バンクーバーで開催されたグランプリ(GP)ファイナル男子。ショートプログラム(SP)最終滑走の宇野昌磨は、首位発進のチャンスが見えていた。SP4番滑走のネイサン・チェン(アメリカ)は後半に入ってからの4回転トーループの着氷で手をついて3回転トーループをつけられず、92.99点にとどまっていたからだ。



GPファイナルSPは2位となった宇野昌磨

 しかし、宇野は最初の4回転フリップで手をつくミス。また、次の4回転トーループ+3回転トーループが4回転+2回転に。その後はミスなく滑り終えたが得点は91.67点。初優勝を狙うためには優位に立ってプレッシャーをかけておきたかったが、わずかに先手を取られる結果となった。

 その原因を宇野は「自信を持てていなかった」と説明した。

「フリップはもとから調子が悪かったけど、昨日と今朝の公式練習の曲かけでトーループを失敗したのが大きかったです。日本でほぼ失敗していなかったジャンプで失敗したので、トリプルアクセルを含めて安心できるジャンプがひとつもなかった。今日の試合で4回転トーループが決まったのはよかったけど、2回の曲かけで失敗したのが自信の喪失につながったのかなと思います」

 バンクーバー入りするまでは練習をしっかりやって調子を上げ、プログラムの完成度も上がってきている手ごたえがあった。だが、6分間練習でもトーループは最初がステップアウトで次が両足着氷。2回転トーループをつけた連続ジャンプは何とか決めたが、2回転トーループは無理をしてつけたために軸が斜めになっていた。

 これまで課題にしてきた回り過ぎは解消できていたが、「今日はトーループには自信がなさ過ぎたので、最初から4回転+2回転にするつもりだった」と言う。本番ではキレイに降りて3回転をつけてもよかった状態だったが、その思いが2回転にとどめさせた。

「粘り切った、耐えたという滑りでしたけど、今までの練習は充実していたし、いい練習ができていた。その練習を考えるととても残念な結果になりました」

 それでも、翌日のフリーではその気持ちを少し切り替えた。

「試合で4回転トーループを跳べたことが少し自信につながったのかなと思います。朝の公式練習もいつもどおりにできたけど、曲かけではトーループを失敗したくなかったから全部スルーしました。無駄に自信を無くすようなことはしないようにしようと思って。でも終わってみれば、もうちょっと自分に自信を持って演技ができたらなと思いました」

 宇野は最終滑走。4番滑走のチェンは公式練習から好調だった最初の4回転フリップをきれいに決めたが、不安を見せていた4回転ルッツは回転不足になって転倒。そのあとの4回転トーループもステップアウトで連続ジャンプにできなかったが、後半の4回転トーループに3回転トーループをつけてリカバリーすると、最後の3連続ジャンプの3回転サルコウはわずかに着氷を乱すだけで、合計を282.42点にした。

 それに対して宇野は、練習で好調だった最初の4回転サルコウが両足着氷のダウングレードになり、次の4回転フリップも回転不足。そのあとの単発の4回転トーループをしっかり決め、後半の4回転トーループ+2回転トーループとトリプルアクセルは2.85点と2.86点の加点をもらう出来にして盛り返した。

 だが、終盤の得点源である連続ジャンプはふたつとも最後のジャンプで着氷を乱してしまい合計は275.10点。チェンを追い上げることができず2位。初優勝を逃す結果になった。



宇野はフリーで追い上げられず今年もファイナル2位

「4回転サルコウも調子が上がっていたので、もうちょっといいジャンプにしたかった。単発のジャンプはわりと力を抜いた状態で、いつもどおりを再現できたかなと思うけど、コンビネーションになった時に、ひとつ目のジャンプのあとにどうしても力が入ってしまう。着氷する場所がいつもとはちょっと違ったかなという印象です。今回は結果を求められていることも自覚していたので、それに応えられたらという思いはあったけど、やはりこのような演技では結果を得られることはできなかったということです」

 こう話していた宇野は、一夜明けると「いくつか取材を受けていて思ったのは、自分を信じることがこんなにも難しいんだなということでした」と苦笑いを浮かべた。

「アクセルとトーループは当たり前に失敗しない自信のあるジャンプだったので、それを立て続けに失敗した時にちょっと自信をなくして…。フリップやサルコウの調子の悪さだったらいつもどおりというところもあるけど、今回は(カナダに)来るまで調子がよかったからこそ、そこで悩んでしまったのではないかと思います。いつもだったら心配しないくらいの失敗を、調子がよかったから気にしてしまった。結果を出したいと思っていたので、そのプレッシャーもあったのかもしれません」

 これまではどの大会でも「楽しむことを目指す」と口にして、タイトル獲得もそれほど意識することはなかった。自分の演技に集中すれば、結果はついてくると考えていた。だが、今季は初戦からそんな考えではなく、結果も出して自分の演技をすることも求めるようになっている。「今は自分で自分にプレッシャーを与え、それを乗り越えたいと思っている」と宇野は話す。

「チャンスということを考えれば昨シーズンは点数的に見ても、どの試合にもチャンスがあったと思います。でも、『よくなかったな』と思うのはファイナルでしたね。地元名古屋の開催でみんなに期待されていたし、結果を求められていた大会だった。去年までは楽しもうということを言っていたけど、いずれは楽しめない時が来るし、楽しんでばかりじゃいられない時が来ると思います。僕はまだその年齢には早いのかもしれないけど、いつかはその時が来るということにも気づいた。だから自分にプレッシャーをかけて、その中で戦って結果を出したいと思ったんです。

 それこそ羽生結弦選手が毎回やっているように、プレッシャーの中でそれに打ち勝ってすばらしい結果を残して、すばらしい選手になる。僕もそうならなきゃいけないなと思ったので、自分で自分にプレッシャーをかけるようにしているんです」

 今季の宇野は、シーズン前から責任感を持つようになったと口にしていた。それは周囲からの期待に応えられる選手になること。今回のGPファイナルでは、些細なミスを必要以上に心配してしまったことで気持ちが揺らいでしまった。それはこれまでのGPシリーズで、なかなかノーミスの演技ができていないことにも影響しているのかもしれない。

 宇野はいま、次のステップに進むための自分自身との戦いに挑んでいる。頂点を目指し、誰にも負けないたくましさを身につけようと奮闘を続けているのだ。