2017年春、初めて日本女子プロツアーに参戦した”セクシークイーン”アン・シネ(28歳/韓国)。今年も日本ツアーの試合に出場し、スタイルのよさを強調したウェアを颯爽と着こなして、男性ファンを魅了した。ラウンド中は多くのファンが彼女の組を追…

 2017年春、初めて日本女子プロツアーに参戦した”セクシークイーン”アン・シネ(28歳/韓国)。今年も日本ツアーの試合に出場し、スタイルのよさを強調したウェアを颯爽と着こなして、男性ファンを魅了した。ラウンド中は多くのファンが彼女の組を追いかけ、ラウンド後はサインに応じる彼女の前に長蛇の列をなした。

 昨年は『Yahoo!検索大賞2017』のアスリート部門を受賞。今年に入っても人気は衰えず、5月には大胆な水着姿を披露した写真集も発売した。”アン・シネブーム”は、ひとつの社会現象になったと言える。



日本ツアーでの活躍が期待されるアン・シネ

 とにかく、彼女はプロとして、ギャラリーを楽しませる術を心得ており、話題を欲するメディアへの対応も申し分なかった。試合のラウンド後、必ず行なわれるメディア向けの囲み取材では、「明日のウェアは何色?」と問われることが恒例となり、アン・シネ自身、その質問に快く答えていた。

 しかも、そのときの彼女はリップサービス旺盛だった。「明日は情熱の赤(のウェア)で」とか、「明日はミステリアス(色合い)に」などと、あらゆるメディアの見出しになるような回答を必ず用意していた。

 そうした取材対応や立ち振る舞いを見ていると、彼女は自分の置かれている立場を熟知していることがわかる。その分、自分の見せ方がうまいのだ。

 アン・シネに以前、お洒落に着こなすウェアについて話を聞いたことがある。すると、彼女はこんなふうに話していた。

「プロだから、きちんと(自分を)見せることも意識していますが、それよりも私がウェアにこだわるのは、自分が気に入っているモノを着ることで、気分が晴れやかになり、気持ちよくプレーできるからなんです。

 私の気分も上がり、成績もよくなれば、ギャラリーも一緒に盛り上がれますよね? そうやって、私のプレーを見て、ギャラリーの方も一緒に楽しんでもらえるなら、それはすごくありがたいことです」

 周囲への配慮も抜群のアン・シネ。頭の回転が速く、”プロ意識”の高い選手であることは間違いない。

 ただ、もどかしいのは、満足できるような成績が残せていないことだ。

 冒頭でも触れたとおり、今季も日本ツアーに挑んだが、シード権がなく、出場試合は限られた。今季ツアーのQTランキングが71位だったため、主催者推薦でしかレギュラーツアーへの参戦は叶わず、わずか6試合の出場にとどまった。そのうち、4試合で予選落ちし、5月の中京テレビ・ブリヂストンレディスにおける39位タイが最高位だった。

 その結果、6月以降は戦う場所を求めて、2019年までのシード権がある韓国ツアー(※2015年に韓国の国内メジャーで優勝。4年シードを獲得)をメインにして戦ってきた。しかし、同ツアーでも14試合に出場したが、賞金ランキング109位という結果に終わった。

 韓国ツアーの出場権は来季も残っているため、2019年も戦う場所を失うことはないが、日本ツアーで成績が出ないアン・シネのモチベーションは下がる一方だった。そして、シーズン終盤まで「日本のQT(※)を受けるかどうかわかない」と語っていた。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。現在はファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの『リランキング』までの大半の試合には出場できる。

 ということは、来季はアン・シネがプレーする姿を日本で見られなくなるということ。日本のファンにとっては、残念なニュースになると思われた。だが--。

「我々が(アン・シネを)何度も説得して、彼女はギリギリのところで日本のQTに出る決心に至った」

 そう語るのは、アン・シネの日本でのマネジメントを担当する『NOW ON』の松宮由季氏だ。

「日本でこれだけ注目された選手。チャンスがあるなら、そこに挑戦すべき、と懸命に説得しました」

 ところが、アン・シネは当初、なかなか首をタテに振らなかったという。日本でいい結果を出せないことで、完全に自信を失ってしまっていたからだ。

 それが、土壇場になってQT参戦を決断したのは、「待っている日本のファンがいたから」とアン・シネは語った。

「(日本でのプレーに)本当に自信を失ってしまっていたんです。私に期待をしてくれる人たちを、失望させてしまうことがとてもつらかった。いい姿を見せられないので、とてもつらい思いを抱えていました。

 そうした状況のなかで、日本のファンは、もちろん私の結果にも期待してくれていると思うのですが、それ以上に(私が)元気にプレーしている姿を見て、楽しんでくれているんだ、ということがよくわかりました。そういう思いを知ったとき、『もっと日本でがんばりたい』『もっとがんばらないといけない』という思いが(自分の中で)膨らんでいきました」

 そうして、アン・シネは10月のセカンドQTから参戦。そのセカンドQT、続くサードQTは難なく突破し、無事にファイナルQTへと駒を進めた。

 セカンド、サードQTの出来からして、普段どおりのゴルフができれば、ファイナルQTでも上位争いに加わって、来季の出場権獲得は濃厚と見られていた。しかし、初日「76」と出遅れたアン・シネ。その後、巻き返しを図ったが、結局4日間通算2オーバー、51位に終わった。

 それでも、戦いを終えたアン・シネは清々しい表情を見せた。悔いなく、やり切ったという思いが、その表情からにじみ出ていた。

「これまでの日本でのプレーで、萎縮したり、自信をなくしたりした自分がいました。つらい時間を過ごしましたし、『スランプだった』と言えば、そうとも言えるでしょう。それくらい(日本の)コースで自信をなくしたので、来年は(日本ツアーで)自信と気持ちの強さを取り戻したい」

 QT51位という結果では、来季レギュラーツアーでのフル参戦は厳しいが、2018年シーズンの実績を鑑みれば、同順位でも推薦を含めれば、10試合前後の出場は可能だ。その事実を聞いたアン・シネは、「日本で出られる試合があれば、最大限出場したい」と、来季も日本ツアーの試合出場に前向きな姿勢を見せた。

 ただ、韓国女子ゴルフ協会が同ツアーのシード権を持つ選手に対して、いくつかの規定を改定すると突然発表。そこには、海外ツアーの出場試合を3試合に限定するというものもあるという。はたして、アン・シネはどういった選択をするのだろうか。

 何はともあれ、日本から”完全撤退”を思いとどまったアン・シネ。それこそ、自らを応援してくれる日本のファンを思ってのことだが、彼女には”日本で結果を出したい”という強い思いもある。そうすれば、ファンがもっと楽しんで、喜んでくれると思っているからだ。

 2019年、”セクシークイーン”がトーナメントで上位争いを演じる姿をたびたび披露し、再ブレイクが巻き起こることを期待したい。