加えて7区に前回区間記録を更新した林奎介(4年)君が来れば、これまでの箱根の歴史の中でも相当レベルの高い6区、7区になってくる。さらに8区にもしっかりした選手を持ってくると思うので、東洋もその区間を区間3番以内で行くか、できれば7区で区間賞を取れるくらいに持っていければと思う」

 どちらにしても前回4区まで、あれだけ突っ走って往路は36秒差だったように、1位で入っても青学大との差はあまり広げられないだろうという覚悟もしている。

 前回と同じように2区相澤、3区山本、4区吉川という布陣で行くなら、1区がトップで来なくてもある程度の秒差でくれば、相澤で先頭に追いつき、山本と吉川で抜け出すという戦略で行けるだろう。そうなれば、1区は無難に走れる1万m29分台前半の選手を置き、西山を青学大に対抗させるために7区に置いて、区間賞を狙わせて勝負に出ることも考えられる。

「7区を終わった時点で前に出ていれば、それは二重丸でしょうけど、そういう展開は厳しいと思うので。青学大がどういう戦術で来るかわからないですが、うちとしては復路の序盤の6、7、8区をどう耐えるかでしょうね。1年の鈴木宗孝も淡々と走る復路タイプで9区を走りたいと言っている頼もしさもありますが、今年はエントリーメンバーの中で2年生が8人と多いので3大駅伝を走っていない選手にもチャンスを与えたいという思いもある。その中で調子のいい選手を往路に使い、前回往路に使った選手を復路に使えるようになれば面白くなるなと思います」

 酒井監督がこう話すように東洋大の総合優勝へのカギは、復路にどれだけの力のある選手を残せるようになるかだろう。