一つにミスが命取りとなるハイレベルな争いから中一日空いて行われた女子フリースケーティング(FS)。早大勢二人は対照的な演技となった。ラストシーズンとなる中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)は、観客が見守る中温め続けてきたプログラムを披…

一つにミスが命取りとなるハイレベルな争いから中一日空いて行われた女子フリースケーティング(FS)。早大勢二人は対照的な演技となった。ラストシーズンとなる中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)は、観客が見守る中温め続けてきたプログラムを披露。ノーミスとはならなかったが、思いのこもった演技を披露し笑顔で大舞台を後にした。一方永井優香(社2=東京・駒場学園)はジャンプミスが相次ぐ。納得のいかない演技に、悔し涙を流すこととなった。

「何年ぶり?っていうくらい久しぶり」となる第一滑走での登場となった中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)。大歓声の中にこやかに入場すると、すぐに表情を変えて全日本選手権での最後の演技に気持ちを集中させた。FS曲「タイタニック」は、以前からずっと憧れてきた演目だ。真剣かつ切ない眼差しが、演技開始前から観客の涙を誘った。 演技冒頭、スピードに乗って挑んだトリプルトーループートリプルトーループの連続ジャンプを美しく着氷。その後2つのジャンプに多少乱れが出たが、転倒は免れて確実に演技をつないでいく。複雑な構成のスピンでは、早い回転の中でも一切ぶれることのない軸の安定感が目を引いた。曲調の変化とともに表現は明るさを増し、優しげな笑顔で瑞々しく魅せる。ミスを引きずらずに難なくトリプルサルコーを着氷した後、すぐに腕を振り下ろす振り付けがぴったりとはまった。ステップでは、客席から湧き上がった手拍子とともに、きらめく音楽を全身で表現した。ぐっとしゃがみこむ動きや軽やかなジャンプなどで、様々な音を的確に使っていく。後半になると、見せ場となるダブルアクセルーシングルオイラーーダブルサルコーの三連続ジャンプ、続くトリプルサルコー―ダブルトーループの連続ジャンプを次々に決める強さを見せて観客を一層惹きつけた。技と技の合間には、普段の練習でも大切にしているという滑らかなスケーティングをたっぷりと披露する。情感豊かな音楽とドラマチックな踊りをよく合わせ、柔らかな雰囲気を作りながら会場をひとつにまとめあげた。最後のジャンプとして流れのあるダブルアクセルを成功させると、高速のスピンで観客を盛り上げながらフィニッシュポーズをとった。こみ上げるものを堪えて見せた最高の笑顔にリンク全体が拍手とすすり泣きに包まれ、客席から「ありがとう」の声がひときわ大きく響いた。 今回の演技では、ほとんどの要素で出来栄え点プラス評価を獲得。支えてくれた全ての人への思いを込めて、「私はここにいるぞ」という貫禄にあふれた演技となった。たくさんの観客の心を動かし、「魅力のある選手なのかな」と語り満ち足りた表情を見せた。それでも「練習したことを全て出したかったっていうのはある」と、上を目指す意欲は尽きない。残り僅かとなる現役生活ではあるが、自身の納得のいく集大成に向けた輝きはどこまでも増していくだろう。


スピンで魅せる中塩

(記事 犬飼朋花、写真 尾崎彩)

「終わった直後は何でだろうと思って、思わず涙が出てしまいました」。永井は演技終了後このようにこぼした。東日本選手権の狭い枠を勝ち取り挑んだ全日本選手権。全日本に進めなかった仲間のためにもいい演技をしたいと意気込んだが、SPでは24位。なんとか進出を決めたFSで悔しさを払拭したかったが、それは惜しくも叶わなかった。 「優香ちゃん、がんばれ!」演技直前、ファンからの声援が次々と永井に向けて飛ぶ。「すごい声援がちゃんと聞こえてその人たちの気持ちを裏切りたくないという気持ちがありました。そしてそれ以上に自分のスケートだから自分のために滑らなきゃという風に思っていました」。直前に万感の演技を終えた中塩も拍手を送る中、胸に手を当て気持ちを落ち着け、スタート位置でポーズをとる。珠玉のプログラムを披露したいところだったが、ジャンプでは冒頭から精彩を欠く。永井の代名詞であるトリプルルッツを2本予定していたが、どちらもシングルルッツになる。その後のジャンプも抜けが目立ち、演技序盤は永井の持ち味である幅のあるジャンプは鳴りを潜めた。しかし、後半のトリプルループは手をつきながらも堪えると、ダブルアクセル―ダブルトーループを成功させる。そして東日本学生選手権後に修正を行ったトリプルサルコーでは回転不足を取られながらも着氷し、演技後半には意地を見せた。 ジャンプで苦しんだ一方でスピンやステップでは永井本来の存在感を示した。随所で見せるしなやかな腕の動き、コレオシークエンスの美麗なスパイラル。そして明確なポジションで、最高難度のレベル4を獲得した2つのスピン。そこには気品溢れる永井本来の演技があった。 SP後の公式練習、6分間練習では美しいジャンプも見られた中での不本意な演技。「(SP後の練習や6分間練習では)ルッツも跳べていたので普通に臨めるはずだったんですけど、本当にすごく混乱しています。」と、戸惑いを口にし、「自分も、応援してくれる方も裏切るような形になってしまった」と振り返った。しかし、苦境の中でも『シンデレラ』をあきらめず最後まで演じきった姿は、観客の心に響くものがあっただろう。 「普通にスケートに取り組んできていたのに、今シーズン1回も良かったと思えるような演技ができていないので何がいけないんだろう」と困惑した様子で今季をここまで振り返った永井。しかし「もっといい練習を続けていくことは意識できるとおもうのでそこは考えたいです。そして試合でちゃんと跳ぶという目標はどうすれば達成できるのか全く分からなくなってしまったので、いろいろな人と話して何かひらめくものがあればいいなと思います」と懸命に前を見据えた。これからも続くスケート人生のため、突破口を模索し自身のスケートをさらに高めていく。そして来年、再来年、今度こそはこの大舞台を笑顔で終えてみせる。


丁寧にステップを踏む永井

(記事 糸賀日向子、写真 尾崎彩)

結果

▽女子

中塩美悠 22位 147.46点 (FS 96.60点)

永井優香 24位 128.47点 (FS 78.88点)

コメント

中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)※囲み取材より抜粋

――1番滑走でしたがいかがでしたか

やっぱり1番滑走が何年ぶり?ってくらい久しぶりだったので、6分(間練習)の前からすごい緊張してて。もう6分じゃなくて4分ぐらいだなと思いながら、どうしようっていう焦りもちょっとあったので、焦りが演技に出ちゃったかなっていうのはあります。

――終わった後の表情は、少し込み上げているようにも見えましたがどんな気持ちでしたか

やっぱりすごい、やっぱり10分しかなかったんで、6分(間練習)も含めて。あっけないなと思って、あっもう終わっちゃったんだと思った時にちょっと込み上げちゃいました。

――この全日本は今までの大会の中でもどういう大会になりましたか

一番、気持ちの面で精神的に落ち着いていた大会かなと思います。ほとんど周りは年下とか知り合いばっかりだし、もうペアの人もダンスの人も、カテゴリーの違う男子とかでも知り合いばっかりだし、周りのお客さんがすごく応援してくれるし、もう全てが味方だなと思って。競技というよりも、自分の集大成っていう面ですごく精神的に安心してできた試合かなと思います。

――これまで積み上げてきたものがメンタルに良い影響を与えたのでしょうか

そうですね。やっぱりここまで続けてくるのには、見えないところでのいろんな葛藤とか苦労した面もあるし、いろんな面で挫折も経験して、自分も強くなれたのかなと思って。そういったところでちょっと自信になってたのかなとは思います。

――「タイタニック」の選曲はどなたがされたのですか

私が自分で。映画を見た時からずっと使いたかったんですけど、でもその……大恋愛じゃないですか。そんなことしたこともないんで、ちょっと気持ちが分かんなくって。「あぁ今じゃないな、今じゃないな」と思ってたらなんか22歳になっちゃって、あぁ今しかないなと思って。

――じゃあ機は熟したというか

はい。

――そんな念願のプログラムを滑るというのはどんな気持ちでしたか。練習なども楽しくなりますか。

鈴木明子さんの振り付けは踊ってて不思議と、踊れば踊るほど疲れるというよりも楽しくなって、もっと踊りたくなる振り付けです。すごく踊っていて楽しいから、練習もすごく楽しくて。その様子を見て林(祐輔)コーチも「楽しそうだね、いいね」って言ってくださるので、やっぱり鈴木明子さんの振りだなと思いました。

――鈴木明子さんとは今までにも一緒にお仕事というか、振り付けてもらったりなどはあったのですか

これは一度もなくて、私なんかいいのかなと思いながら恐る恐る頼んだら、いいって言ってくださったので。初めてでした。

――中塩選手のご希望でしょうか

そうです。もう大ファンなんで、スケオタとして頼んでみました。

――鈴木さんの好きな演技は

1番衝撃を受けたのは「O」だったんですよ。明子さんの鳥の演技がすごく綺麗で、鳥を想って演技していたんだと思うんですけど、「タイタニック」の振り付けの時を見ても、チラチラ「O」が見えるんですよ。明子さん独特の肩甲骨の使い方とか手の使い方とかが、それ自体が明子さんの魅力というか体の動かし方なんだなと思って。私は「O」ですごく感銘を受けたというか、感激したんですけど、全ての明子さんの動きが素晴らしいなと思いました。

――この「タイタニック」を振り付けた時や試合で滑った時に鈴木さんから何かアドバイスは受けましたか

手直しとかも頼みたかったんですけど、明子さん自身がショーとか公演とかでとっても忙しいのでなかなか会う機会はなかったんですけど。人づてに、「とってもいいプログラムができたんだ、美悠ちゃんのプログラムすごい良いプログラムができたんだ」って、そうやって聞いたよ、って周りの方から間接的に聞いたりとか。そういうところでちょっと嬉しかったりとかっていうのはありました。

――今シーズンはロヒーン(ワード、SP振り付け)と明子さんとで念願のシーズンになったのではないでしょうか

そうですね。さっきも言ったんですけど、こんなにプログラムに想いを込めて滑ったことがこの十何年のスケート人生であんまりなかったので。すごく思い出に残るプログラムになったし、スケートってこうなんだな、って、表現ってこういうことなんだなっていうことをこの1年すごく学びました。

――様々な葛藤があったとおっしゃられていて一度はお辞めになろうと思われたとのことですが、林先生の元での時間はどのようなものでしたか

一度じゃないですね。もう何度もありました。やっぱり広島にいた頃は夏にリンクがなくて、車で行ってすぐジャンプ跳んで、とりあえず跳んで帰る!みたいな。何も基礎もできず、スケートというものを知らず、ただ跳ぶのが楽しいだけのものだったのに、林先生のところに行ってサークルとかを練習して、スケートの使い方、体の使い方とか、表現の仕方とか。やっぱりそれは林先生だけではなくて、田中刑事選手(倉敷芸術科学大)とか渡邊純也選手(関学大)とか、山隈選手(太一朗、ひょうご西宮FSC)とか、そういう力強い男子の選手たちの演技も間近で見ることもできて、その彼らの信念とか考えてることとか、先生の考えてることとか。やっぱり歌子(長光)先生は私の中ではとっても大きな存在で、コーチの鏡というか、人間としてとっても尊敬できる人に出会えただけでも、私はこのチームに来てよかったなと思いました。

――続けて来て本当に良かったんじゃないのかなとそのお顔を見ると思うんですが

そうですね。まだ言えないんですけど、私の進路、今後の人生の進路を決めたのはやっぱりこの3年間があったからで、この3年間がなかったら絶対違う人生になってたと思うし、スケートはこんなに好きじゃなかったと思います。だから本当にこの3年は人生の中で一番多く学んで、一番濃い3年でした。

――これからの人生も素敵なお姿を見せていただけるということで

そうですね。だいぶ自信をこの3年でつけることができたので、競技とかではなく人間としての自信をつけることができたので。社会に出るのもちょっと自信を持っていけるかなと思います。

――スケート関係ですか

言えないんです、言いたいんだけど、言えないんです。

――楽しみにしています

はい、ありがとうございます。

――いろんな思いの詰まった2年ぶりのフリーだったと思いますが、今回のフリーで一番伝えたかったこと、見て欲しかったことはなんですか

やっぱり、この振り付けをしてくださった鈴木明子さん、私のコーチである林先生、歌子先生、淀(粧也香)先生も、この衣装を作ってくださったすやまさんという方も、編曲してくださった方も、全ての人が曲を作り上げた時に「これを全日本で見るのを楽しみにしている、これを全日本で聞くのを楽しみにしている、これを、この踊りを、美悠ちゃんの踊りを全日本で見るのを楽しみにしている」って。全ての人がこの「タイタニック」が見たいと言ってくださった、それが私の原動力でもあったし、それを見せることができたことがすごく満足というか。お世話になった方々にちゃんと届けることができた、この舞台に立てたことがすごい目標でもあったし、「ここに私はいるぞ」っていうのが伝えたかったことかな。

――本当に素敵な演技だったんですけれども、人の心を動かす演技ができたというのはご自身の中ではどんな感触ですか

なんか自分で言うのはおかしいかもしれないけど、魅力のある選手なのかなとちょっと自信になります。

――本当に素敵な最後の全日本になったといういい締め、ひとつ集大成になりましたか

やっぱり練習したことを全て出したかったっていうのはあるんですけど、幸運なことにあと2回全国規模の試合があってリベンジする機会をいただいてるので、そこにまたひとつ目標ができたかなと思います。

永井優香(社2=東京・駒場学園)※囲み取材より抜粋

――演技の出来について自分ではどのように感じていますか

せっかくフリーに進ませてもらったのにこのようなふがいない演技で、残念な気持ちでいっぱいです。

――終わった後の涙はどのような気持ちだったのでしょうか

正直この試合に来るまでのトータルの練習としては別にそこまで悪くなくてきょうみたいな演技のことはありませんでした。だからとにかく今は悔しいというよりかは混乱した気持ちで、終わった直後は何でだろうと思って思わず涙が出てしまいました。

――SPが終わった時点ではFSにいけないという気持ちが強かったようですが、その後いけるようになって気持ち的にはうれしかったと思うのですが

本当に通らないと思ってインタビューを受けていたので、すごく最初はびっくりしてその時は終わったと思ってか、体の力も抜けていました。でも次の日の公式練習ではここに来てからはないようなジャンプが跳べて、きょうの朝もまあ良かったです。それで6分間(練習)の時も良くはないけどルッツも跳べていたので普通に臨めるはずだったんですけど、本当にすごく混乱しています。

――会場からの声援もありましたがその点についてはいかがでしたか

私のFSを見られるのが嬉しいと言ってくれる方もすごくたくさんいたし、今日もすごい声援がちゃんと聞こえてその人たちの気持ちを裏切りたくないという気持ちがありました。そしてそれ以上に自分のスケートだから自分のために滑らなきゃという風に思ってたんですけど、また自分も応援してくれる方も裏切るような形になってしまったので。難しいなと思います。

――後半では成功したジャンプもあったと思うのですが、どのように気持ちを切り替えたのでしょうか

降りたジャンプというのもちゃんと降りたのダブルアクセルくらいで、アクセルはいつでも跳べるジャンプだと思っています。きょうは成功したジャンプは切り替えるというよりかは、普通に跳ぼうと思ってやっただけです。

――今季をここまで振り返っていかがですか

今シーズンに入ってから特別怠けていたわけでもないのに、SPの日にも言ったんですけど、人に自慢できるくらいの練習をしてきたわけではないし抜けてた部分もたくさんあるのでそこは反省すべき点なのかなと思います。でもその中で普通にスケートに取り組んできていたのに、今シーズン1回も良かったと思えるような演技ができていないので何がいけないんだろうという、はてなでいっぱいです。

――SPを終えてからの2日間コーチからはどのような言葉がありましたか

とりあえず滑れてよかったねというのと、せっかく滑れるから思い切って頑張ろうみたいな感じでいってたんですけど、思い切ったつもりが思いっきりパンクをしてしまったのでなんだかなあという気持ちです。

――スケートに対してポジティブな気持ちというのはずっと持てているのでしょうか

毎日ポジティブでいられるかといえばもちろん落ち込む日もあるしイライラして練習にならない日もありました。でもまあまあポジティブにはやってきたつもりで、でもそうやって思ってるのがいけないのかなとか今ごちゃごちゃした気持ちです。

――今後に向けてどのようなところを良くしていきたいですか

もっといい練習を続けていくことは意識できるとおもうのでそこは考えて、あと試合でちゃんと跳ぶという目標はどうすれば達成できるのか全く分からなくなってしまったのでいろいろな人と話して何かひらめくものがあればいいなと思います。