バルセロナのフランス代表FW、ウスマン・デンベレ(21歳)の遅刻魔ぶりが大きな話題になっている。「寝坊でトレーニングに来ない」という日が、今年11月、12月と懲りずに続いた。「時間どおりに練習に来た」というのがニュースになる始末だ。 …
バルセロナのフランス代表FW、ウスマン・デンベレ(21歳)の遅刻魔ぶりが大きな話題になっている。「寝坊でトレーニングに来ない」という日が、今年11月、12月と懲りずに続いた。「時間どおりに練習に来た」というのがニュースになる始末だ。
1億500ユーロ(約135億円)。それがデンベレの”購入価格”だけに、これでは困る。そこでバルサの首脳陣は、デンベレの更生計画に乗り出した。だが、20万ユーロ(2600万円)という罰金をちらつかせても大した効果はなく、「携帯電話のオフ禁止」という”建設的”な改善策を選択。いつでも着信に気付くことができるように、マナーモードも厳禁になった。トッププロに対し、苦肉の策と言えるだろうか。
前節レバンテ戦では0-5の大勝に貢献したウスマン・デンベレ(バルセロナ)
デンベレは爆発的なスピードを備えた両利きのアタッカーで、そのドリブルはどちらに抜け出すか、予測がつかない。12月11日のチャンピオンズリーグ、トッテナム戦で見せたドリブルシュートは圧巻だった。センターライン付近からディフェンダー2人を置き去りに決めているのだが、まさに無双状態だった。
そのポテンシャルは世界最高レベルだ。
しかし、以前在籍していたドルトムント時代から、デンベレは素行の悪さを指摘されてきた。ただしそれは、「夜遊びをやめられずに、女性やアルコールの問題を起こす」という類のものではない。真夜中までテレビゲームや海外ドラマに夢中で、寝坊して練習に遅刻する。単純に、だらしがないのだ。ちなみに部屋はゴミためのようで、ドルトムント時代に借りていたマンションの家主からは、2万ユーロ(約260万円)もの修繕賠償金を要求されている。
はたしてデンベレはプロ失格なのか?
「我々選手にとって、デンベレは重要な存在だよ。誰だって、間違いは犯すさ。ロッカールームでの彼はいいヤツで、悪い感じはまったくない。ピッチでのプレーはさすがだし、ピッチ外のことは改善できるはずだ」
バルサのチームメイトであるジョルディ・アルバは、はっきりとそう語っている。選手たちの間でデンベレの評判は悪くない。憎めなさを持ち合わせたデンベレは、愛されるキャラなのだろう。
もちろん、デンベレは素行を改善しなければ、トッププレーヤーにはなれない。自ら意識を変えなければ、取り返しのつかないことになるだろう。しかし、チームで必要とされているのは間違いない。
バルセロナは過去、多くの”問題児”を抱えてきた。ロマーリオ、ロナウド、ロナウジーニョ、ネイマールといったブラジル人選手たちは、とにかくナイトライフが賑やかだった。
「夜遊びしたおかげでゴールを決めている」
ロマーリオには、そう公言するほどのふてぶてしさがあった。彼らの生活は品行方正とは言い難かった。事実、ロナウジーニョは夜遊びを改めなかったことで、放出されている。しかしながら、彼らの奔放さがチームを救う機会も少なくなかった。
そもそも、「サッカーチームには様々なキャラクターがいるべきだ」と言われる。全員が真面目で働き者でも、爆発的なエネルギーは生まれない。鶏が先か卵が先か、個性的な選手がしばしば異能を備えている。
「組織を掌握するとき、監督は善良な人間だけを好むべきではないだろう」
そう語っているのは、かつてバルセロナであらゆるタイトルを勝ち取ったフランク・ライカールト監督である。
「いい選手は人格的にも優れていることが多いが、同時にしばしば複雑な性格の持ち主だったりする。そして、変わり者や偏屈な選手こそ、チームが勝ち続けるには必要な部分がある。人間としていい性格であることは、決して悪いことではない。でも、監督はそれを絶対的な価値にしてはならないだろう。素直で従順な選手だけでは、厳しい戦いを勝ち抜けないからね。チームはいろいろな性格の持ち主がいて、お互いが補い合い、それぞれが融合することでうまくいく。その集団を束ねるのが、リーダーである監督なんだ」
デンベレのように、精神的には未熟だが、才能としては世界最高に近づくことができる選手を、どう用いるのか――。それは、チームとして大きな挑戦になる。使い方によっては、大きな爆発を起こせるはずだ。
デンベレの行動を道徳的に糾弾するのは容易い。しかし、どうやって彼の力を引き出すのか。単に見捨てるだけではない人材マネジメントが、タイトル獲得に必要な大きなエネルギーを生み出すのだ。
12月16日。レバンテ戦のデンベレは、お灸が効いたのか。右サイドで献身的な守備を見せ、高い評価を与えられている。リオネル・メッシとのパス交換からのドリブルでは、圧倒的なスピードを使い、相手を退場に追い込む突破も見せた。
「デンベレが世界でもっとも相手のバランスを崩せる選手のひとりであることは間違いない。だからこそ、彼はバルサにいるのだ」
バルセロナを率いるエルネスト・バルベルデ監督の言葉である。