「ぶっちゃけ、入れ替え戦に回っても勝てると、開き直ってプレーする方がいい」 多くのクラブが巻き込まれた未曾有のJ1残留戦。最終節を前にして、多くの選手たちが似たような胸中を洩らしていた。J2のクラブをリスペクトしていないわけではない。し…
「ぶっちゃけ、入れ替え戦に回っても勝てると、開き直ってプレーする方がいい」
多くのクラブが巻き込まれた未曾有のJ1残留戦。最終節を前にして、多くの選手たちが似たような胸中を洩らしていた。J2のクラブをリスペクトしていないわけではない。しかし、J1の16位とJ2の3~6位のどこかとのの対戦という図式では、戦力差が出るのは明らか。しかも、J1チームは本拠地開催のゲームで、引き分け以上という条件で残留できるのだ。
12月8日、磐田で行なわれるJ1参入プレーオフ決定戦で、J1で16位のジュビロ磐田が優位に立っているのは間違いない。
では、J2で6位の東京ヴェルディはノーチャンスなのか。そうとは言い切れないところに、サッカーというスポーツの醍醐味はあるのだろう。
ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(東京V)はどのような策を練ってくるか
今シーズンは低迷した磐田だが、地力のあるチームである。中村俊輔、大久保嘉人、山田大記、田口泰士、川又堅碁……代表クラスの選手がこれだけ揃っているのだ。また、GKカミンスキーもJリーグ屈指の実力者だ。
2017年シーズンに6位と躍進したチームは、さらなる高みを目指すなか、そこで生じた矛盾に苦しんだ。
昨シーズンは、守備を厚くすることで失点を少なくし、勝ち点を稼いでいた。それが今シーズンは、攻撃を上積みしようとし、歪みが出た。ビルドアップする人材も、システムも見つけ出せなかった。山田、田口らボールを握る選手たちが、どうにかポゼッションしても、攻撃陣はカウンターやセットプレーからの一発という得点に馴染んでいた。結局はカウンターを浴び、勝ち点を逃し、戦い方を失っていった。
「今は守備が大事」
終盤、選手たちが口々に言い、チームとして舵を切ったことで、どうにか勝ち点を積み上げた。第30節からの4試合は2勝2分けで、失点はわずか2。しかし最終節は川崎フロンターレに逆転負けし、J1参入プレーオフに回っている。
東京V戦、磐田はじりじりとした”受け身戦術”に持ち込むのがひとつの常道だろう。無理をせず、相手を待ち受け、誘い込む。そこで田口、山田はカウンターの起点になれるし、大久保、川又は仕留める力を持っている。
しかし、終盤まで0-0で試合を推移させることは危険をともなう。
スペインの名将ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が率いる東京Vは、とにかくしぶとい。J1参入プレーオフ1回戦の大宮アルディージャ戦では、10人の数的不利に陥りながら、後半途中のセットプレーで決勝点を決めた。横浜FC戦は、後半アディショナルタイム、CKを攻め上がったGK上福元直人が頭で合わせ、そのこぼれ球を途中出場のFWドウグラス・ヴィエイラが押し込んで勝利している。
ロティーナ監督はJ2でも戦力的には中位程度のチームを、トレーニングによって鍛え上げた。ポジションを守る感覚を選手に浸透させ、球際での激しさも高めている。そのおかげで、派手さはないものの、堅実な戦いができるようになった。
「いい守備がいい攻撃を作る」
スペインサッカーの”定理”を守り、あと一歩のところまで来た。
また、ロティーナには千里眼のようなものがあって、交代策を打つことで局面を動かすことができる。
「チームとして、反発力を出せるカードはベンチに残しておく。流れはどこかで曲がるからね」
ロティーナは不敵に言う。戦力的には不利ななかで、どうやって戦うべきか――。老練なスペイン人指揮官は知り尽くしている。たとえば、ブラジル人FWレアンドロは、限られた時間ならJ1のDFを脅かすだけのプレーをするはずだ。
磐田が勝負をものにする最善の策は、序盤から力の差を見せつけ、圧倒し、先制点を奪うことにあるだろう。その点、Jリーグ歴代最多得点のFW大久保の決定力はものを言う。ひとりひとりの技術、体力は一枚も二枚も上だ。むしろ守りに入ったら、重圧を感じるのは彼らの方だろう。
もっとも、策士ロティーナはその程度の戦いの流れは見抜いているに違いない。相手が前に押し出してくるなら、背後を狙うのが今度は常套手段になる。ポテンシャルの高さではU-21代表年代でも屈指のMF井上潮音が、決戦で覚醒するのか。ロティーナはあらゆる算段を整えているはずだ。
磐田の優位は動かない。先制点を決めれば、心理的にも優位に立てる。強気の攻めがはまれば、大差での勝利もあり得るだろう。
しかし0-0で推移した場合、ロティーナは策を巡らし、東京Vの選手たちは心理的に上に立つ。挑戦者である彼らは、2試合続けて終盤に劣勢をひっくり返しているのだ。
ヒリヒリした空気が肌を焦がす。勝者として痺れを感じるのは、ジュビロ磐田か、東京ヴェルディか――。