福田正博フォーメーション進化論 森保一監督が指揮を執る新生・日本代表は、2018年の親善試合5試合で15得点。キルギスなど、対戦国が格下のときもあったにせよ、若い選手が中心になったチームが躍動する姿は、注目度や期待感を高めることになった…
福田正博フォーメーション進化論
森保一監督が指揮を執る新生・日本代表は、2018年の親善試合5試合で15得点。キルギスなど、対戦国が格下のときもあったにせよ、若い選手が中心になったチームが躍動する姿は、注目度や期待感を高めることになった。
森保ジャパンはハイテンポでパスを回し、アグレッシブにゴールへ迫る。この攻撃スタイルは世界の潮流であり、ヴァヒド・ハリルホジッチ元監督やハビエル・アギーレ元監督も目指したものだ。しかし、前任者たちは構築に苦労して、日本代表では理想とする姿を見せられなかった。
2018年を無敗で終えた森保一監督
しかし、森保監督は就任後、一緒にトレーニングをする時間が限られているなかでその戦い方を浸透させていった。これができている理由は、日本人監督だからこそのメリットを最大限に生かしていることにある。
外国人監督を招聘すると、就任からしばらくは文化や教育を含めた国民性、日本サッカーの成り立ち、海外組とJリーグ組の選手の把握などに時間をとられてしまう。イビチャ・オシム元監督や、ジーコ元監督のように何年もJリーグで指導やプレーをしていれば別だが、”世界とアジア”で戦う相手のレベルが変わるダブルスタンダード問題など、日本代表が置かれた特殊な状況はなかなか理解しにくいものだ。
また、これはどこの国の代表チームでも起こりうることだが、時間をかけて相互理解を深めたとしても、メンタリティーを共有できないと、”不幸な信頼関係の欠如”に至ってしまうこともある。
こうしたことを森保監督は就任前から理解し、プレースタイルにとどまらず、メンタル面もわかっている選手たちと同じ言語でコミュニケーションを直接とれる。このメリットを生かして、自身が目指すサッカーを日本代表に浸透させている。
森保監督は、選手に対しての言葉の使い方も秀逸だ。日本人選手は指導者から指示されると、それを忠実に実行する。これは見方を変えると「言われたことしかやらなくなる」傾向が強いとも言える。たとえば、ハリルホジッチ元監督は”強い言葉”で自らの指示を選手に徹底させたが、それによって選手たちが指示されたことの実行だけに注力してしまい、柔軟性の欠如を招いた。結果として、選手たち自身の判断で状況に応じて戦い方を変えられずに苦戦したと言える。
もちろん、言語を同じくしてもその使い方次第で伝わり方は大きく異なる。森保監督は日本代表を指導する際、「細かく指示しない」ことを心がけているという。これは、監督がサイドライン際から事細かに指示を出さなくても選手が主体性を持ってプレーするチームをつくる狙いがある。こういう手法が取れるのも、森保監督が選手たちの能力を最大限に引き出す言葉やコミュニケーション方法を持っているから。そのうえでトレーニングを積んでいるからこそ、就任から間もないなかで、魅力的なサッカーを築けているのだ。
ハイテンポにパスをつなぎながら、素早く縦パスを入れて、相手を攻略していくために、森保監督はトレーニングの時から2、3タッチ以内にパスを出すという制約を設けている。ただし、こうしたトレーニングは嘘をつかないが副作用もあり、ボールタッチ数制限を設けると、横パスやバックパスが増え、タッチ数に気を取られることで、ドリブルがほとんどなくなることもある。
にもかかわらず、森保ジャパンにはそうした副作用がほとんど表れていない。その理由として考えられるのは、単にタッチ数制限をするだけではなく、横パスが何本か続いたら必ず縦パスを入れて攻撃のスイッチを入れる「決め事」も設けているのだろう。それによって、前線の選手はタイミングを合わせるための準備がしやすく、中盤はFWへのサポートも素早くできる。
ドリブルにしても、ミドルサードまではタッチ数をなるべく少なくして、アタッキングサードではフリーにボールを持っていいとしている可能性が高い。だからこそ、中島翔哉(ポルティモネンセ)や堂安律(フローニンゲン)がゴールに向かってあれほどドリブルで仕掛けていけるのだろう。
とはいえ、そうなるとゴール前でのワンタッチ、ツータッチのプレーが減るなど別のデメリットが生じてくるものだが、現時点の森保ジャパンにはそれもない。森保監督がどんなトレーニングメニューを組んで、どんな指示を出しているのか、個人的に非常に興味深いところだ。
中島と堂安、そして南野拓実(ザルツブルク)が、森保監督のサッカーの象徴的な存在になっているが、3人に大迫勇也(ブレーメン)を加えた攻撃陣が、欧州の厳しい環境で日々研鑽を積んでいることも森保体制にとって大きな意味を持っている。彼ら4人は、Jリーグで圧倒的な存在感やポテンシャルを見せた選手たちだ。もともとの能力が高いうえに、海外クラブで日常的にフィジカル面でのハンデを乗り越えながら己を磨いている。
日本代表クラスに登り詰めるほどの選手たちは、前を向いてからの能力だけを見れば、Jリーグ組も海外組も大きな差はない。しかし、ハイレベルになればなるほど、サッカーでは中盤から前線でボールを受けて前を向くことが難しくなる。そこでのクオリティーに関して、大迫、南野、中嶋、堂安の4選手とJリーグ組の差はまだまだ大きいと言える。
自分とマーカーの距離と角度、敵味方の立ち位置と動こうとする方向、それらをパスを受ける前にチェックして把握し、パスを受けた後に敵味方がどう動くかを予測しておく。もちろん、これはJリーグ組も試合中にやっていることだが、現状はそのクオリティーに違いがある。その質をJリーグ組が高めていくことができれば、森保ジャパンの攻撃陣の競争はさらに激しくなり、レベルアップを果たしていくはずだ。
最後に、森保ジャパンでもっとも見逃せないことに触れたい。それはチームのまとまりのよさだ。監督と選手がしっかりコミュニケーションを取り、能力の高い選手が効率的なトレーニングをしても、それだけで「まとまりのよさ」は生まれない。これは森保監督が選手ひとり一人の経歴を知り、個々の特性をわかったうえで、それぞれにチームでの役割を与えていることが大きい。
試合とは別に、「自分はこのチームに何のためにいるのか」がわかるように、責任や使命を選手ひとりひとりに与えれば、チームの一体感は生まれやすい。「世代間の融合」を掲げている森保監督は、新戦力が伸び伸びプレーできる環境をつくりだすことを経験のある選手に求めることで、ベテラン選手の意欲を高め、若手が成長するマネジメントを施していると言える。
ここまで無敗の森保ジャパンは、2019年1月にアジアカップに挑むが、初めての真剣勝負で壁にぶち当たるかもしれない。しかし、どんな結果になろうとも、森保監督のマネジメントがブレない限り、そこで直面した問題を今後への糧にしながら、日本代表はまだまだ成長していくだろう。