天皇杯準決勝で実現した浦和レッズと鹿島アントラーズの対戦は、すなわち、昨季と今季のアジア王者同士の激突である。 だが、アジアの頂点に立った両チームも、鹿島が一昨季天皇杯を制したのを最後に、国内では無冠。今季残された最後の一冠をかけ、両…

 天皇杯準決勝で実現した浦和レッズと鹿島アントラーズの対戦は、すなわち、昨季と今季のアジア王者同士の激突である。

 だが、アジアの頂点に立った両チームも、鹿島が一昨季天皇杯を制したのを最後に、国内では無冠。今季残された最後の一冠をかけ、両者のプライドがぶつかり合った一戦は、よくも悪くも、負ければ終わりのトーナメント戦らしい、互いが勝負にこだわった試合となった。

 結果は、1-0で浦和が勝利。前半のうちに浦和がCKから先制すると、その後は鹿島が攻勢に試合を進めたものの、「トーナメントではこういう戦いも必要。割り切って守りに回った」(FW興梠慎三)という浦和が逃げ切った。



天皇杯準決勝では浦和レッズに惜敗を喫した鹿島アントラーズ

 ピッチコンディションが悪く、パスをつなぐのが難しかったため、鹿島はなりふり構わず、シンプルに前線へとボールを入れていく攻撃で浦和に圧力をかけ続けたが、ゴールにはつながらなかった。

 最後の一冠(とともに、来季AFCチャンピオンズリーグの出場権獲得)にかける浦和の意地が勝った格好だが、とはいえ、今季の鹿島の健闘――”異常”とすら表現していいほどの過密日程を戦い抜き、アジアを制した――は、大いに称えられて然るべきだろう。

 浦和のオズワルド・オリヴェイラ監督も試合後、勝利した自チームはさておき、まずは古巣である鹿島に賛辞を贈った。

「鹿島はすばらしいチーム。メンバーを入れ替えてJ1とACLを戦っていたが、どちらのチームもあまりにいいプレーをするので、どちらがレギュラーかわからなくなるくらいだった」

 そもそも今季のJ1は、ワールドカップ開催に合わせた約2カ月間の中断期間を挟んだため、その前後の試合日程に”しわ寄せ”が来るのはやむを得ないことではあった。

 5月のゴールデンウイーク期間中には短い間隔で試合が詰め込まれ、中断前までに全日程のほぼ半分にあたる第15節までを消化。中断明けの再開後も、7月、8月の夏休み期間中は週2試合のペースで試合が組まれた。

 だが、これだけなら全チームが同じ条件である。鹿島の試合日程が本格的に”異常事態”と化していくのは、ACL準々決勝第1戦が行なわれた8月28日からだ。

 この日からACL決勝第2戦が行なわれた11月10日(現地時間)までの75日間で、鹿島がこなした試合数は、J1、ACL、ルヴァンカップ、天皇杯を合わせて19試合。約2カ月半もの間、3~4日に1試合のペースで試合をこなしていた計算になる。しかも、そのなかには、中国、韓国、イランでのアウェーゲームまで含まれているのである。

 こうなると、すべての試合を同じメンバーで戦い抜くのは難しい、というより、不可能だ。必然、鹿島は試合ごとに大きくメンバーを入れ替えることになった。完全なターンオーバー制が採られたわけではないが、大まかに言えば、最重要タイトルであるACLに主力メンバーを、その前後の試合には控えメンバーが起用された。有り体に言えば、ACL以外の試合では、メンバーを落としたわけである。

 ところが、前述のオリヴェイラ監督の言葉にもあるように、それでも鹿島は強かった。

 象徴的なのが、J1第31節のセレッソ大阪戦、第32節の柏レイソル戦の2試合だ。

 セレッソ戦の3日後にはACL決勝第1戦が、柏戦の4日後には同第2戦(しかも、イランでのアウェーゲーム)が控えていたため、鹿島はそれまで以上に主力を温存。DF町田浩樹、DF小田逸稀、MF田中稔也、FW久保田和音といった、今季リーグ戦出場が10試合にも満たない若手選手が数多く起用された。勝負は度外視、とまでは言わないまでも、出場メンバーを決めるにあたり、大岩剛監督にもそれなりの覚悟はあったはずだ。

 ところが、鹿島はこの2試合に連勝。とりわけ柏戦では、先制後に一度は逆転されながらも、どうにか引き分けに持ち込むどころか、3-2で勝ち切ってしまったのである。最終的に鹿島がJ1で、4位と勝ち点1差の3位に入り、来季ACLの出場権を確保したことを考えれば、あまりに価値ある勝利だった。

「試合に出る、出ないにかかわらず、すべての選手がこの試合に向けて準備してきた。チームの一体感が試合を追うごとに大きくなっていると実感している」

 柏戦後、大岩監督はそんなことを話していたが、国内タイトルの試合がすべて終わった現在、指揮官は今季の成果として、改めて強調したのも「一体感」だった。

「今季前半戦は苦しい戦い(中断前の第15節終了時点で11位)だったが、ワールドカップの中断期間を経て、一体感が出てきた。誰が出ても活躍できたのは日頃のトレーニングの成果。それをおろそかにすると、チャンスは巡ってこないというチーム内の競争があるなかで、選手は成長し、一体感あるチームになっていった」

 結果的にJ1では3位、ルヴァンカップと天皇杯ではどちらも準決勝敗退に終わったことで、大岩監督は「鹿島は勝たなければならないクラブ。ベスト4で満足はできない」と手厳しかったが、負けてなお、さすがは鹿島というべき底力を示したシーズンだったのではないだろうか。

 二兎も三兎も追い続けた鹿島の2018年シーズンも、あとはクラブワールドカップを残すのみ。初戦のCDグアダラハラ(メキシコ)戦に勝利すれば、一昨季の同大会決勝で敗れたレアル・マドリード(スペイン)との再戦が待っているが、「タイトなスケジュールのなかだが、しっかりリカバリーし、初戦に全員が照準を合わせるだけ」と大岩監督。常勝軍団を率いる指揮官らしく、まずは目の前の試合だけに集中している。

 鹿島にとっては通算20冠目となるタイトルを、悲願のACL獲得で達成した今季。記念すべきシーズンを締めくくるにふさわしい戦いを期待したい。