神野プロジェクト Road to 2020(22)
福岡国際マラソン決戦前夜(後編)

 12月2日、福岡国際マラソンがスタートする。神野大地は2年連続出場となり、目標は2時間11分42秒を切り、MGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)出場の権利を獲得することだ。

 福岡国際マラソンは、日本人順位1~3位以内なら2時間11分以内、同4~6位以内の場合は2時間10分以内で走れば、MGC出場権を得ることができる。ただ、すでにMGC出場権を持っている選手は日本人順位に含まれない。

 今年2月の東京マラソンで2時間10分18秒を出した神野は、今回2時間11分42秒以内で走ると2レース平均タイムの規定により、MGC出場権を獲得することができる。



自身初マラソンとなった昨年の福岡国際は13位に終わった神野大地

 1年前、神野はMGC出場権を獲得すべく、このレースに出場した。

 春からレイヤートレーニングを始め、夏には70キロ走をこなすなど、このレースのためにしっかりと準備してきた。しかし、直前にアキレス腱痛が発症し、レースではマメがつぶれ、腹痛が起きるなどして2時間12分50秒(13位)に終わった。

―― 昨年のレースを覚えていますか。

「きつかったですね(苦笑)。最初は初マラソンだけど、『いけんじゃね』っていう気持ちと、『自分はマラソンに向いているのかな』っていう不安があったんです。レースでは、いきなり10キロぐらいでマメができたんですよ。本番の緊張とか集団を意識して接地が変わったり、いろんな要素が重なってできたんですけど、その時はそんなに気にならなかったんです。しかも13キロになると、1キロ3分ペースに余裕が出てきました。そのくらいの距離って、みんなペースに慣れてくる頃ですが、じつは我慢するところでもあるんです。でも、僕は初マラソンで何もわかっていなかったので、『あとこのままのペースで30キロを走ればいいんでしょ』って感じでかなり楽観視していたんです」

―― 余裕があったんですね。

「最初はうしろの方を走っていたんですけど、ポーンと前に出ていって、あとはペースメーカーについていけばいいんだって調子に乗って走っていました」

―― 20キロ過ぎから少し遅れ始めてきました。

「そうですね。21キロで大腿四頭筋が限界になったんです。もう四頭筋がメチャクチャ痛くて、25キロぐらいからもうやめたいと思っていました。もうきつくて……マラソンって、みんなこんなきついのを我慢しているのかなって。でも、このレースが最後になるかもしれないと思い、とりあえずゴールまでいこうと必死でした」

―― ゴールした後、一度座ると立てないくらい疲弊していました。

「もう四頭筋に力が入りませんでした。大会スタッフが3人がかりで立つのを手伝ってくれたんですけど、立てない様子を報道の方にめっちゃ撮られて(苦笑)。でも、ゴールした時は達成感があったんです。走っている感覚としてはかなり遅くて、2時間20分ぐらいだろうなって思っていたら2時間12分50秒だった。目標は達成できなかったけど、マラソンの才能がないなってことはないと確認できた。でも、日本人トップの大迫(傑/すぐる)さんのインタビューの声が聞こえてきたらすごく悔しくなって……。半分満足、半分めちゃ悔しいレースでした」

 あれから1年、1キロ3分ペースで走ることに不安を覚えていた神野はもういない。今回は3分ペースで十分走れる体になってスタートラインに立つことになる。強く、たくましくなっているが、ただライバルたちも同じように成長してきている。

―― 今回は設楽悠太(したら・ゆうた)選手を始め、日本人選手の層が厚いですね。

「設楽さん、川内(優輝)さんを始め強い選手が多いという印象です。設楽さんは上尾でも一緒に走りましたが不思議な人。読めない人ですよね(笑)。『日本人には負けないっしょ』という考えなので、そういうのを聞くとやってやりたいなって思います」

―― 来年9月のMGCはかなり厳しいレースになりそうです。

「もう18名の選手はMGC出場が決まっているので、たぶん最終的には30名ぐらいになるでしょう。(東京五輪代表に内定するのは)そこから2人なので熾烈な戦いになる。でも、僕はここまで東京五輪でメダルを獲得しようとトレーニングを積んできているんで、福岡でポンと結果が出て、そこで成長が止まることはないと思うんです。たぶん、福岡で結果を出せれば、ほかの選手よりはより早く階段を上って飛躍的に成長していけると思うんです」

―― まずはMGC出場を決めるということですね。

「勝負する、果敢に攻めるレースは来年の東京マラソンでやりたいと思っています。その時は先頭の第1集団に喰らいついていくレースを描いています。今回の福岡国際は、すごいタイムよりもMGC出場権を確実に獲ること。ここで獲らないと、これからの強化計画が狂ってくるので……」

 神野をサポートする中野ジェームズ修一もレースの前々日に福岡入りする。昨年同様に疲労具合、フォームなどのチェックを行い、万全を期す予定だ。

「中野さんは、足や腰などを触って、ここはこのくらい張りが残っているとか、ここの部分はこのくらいの張りが残っている方がいいとか、僕の体の状態を完全に把握しているのでチェックをしてもらいます。前日とか疲労が抜けすぎていたら刺激を入れたりしてもらい、レース本番に備える感じです」

 全幅の信頼を置く中野の存在は、神野にとって大事なコーチであり、セコンドだ。昨年の4月から本格的にマラソンのトレーニングを積み重ねてきた。中野の描く完成度にはまだ遠いが、それでも「走るために筋肉は十分ついた」と言われるところまでたどり着いた。

「昨年、中野さんは、最初は簡単にはうまくいかないことをわかっていたと思うんです。その時、『思うような結果が出なくても辛抱してやれるか、どうか。その時に自分についてきてくれるかどうか』ということを言っていました。僕は中野さんを信頼してやってきましたし、そろそろ結果が出る時期だと思うので、結果を出して中野さんをはじめ、僕をサポートしてくれる人たちの期待に応えたいと思います」

 神野は、清々とした表情でそう言った。

 福岡国際マラソンで結果を出し、MGC出場権を獲得した後のスケジュールはすでにできている。1月からはケニア合宿に行き、東京マラソン(2019年3月3日)の2週間前に帰国する予定だ。

「自分の力を飛躍的に上げていかないと、東京五輪はないと思っています。その可能性が一番感じられるのがケニアなので、それを求めにいって勝負に出る。実際、今年の夏にケニアに行った成果が、いま出てきている。力も今年の最初の丸亀ハーフで62分35秒、今回の上尾ハーフでは62分19秒。ふたつとも同じような感覚で走ったんですが、タイムは上尾の方がいいですし、力もついてきている。それはケニア効果だと思うので、また行く予定です」

―― 決戦前夜、今の心境は。

「スタートラインに立つまでいかにいつも通りの取り組み、生活ができるのかなと。いま、すごく状態がいいので、このままレース本番を迎えられたらイケると思うんです。とりあえず福岡で……(MGC出場権獲得)ですね(笑)」

 本番を前に再生医療事業を展開するセルソース社と所属契約を結んだ。新たな支えを背に神野にとっては1年前の雪辱を晴らしてMGC出場権を獲得し、自分の成長を確認する極めて重要なレースになる。