2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを…
2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞く。
プロスポーツクラブが地方を元気にするプロジェクトを発足 名前:安部未知子(あべ・みちこ)さん 職業歴:2018年~
仕事内容 ・サッカークラブの事業サポート ・企業への営業 ・新規事業開発&立ち上げ
取材・文/佐藤主祥
《スポーツの仕事・安部未知子さん記事前編》 2018年5月に“プロスポーツクラブが地方を元気にするプロジェクト”を発足させ、フリーランスとして活動し始めた安部未知子さん。第1弾の事業として動き出したのは、大阪体育大学時代にインターンシップとして働いていた、J3リーグに所属するガイナーレ鳥取を応援するプロジェクト『サッカニ』だ。
これは、東京都内でイベントを開催することで、以前よりガイナーレ鳥取がプロモーションしていた鳥取産の紅ズワイガニの、販路拡大に向けた営業活動を行うもの。これを通じて、クラブが応援する鳥取県を東京でも応援するプロジェクトだ。立ち上がげた経緯を安部さんは、こう話した。
「BNGパートナーズで働いていた際に、交流のあるサッカークラブの経営者とコンタクトを取っていたのですが、その中の一人がガイナーレ鳥取・代表取締役社長の塚野真樹さんだったんです。現在のクラブ経営状況を塚野さんに聞いてみると『今、県内のカニをプロモーションしてるんだよ』っていう話が出てきて。私はとっさに『そのカニを東京でプロモーションするお手伝いをさせてください!』と事業のサポートを志願したんです」
実際に2018年の7月と9月には『「サッカニ」なぜJクラブがカニをプロモーションするのか ~地方創生とスポーツの関係~』というイベントを開催。鳥取産の紅ズワイガニや日本酒を用意して、スポーツ好きの人や飲食店の経営者と交流を図った。 都内での販路開拓においては、すでに塚野氏が都内の飲食店経営者との結び付きにより、鳥取境港直送の生紅ズワイガニを使用した“カニ食べ放題”の店をプロデュース。現在は都内に2店舗を展開しているという。それに加え、アジア圏に向けて鳥取の名産品を輸出する準備も進めているという。
「先日、塚野さんと世界に向けた食の市場のプラットホームを提供するベンチャー企業の経営者を交えて『この事業を一緒にやっていきましょう』とある程度話がまとまったところなんです。ガイナーレ鳥取のようなJ3、あるいはJ2に所属する地方のクラブは、人口減や経済低迷により首都圏クラブ以上に収益増を実現することが難しく、既存事業だけで収益を増やすにも限界がある。だからこそ、この“サッカニ”のようなプロジェクトを立ち上げて、地元産業を活性化することにも力を注ぐ。そのために、私自身がカニなどの名産品をプロモーションするというより、サッカークラブの“ハブ役”として徹し、チーム方針にマッチする様々な企業を結びつけていきたいと思っています」
だが、ただ単に『安くて美味しいから』『地元の名産品だから』という理由だけでは販売数を伸ばすことは難しい。その壁を乗り越えるために安部さんが目指すのは、商品やサービスの造り手の気持ちや想いに魅かれ消費する“共感消費”。“このカニは、こういうストーリーで生み出された、だからこんなに美味しいんだ”と地元Jリーグクラブをはじめ、地域一体となってその蟹の美味しさを伝え、共感・応援できる要素を詰め込んでいく。そうすれば、クラブだけでなく、鳥取県全体の活性化に繋がっていくと考える。 安部さんは、サッカニと同時にもう一つの事業を試みている。それは“切り花”に関する事業。一見、サッカーとは関係ないビジネスに思えるが、将来を見据えると、Jリーグクラブの地域貢献『ホームタウン活動』において重要な事業となってくる。その概要について、説明してくれた。
「切り花の生産者は、花を切ったら、その商品を花市場に持っていって競りにかけ、値付けがされるんですね。ただ細かな規格が設定されており、長さが短かったり、少しでも曲がっていたりすると、商品として扱えなくてってしまうんですよ。全体生産の2~3割程は廃棄処分されるといわれています。
ですが実際のところ、規格外で市場に出せない切り花でも、花束にしてしまえばパッと見ても全然分かりませんし、消費者にとっては安く購入できるのであれば、それはそれでありがたい。その規格外のお花を流通させようとしているベンチャー企業hananeがあります。ご縁がありhananeの経営者と事業について話をする中で、プロスポーツクラブとの親和性があると感じました。具体的には、地元のサッカークラブにあるクラブハウスやスタジアムの余った敷地を規格外の花の集荷場として借りることを提案。試合やイベントで花を売るというわけではなく、単純に集荷場として空いている場所を使わせてもらうんです。
プロスポーツクラブ側としては、ホームタウンの生産者をダイレクトに応援することができ、また賃借料収入が得られる。さらに、今までスポーツと接点のなかった切り花の生産者が定期的にクラブに足を運ぶことになるので、そのクラブへのロイヤリティも高まると考えています。流通量が増えれば増えるほど、地元生産者は潤い、消費者も用途に応じた安価なお花を手にすることができ、地元産業が活性化することでプロスポーツクラブも潤う仕組みになります」
すでに6〜7クラブの経営者と話を進めており、近いうちに集荷場としてスペースを借りられる具体的なチーム名を明かすことができるという。
だが、J1リーグの強豪になるほど、既存スポンサー以外で新規事業を起こすためには大義名分がなければ難しい。だからこそ、地域活性化や地方創生に結びつけていくためといった大義名分のもとに提案できる“切り花事業”がうってつけなのだ。これはサッカニにも同じことがいえる。
今も、そしてこれからも、サッカークラブの変革や競技普及、そして地方創生の実現を目指していくという安部さん。ここまで心と体を突き動かす“サッカー”という存在は、一体何だろうか。
「サッカーって、単純に面白いんです。クラブで社員として働いている時は試合の現場にもいましたが、あのキックオフの笛の音を聞くと毎回シビれるんです(笑)。それに私が所属していた時代の東京ヴェルディや京都サンガF.C.は、毎シーズン昇格争い・残留争いを繰り広げているクラブ。だからクラブ関係のお客様や、スポンサーの方々と、昇格を決めた時は笑い合い、降格した瞬間には一緒に泣いたりしました。
実際、スポンサー企業の方やホームタウンの方とスタジアムで会うと、みんな思わずハグしちゃうみたいな(笑)。なんか、そういうスタジアムの空間がたまんないんですよね。だからこそ、そういう大好きな場所やクラブを、より良くしていきたい。そのために、クラブや地域をもっと活性化させられるような新しい事業を作っていきたいんです」
こうした“クラブの力になりたい”という熱い想いが、この仕事に一番必要なスキルだと話す。加えて、新しいことに貪欲にチャレンジしていく姿勢や経営者とのネットワーク、そして積極的にコミュニケーションを取れる“営業スキル”も欠かせないという。
まだまだ動き出したばかりの“サッカニ”と“切り花事業”。この両プロジェクトをいかに継続・発展させていくかが、日本にサッカーを“文化”として根付かせていくための大きなカギとなるだろう。 (プロフィール) 安部未知子(あべ・みちこ) 1982年生まれ、京都市出身。1993年のJリーグ開幕をきっかけに小学校からサッカーをはじめ、大学卒業と同時に現役を引退。大阪体育大学でスポーツマネジメントを専攻したことをきっかけに、東京ヴェルディ、ガイナーレ鳥取でのインターンシップを経験。2005年から東京ヴェルディの事業部に新卒で入社し、スポンサー営業やチケット販売に従事。2010年に出身地、京都サンガF.C.に転職し、営業部でスポンサー営業やイベント企画を展開。結婚、出産を経てBNGパートナーズでスポーツクラブのコンサルタントを行ったあと、現在は、フリーでプロスポーツクラブが地方を元気にするプロジェクトを発足。
※データは2018年12月26日時点