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短期集中連載・昇格と降格のはざまで戦った男たち(2)~梅崎司(湘南ベルマーレ)

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 12月1日、名古屋。前半37分、彼は岐路に立っていた。コンビネーションを使い、最高のタイミング、角度でスルーパスを出し、それがPKを誘った。

<自分で蹴ろう。俺が試合を決める!>

 試合前から、彼は意志を固めていた。そうして蹴ったPKはゴール上を撃ち抜いた。GKが取ることができない、もっとも難易度の高いコースだった。彼は駆け寄ってきた仲間と、結果的に残留を決した得点を喜び合っている。

「実は、左下隅を狙って蹴っていたんですけどね。でも、自分が絶対にゴールを取る、という強い気持ちで挑んでいて、その強い意志が、ゴールにつながってくれたんだと思っています」

 彼はそう言って、人懐こい笑みを洩らした。



最終節の名古屋ブランパス戦でPKを決めた梅崎司(湘南ベルマーレ)

 湘南ベルマーレのFW梅崎司(31歳)は熾烈なJ1残留争いを主力選手として戦い、見事に勝ち抜いている。数々のタイトルを獲得したアジア王者、浦和レッズを去って、湘南に移籍。勝負に出たシーズンだった。

「自分がどうなりたいのかを考えるようになって、攻めなければ何も生まれないという気持ちが出てきました。それには、レッズでは自分の立場ができあがっていたので、あえて一度チームから出て、人間としての幅も広げたかったというか……」

 梅崎は当時の心境を振り返る。

「レッズでいろいろ経験させてもらって、今のタイミングでチームを変えたからこそ、経験も伝えられるところはあって、湘南では、嫌われてもいいから気付いたことはなんでも言おう、と決めていました。でも、真面目な選手が多いから、すごく話を聞いてくれた。少し言うだけで、どんどんよくなる感覚がありました。そうしていると、自分の考えも整理されていったんです」

 新天地で自分と向き合い、他の選手と対話した。すると、見えてくるものもあった。同時に、チームにもっと伝えたい、ともに強くなりたい、という衝動がこみ上げてきた。

 ルヴァンカップ準決勝前のミーティング。梅崎は選手たちに思い切って考えをぶつけたことがあった。敵に押し込まれたとき、「いったん(プレーを)切ろう」と、すべてクリアに逃げることに、疑問を呈した。

「プレーを切って落ち着ける、というのは大事だけど、それ一辺倒になってしまっては、勝ち続けるチームにはなれないと思ったんです。たとえ守りに入るのでも、片手に武器を忍ばせ、反撃をうかがうような戦いをすべきじゃないかって。それを提案しただけで、選手のプレーが劇的に変わったんです! 意識が変わるだけで、ここまで変われるものかって。自分もその姿に刺激を受けました」

 ボールを大事にできるようになったし、カウンターの迫力が増した。梅崎は仲間に対する信頼を深めるようになった。このチームで勝ち続けたい、そう思うようになった。

 その結実として、ルヴァンカップでは決勝で横浜F・マリノスと真っ向から渡り合い、優勝を果たしている。

 そして残留争いでも、勝利への強い意識が最後はチームを救った。

 第33節、梅崎は古巣の浦和を相手に先制点を叩き込み、勝利に貢献して残留を引き寄せている。相手はどこでも構わなかった。勝たなければならない試合で、自分が決める、という強い気持ちで挑んでいた。

 そして冒頭に記した名古屋グランパスとの最終節でも、チャンスの起点となって、それで得た2点目となるPKを自ら蹴り込んでいる。実は1点目も、彼のパスが起点だった。ゴールに向かっていくプレーが、勝負の決着をつけたのだ。湘南は後半、名古屋に2点を返されたものの、2-2で引き分けJ1残留を決めている。

「(10代で)大分トリニータでプレーしていた時、自分がヒーローになってやる、という野心を持ってプレーしていたんですよ。今よりもプレーの幅はずっと狭かったし、勢いだけだったんだと思いますけど、その感覚自体は大事で、ようやく今シーズンは思い出せたというか……。自分がゴールを決める、試合を決める、という強い意志がないと、決まるものも決まらないんですよね」

 梅崎は原点に回帰した。もっとも、プレーそのものは当時よりも洗練されている。サイドからドリブルで切り込むだけではない。中盤で味方を走らせ、受け手となってタメを作り、プレーメイクにも関われるようになった。意識の変化で、選手としての幅を着実に広げつつあるのだ。

「ルヴァン優勝やJ1残留で終わりじゃない。これが始まりですよ。来シーズンは、もっともっと攻めていきますよ!」

 死線をくぐり抜けた梅崎は、虎視眈々だ。

<おまえはどうなりたいのか?>

 彼はそう自問し続ける。