今、ヤクルトの若手投手たちが面白い。入団3年目の高橋奎二(けいじ)もそのひとりだ。9月5日の中日戦でプロ初登板を果…
今、ヤクルトの若手投手たちが面白い。入団3年目の高橋奎二(けいじ)もそのひとりだ。9月5日の中日戦でプロ初登板を果たすと、10月2日のDeNA戦では筒香嘉智を3打席連続空振り三振に取るなど圧巻のピッチングを見せ、プロ初勝利を手に入れた。今季を振り返り、高橋はこう語る。
「(今年は)知らない自分に出会えた思いです」
4年目となる来シーズンへの期待は高まるばかりだ。

入団4年目でプロ初勝利を飾ったヤクルト高橋奎二
今年の2月、宮崎県西都市での二軍春季キャンプ。ブルペンで高橋のピッチングを見た時に「フォームを変えたのだな」とすぐにわかった。高橋は言う。
「1年目に肩を痛め、去年は腰がダメで……2年間ほとんど投げることができませんでした。フォームが原因だとは思っていないのですが、ケガが続いてしまったので、何かを変えなければいけないなと……」
“左のライアン(小川泰弘)”と呼ばれていた、右足を胸元まで高く上げるフォームを封印。それでもピッチングフォームには若さがあり、キレのあるストレート、変化球は見る者の心を躍らせた。
そんな高橋に今シーズンの抱負を聞いたとき、こんな答えが返ってきた。
「まずは1年間、大きなケガをせずに投げきること。そのなかで一軍に上がることができればと思っています。常時140キロ台前半の真っすぐを投げ、勝負どころで球速を上げ、コントロールで勝負する。今はそういうピッチャーを目指しています」
5月12日のファームでのDeNA戦は、まさにその通りのピッチングとなった。140キロ台前半の真っすぐを中心に、要所で147キロを計測。7回を投げて3安打1失点。ノーヒット・ノーランを見ているようなすばらしい投球だった。試合後、高橋は「新しく覚えたカットボールとチェンジアップが効果的でした」と語った。
「スライダーは大きく曲がるので、小さく曲がる変化球がほしかったんです。キャッチボールやブルペンで試してみたところ、意外に使えるな……と。そこから、こんなことを言ったらダメなんですけど、試合中で余裕がある時に試していました。カットボールはゴロやファウルでカウントを稼げて、球数を少なくすることができます。チェンジアップは、空振りも取れますし、タイミングも外せる。ストライクが先行するようになって、ピッチングの幅がとても広がりました。一軍の試合でも少しは通用したのかなと思います」
二軍では17試合に登板して8勝6敗、防御率3.51。無失点のまま交代した試合は5試合あり、自身プロ最長となる8イニングを投げ切ったこともあった。
「二軍の試合で投げてきて、やっぱり6イニング目の入り方が難しかったりします。自分のなかで『今日はいけるな』という日があっても、6回につかまってしまうケースが多かったので……。そこを意識して投げ切れることもあったのですが、そういう試合をいかに増やせるかが課題です」
今から2年前の夏、7月6日のことだった。この日は神宮球場で一軍と二軍がそれぞれ試合をする”親子ゲーム”の日だった。二軍の選手はデーゲームのあとにナイターでの一軍の試合を観戦。その時、球団関係者の粋な計らいで4人の若手選手に一軍の試合前練習を見学させたのだが、そのなかに高橋の姿もあった。当時、高橋はこんなコメントを残していた。
「一軍の練習は二軍とは雰囲気が違いました。小さい頃から見てきたプロ野球選手が同じチームにいて、すごいなと思いました(笑)。プロの試合を観戦するのは中学以来でこれが2回目です。僕は高校野球(龍谷大平安高)で甲子園を経験しているんですけど、また違う雰囲気でした。ヤジも飛ぶし、乱闘もありましたので……(笑)。『早く神宮球場で投げたい』と思いました」
翌年の8月には、二軍の神宮球場開催試合に先発。高津臣吾二軍監督から「神宮で投げるのがそんなにうれしいか」と聞かれ、高橋は照れくさそうな表情を浮かべていた。
そして今年の9月5日、ついに一軍の試合で高橋は神宮の先発マウンドに立った。結果は5回を投げ5失点(自責点4)に終わったが、とくに初回は140キロ台後半のストレートを連発(MAX149キロ)。ニューフェイスの登場にファンは沸いた。
試合後、クラブハウスに引き上げる高橋は「今はまだ頭のなかで整理できてないですけど、四球とピッチャーにヒットを打たれたことが反省です」とコメントしたが、表情はじつに晴れやかだった。
シーズン終了後は、宮崎フェニックスリーグに初参加。10月28日の広島戦では被安打2、四球1という完璧なピッチングで完封勝利。
「9回を投げ切ったのはプロに入って初めてだったので、”きつかった”しか思わなかったですね(笑)。守備とかでみんなに助けられて……そのなかで自分のピッチングはできたと思います」
11月には「正直、怖いです」と語っていた松山での秋季キャンプにも参加。練習に励む高橋を眺めていると、体が大きくなったことに気づく。
「プロに入ってから10キロぐらい体重が増えているので、大人の体になっているのかなと。でも、コーチの方たちからは『まだまだペラペラ』と言われています。僕自身もあとひと回り、ふた回り大きくならないと、またケガをしてしまうかなと思っています」
チームの前田真吾トレーナーは「今年2月に西都キャンプで初めて会った時は、ひ弱なイメージでしたけど、本当にたくましくなってきました」と、高橋の印象について話してくれた。
「ケガをしたくないという自覚のもとで1年間トレーニングを継続できた。この秋のキャンプでは、本人の希望で追加メニューも始めました。ウエイトも負荷を基本より下に設定していましたが、今ではほかの選手と同じでも問題ありません。フィジカル面ではまだまだな部分はありますけど、ポテンシャルが非常に高い。体の可動域が広く、瞬発力もあり、足も速いし、パワーもある。その分、体にかかる負担が大きいので、現時点ではそれを受け止める肩まわり周辺の筋肉を高めていく必要があります」
松山キャンプの終盤、高橋にこの1年をあらためて振り返ってもらった。
「春のキャンプの時は『140キロ台前半の真っすぐとコントロール重視』という考えでしたが、肩や腰を含めてケガを繰り返すのが嫌だったので抑えていた部分はありました。今シーズンはほかの選手よりも登板間隔を空けてもらえ、実戦を重ねていくなかで、試合で10球ほど思い切り投げられるようになり、夏場になると全力で投げられるようになった。そこから打者や状況によって、力を加減することの理解も深まっていきました」
プロ初勝利を挙げた試合は、まさに高橋の真骨頂とも言える勢いのあるピッチングだった。ここぞという場面での渾身の一球。たとえば、初回の無死一、三塁のピンチでネフタリ・ソト、筒香、ホセ・ロペスを3者連続三振で切り抜けたのだった。
「いちばん力が入ったというか、挑戦者の気持ちで投げたことが結果につながりました。その代わり、ほかのバッターに打たれてしまったので、そこは勉強になりました。今年は一軍で3試合投げさせてもらいましたけど、やっぱり一軍の打者は違うなと実感しました。二軍なら『この球なら振っていたのに』とか、『この球やったらファウルを取れたのに』というのがヒットにされたり……。抜けるところがなかったので、そこはもっと経験が必要だなと思いました」
今年は2月のキャンプに始まり、公式戦、フェニックスリーグ、秋季キャンプとすべてに参加。来年の自分にどんなイメージを描いているのだろうか。
「もちろん一軍の試合で、中6日で投げるのが理想ですけど、中10日だとしても焦らずにやりたいと思っています。今年はフォームを変えましたけど、この(秋季)キャンプではみんなの前で『いつかまた、足を高く上げて投げたい』とスピーチしました。まだまだ知らない自分がいるはずなので……。そこからタイトルだったりに、何十年もやってからたどり着けたらいいかなと」
最後に高橋の人柄が表れているエピソードを紹介したい。
松山での秋季キャンプ。メイン球場の坊ちゃんスタジアムで”投内連係”が行なわれ、小川淳司監督はホームベース後方から練習を見守っていた。投手陣は三塁側のファウルグラウンドに並び、自分たちの順番を待っている。順番になり、ファーストへのベースカバーを終えた選手は小川監督の前を通り、もとの位置へと戻っていくのだが、高橋だけは監督のうしろを通っていったのである。たまたまかと思っていたが、2度目も同じく監督のうしろを通って戻っていった。そのことについて高橋に聞くと、こう返ってきた。
「人の前を横切るのって好きじゃないんです。これは高校生の時からです」
どこまでも真っすぐで、一本筋の通った男。それが高橋というピッチャーである。