後半ロスタイムにナポリのアルカディウシュ・ミリクがボックス内で見事にクロスをトラップした瞬間、リバプールに残酷な結末が訪れるかと思われた。しかしGKアリソン・ベッカーがすぐさま両手両足を広げてシュートを弾き、その2分後に試合は1-0で…

 後半ロスタイムにナポリのアルカディウシュ・ミリクがボックス内で見事にクロスをトラップした瞬間、リバプールに残酷な結末が訪れるかと思われた。しかしGKアリソン・ベッカーがすぐさま両手両足を広げてシュートを弾き、その2分後に試合は1-0で終了。リバプールがグループ最終節でチャンピオンズリーグ決勝トーナメントへの切符を掴むと、アンフィールドには歓喜が爆発した。

 この大一番を迎える前、グループCではナポリが1位でリバプールが3位(パリ・サンジェルマンが2位、ツルベナ・ズベズダ[レッドスター・ベオグラード]が4位)。相手に勝ち点3差をつけられていたリバプールが勝ち抜けるには、1-0の勝利か、2点差以上の白星が必要だった。



決勝ゴールを決めたサラーを抱きかかえるリバプールのクロップ監督

 つまり、ミリクがゴールを決めていれば、残り時間を考えてもナポリの突破が決まっていたはずだ。リバプールのファンにとって、アリソンは讃えても讃えきれないだろう。ただ、赤いサポーターたちの熱い想いそのものが、あのスーパーセーブにつながったのではないかとも思う。

「アリ(アリソンの愛称)がどうしてあんなセーブができたのか、私にはわからない。本当に信じられないよ」と試合後にリバプールのユルゲン・クロップ監督は話した。「それから、アンフィールドにも感謝したい。今夜の雰囲気は、とてつもないものだった」

 敵将のカルロ・アンチェロッティも「世界一の雰囲気」と認めるリバプールの本拠地。重要なものが懸かった一戦を前に、情熱的なスカウザー(リバプールの人々の呼称)たちは、これ以上ないほどの大声援でチームを迎えた。

 心強いサポートを受けたリバプールは序盤から攻勢をかけ、早々に決定機が訪れる。だが、アンディ・ロバートソンのクロスをボックス内で受けたモハメド・サラーはファーストタッチに失敗し、絶好のチャンスを逸してしまう。

 昨季のプレミアリーグ得点王兼MVPは今季、開幕からの全公式戦11試合で3得点と不振に陥っていた。だが秋も深まり始めた頃から調子を取り戻し、最近11試合では9得点。直近のプレミアリーグのボーンマス戦では、今季初のハットトリックを記録していた。この大一番に照準を合わせたかのように、コンディションを上げていたのだ。

 26歳のエジプト代表アタッカーは序盤のミスの後も、シャープな動きを披露し、34分には真価を発揮する。ジェームス・ミルナーのスルーパスに抜け出すと、ボックス右でカリドゥ・クリバリと対峙。それまでは抑えられていた相手を瞬時にかわした後、中央に目を向けてクロスを匂わせると、吊られたナポリのGKダビド・オスピナの股間に鋭いシュートを通した。過去にフィオレンティーナとローマ時代に6度対戦し、1ゴールしか記録できなかったナポリから、貴重なゴールを挙げたのだった。

 リバプールは思い描いたとおりに1点をリードしたものの、一度でも失点すれば、文字どおり形勢は逆転する。緊張感の張り詰めるなか、守備の大黒柱フィルジル・ファン・ダイクが幾度となく相手の攻撃を遮断。後半にはミドルを放つなど、攻撃にも積極的な姿勢を見せた。

 対するナポリは、戦前に指揮官が「こんなにすばらしいスタジアムでプレーするのは、うちの選手たちにとっても最高だ」と話していたが、実際には雰囲気に呑まれていたようなところがあった。あるいは、リバプールの猛烈なプレスと攻撃に圧倒されていただけなのか。

 サディオ・マネが何度か迎えた絶好のチャンスを決めていれば、リバプールはもっと楽に突破を決めていたかもしれない。最終的なポゼッション率はイーブンだったものの、シュート数はリバプールが22でナポリは8。試合終了間際には肝を冷やしたが、リバプールは勝つべくして勝ったと言える。

 エースが復調を遂げ、守備の大黒柱もますます頼もしい。今季のチャンピオンズリーグで、クロップのリバプールは昨季の決勝で味わった失意を晴らすことができるだろうか。プレミアリーグでついに首位に立ったチームは、国内外で3つの栄冠を狙っている(リーグカップではすでに敗退)が、収入面を考慮しても、やはりチャンピオンズリーグこそ、もっとも手にしたいタイトルだろう(1990年以来のリーグ優勝も同等と言えるかもしれないが)。

 その意味で、この勝ち上がり方は良い兆候と捉えることもできる。2004-05シーズンのチャンピオンズリーグを制した時もグループステージで苦労し、最終節にオリンピアコスを下して、勝ち点で並んでなんとか勝ち抜けたのだ。ちょうど今季と同じように。

 その先にあの”イスタンブールの奇跡”が起こり、クラブ史上5度目の欧州王者に輝いている。あの決勝ではPK戦でGKイェルジ・デュデクが英雄になった。そして、現在のチームには6500万ポンドで獲得したアリソンがいる。

「アリソンがこれほど良い(GK)と知っていれば、私はその倍を払っていたよ」とクロップ監督は語った。

 今のリバプールには、欧州の頂点に立つための条件が揃っているように見える。