2018年の「ウィンブルドン」準決勝では、身長203cmのケビン・アンダーソン(南アフリカ)と208cmのジョン・イズナー(アメリカ)という長身のビッグサーバー2人がフルセット、最終セット26-24という死闘を演じて話題を呼んだ。一方で比較…

2018年の「ウィンブルドン」準決勝では、身長203cmのケビン・アンダーソン(南アフリカ)と208cmのジョン・イズナー(アメリカ)という長身のビッグサーバー2人がフルセット、最終セット26-24という死闘を演じて話題を呼んだ。一方で比較的背の低い選手たち、例えば170cmのディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)は2018年6月に過去最高のランキング11位となり、トップ10入りを視野に、自分より10~20cm、時には30cm以上も背の高い相手との奮闘が観客を興奮させている。

テニスは背が高い方が有利なのか?ある程度はそうだ。通常は背が高いほど腕は長いので、その分コートカバーが楽にできるし、遠心力も大きいので強烈な球を打てるし、サーブやスマッシュの時は打点が高いのでより角度もつく。だが歴代の男子シングルスランキング1位で最も背が高かったのはマラト・サフィン(ロシア)の193cmで、それより背の高い選手が1位になったことはまだない。

一般的に、背の高い選手たちは、素早い動き、細かい動き、低いボールへの対応が苦手と考えられている。例えば2018年の「全米オープン」3回戦で178cmのフィリップ・コールシュライバー(ドイツ)が第4シードだった198cmのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を破ったが、コールシュライバーは「背の高い選手と試合するのは好きだ。僕は背の高い選手を走り回らせる。それが僕の強みの一つだから」と話している。

高身長化は女子でも明らかで、例えば1978年から1990年までの13年間に四大大会の女子シングルスで18回の優勝を遂げたマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)は173cmで当時は背が高い方と考えられていたが、2018年の「WTAファイナルズ」のシングルスに出場した8選手のうちそれより背が低いのは170cmのスローン・スティーブンス(アメリカ)だけ。180cmの大坂なおみ(日本/日清食品)より背の高い選手が3人もいたのだ。

しかし、2018年の「WTAファイナルズ」にはケガのため出場できなかったが、2017年・2018年と2年連続で年間ランキング1位となったシモナ・ハレプ(ルーマニア)は168cmと、今の女子テニス界では「小柄」と言っても良いぐらいだ。そして男子でも2人合わせて37回四大大会で優勝しているロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)は共に185cm、男子選手としては特に背が高い方ではない。

では背が高くない選手たちはどのように背の高い相手に対抗するのか。コールシュライバーのやり方は「いろんな種類のショットを混ぜて使うこと。バックハンド・スライスを多用してボールを低く抑えること」。1979年・1981年の「全米オープン」女子シングルス覇者で165cmのトレーシー・オースティン(アメリカ)は、俊敏さとフットワークに加えてテクニックに優れショットが正確であること、更に元世界ランキング2位で1989年「全仏オープン」覇者のマイケル・チャン(アメリカ、175cm)や元世界3位のダビド・フェレール(スペイン、175cm)のように「冷静沈着」かつ「不屈の闘志」を持っていることを上げた。

また161cmのドミニカ・チブルコバ(スロバキア)のように小柄でもパワーのある選手もいるし、175cmのリカルダス・ベランキス(リトアニア)は時速190km以上のサーブを打つ。とはいえサーブが背の高い選手に有利なことは間違いない。その対策としてやはり175cmのティム・スマイチェク(アメリカ)は、「サービスエースはなかなか取れないから、作戦を立てるんだ。まず、いろんな種類のサーブを打てるようにする。それから、サーブ1本で決めるのではなく、リターンの次のショットまでの組み立てを考える」と語る。2018年の「全米オープン」女子シングルス1回戦で185cmのココ・バンダウェイ(アメリカ)を破った165cmのキルステン・フリプケンス(ベルギー)は、背の低い選手ほどサーブをしっかり練習すべきだと言う。なぜなら、背の高い選手はサーブが強みなので、ブレークするのが難しい。背の低い選手が自分のサービスゲームをキープすることは必須なのだ。

リターンの分野では、背の高くない選手の方に軍配が上がる。ATPのサーブ・レーティング(ファーストサーブでのポイント取得率や、サービスゲーム勝率などを合計して算出)のベスト10は、2m超えの選手が3人、190cm台が5人で、190cmに満たない残る2人は188cmのノバク・ジョコビッチ(セルビア)とフェデラー。それに対し、リターン・レーティング(リターンでのポイント取得率、リターンゲーム勝率などを合計して算出)のトップ7で最も背が高いのは188cmのジョコビッチで、178cmのファビオ・フォニーニ(イタリア)が4位、170cmのシュワルツマンが堂々3位、2位のダビド・ゴファン(ベルギー)はちょうど180cmと、男子テニス界では長身ではない。

フリプケンスは、しっかりと試合を分析すること、相手のトスを見てサーブの種類や方向を読むことがより良いリターンにつながると言う。オースティンも予測することの重要性を指摘する。155cmの奈良くるみ(日本/安藤証券)は「みんな私より背が高いから、相手より素早く、より良く動くようにしている」と語る。168cmのラウラ・シグムンド(ドイツ)の戦略は「どんな球にも追いつけるように、ずっと後ろで構えること。その方が球が低くもなるので打ちやすい。でもそれだけ後ろで構えてラリーを続けるためには、人一倍の体力が必要」。オースティンの戦略は逆で、「背の低い選手こそ、パワーを使って球を早く打つことが大事。そうすれば相手から時間を奪うことができる」と述べる。

深く守れば体力勝負になるリスクがあるし、俊敏さを生かして積極的に攻めた場合、相手の時間も奪うが同時に自分ものんびりはできない。だから積極的に攻めるには、「機会」を見極めることも必要だ。

長身の選手たちもより俊敏になってきている時代だが、背の低い選手が全くいなくなってしまうことはない、と165cmのバニア・キング(アメリカ)は言う。「背の高い選手たちよりもより素早くて、工夫ができればいいのよ」。多分そのスピリットこそが、背の低い選手たちを強くし、応援したくなる試合をさせてくれるのだろう。(文/月島ゆみ)

※写真は左から198cmのズベレフと178cmのコールシュライバー(Photo by Angelika Warmuth/picture alliance via Getty Images)