「イングランドはダイヤモンドを手にしている」 チャンピオンズリーグ・グループF最終節のホッフェンハイム戦で今大会初先発を果たし、フル出場したフィル・フォーデンについて、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督はそう話した。アカ…

「イングランドはダイヤモンドを手にしている」

 チャンピオンズリーグ・グループF最終節のホッフェンハイム戦で今大会初先発を果たし、フル出場したフィル・フォーデンについて、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督はそう話した。アカデミー出身の18歳のセントラルMFは、昨年のU-17ワールドカップを制したイングランドの主力で、同大会の最優秀選手にも輝いた超逸材だ。



グアルディオラ監督が絶賛する18歳のフォーデン

 ただし、現在のシティで彼が定位置をつかむのは難しい。左利きの若きプレーメーカーは、ダビド・シルバ、ケビン・デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアン、フェルナンジーニョらとポジションを争っているからだ。グアルディオラ監督もその点は認めながらも、次のように語った。

「当然、それは簡単ではない。しかし、彼のトレーニングの取り組み方はとてもすばらしいし、ベンチで出番を待つための忍耐力もある。そして出場機会があれば、多くのものを要求される今日のような試合でも、大人の男のようにプレーする。本当の男だ」

 ペップはこんな風にもフォーデンを賞賛した。

「フォーデンは見た目が細くて、か弱そうに見えるが、体が本当に強いんだ。クロスも、シュートもいい。とてつもない才能だ。今後はもっと出番が増えるといいね」

 47歳のスペイン人指揮官には、それだけ喜ぶ理由がある。現オーナーがクラブを買収してから、シティの下部組織は充実し、近年はフォーデンのほかにも才能に溢れる新鋭が頭角を現している。だが、ファーストチームの分厚い選手層を前にして、そこで順番を待つよりも、ほかで試合に出続けることが賢明と考える俊才もいるのだ。

 その代表格が昨オフにドルトムントへ正式に移り、2年目の今季のブンデスリーガでセンセーショナルな活躍を披露しているジェイドン・サンチョだ。彼もまたフォーデンと同じ18歳ながら、その働きが認められて、10月からイングランド代表にも選出されるようになった。フォーデンが彼に先を越されたと感じたとしても不思議はない。

 しかしフォーデンは自らの道を選択し、このホッフェンハイム戦の2日前に、シティとの契約を2024年まで更新した。競争は熾烈ながら、グアルディオラ監督のもとでこそ、大きく成長できると考えたのだろう。

 それは年上のチームメイトたちが証明していることでもある。シティのドキュメンタリー『All or Nothing』では、ニコラス・オタメンディがピッチ上の激しい表情とはまったく異なる照れ臭そうな笑顔でそれを打ち明けている。レスラーとのスパーリングさえもトレーニングに取り入れる30歳のCBが、グアルディオラのもとで今も大きく成長している、と。

 オタメンディはもう、ハードなファイターではない。このホッフェンハイム戦でも、最終ラインのゲームメイカーのひとりとして、鋭い縦パスを何度も入れた。現在のシティは、司令塔が最後尾にいるのだ。

 この日、守備時の並びは4バックだったものの、マイボールになるとレフトバックのオレクサンドル・ジンチェンコが中盤の内側に入り、エメリク・ラポルト、オタメンディ、ジョン・ストーンズの3人でビルドアップ。GKエデルソンを含め、誰もがボール扱いに長け、ラポルトにいたってはドリブルで持ち上がってシザーズフェイントを繰り出す場面もあった。

 すでにCL決勝トーナメント進出を決めていたシティは、ヨーロッパリーグ入りの3位を目指すホッフェンハイムに序盤から押され、16分にはラポルトがPKを献上。アンドレイ・クラマリッチに決められて先制を許す。これで目が覚めたシティは「いつもの自分たちの姿を取り戻し」(グアルディオラ)、主導権を握ると、前半終了間際にレロイ・ザネが見事な直接FKで同点とする。そして後半にもザネが決めて逆転に成功した。

 その後の71分には、こんな場面があった。フォーデンが中盤の低い位置に降りてきてボールを引き出そうとしたところ、ボールホルダーのオタメンディは「前に行け!」と身振りで示し、実際にそうしたフォーデンにボールが入って、ミドルシュートにつながっている。

 現在のシティは最終ラインに的確なパスを出せる選手が揃っているので、なるべく高い位置に多くのポイントを作り、そこに当てて一気にスピードアップするのだ。それがトップレベルの相手にもできるかは、また別の話だが、この日のシティ・オブ・マンチェスター・スタジアムには、貫通力のあるポゼッションを展開する、恐ろしいほどにスピーディなイングランド王者の姿があった。ボールを保持するのはもちろんながら、無駄な横パスはほとんどなかった。

 週末のチェルシー戦に敗れ、今季初黒星を喫したシティだが、その傷は深くなかったようだ。「違うコンペティションだけど、確かに負けた直後に白星を得るのはとてもいいことだ」とグアルディオラは試合後の会見で指を鳴らして言った。

 多くの負傷者を抱えながら、生え抜きの新鋭がその穴を埋め、選手層の厚さとクオリティーの高さをあらためて示したシティ。グループリーグトップ通過を果たし、クラブの悲願である欧州の頂点にまたひとつ歩みを進めた。