アジアパラ競技大会(インドネシア・ジャカルタ)で、男子車いすテニスの国枝慎吾(ユニクロ)、女子の上地結衣(エイベックス)がそれぞれシングルスで優勝し、2020年東京パラリンピックのシングルス出場権を獲得した。東京パラまであと2年。折り返しと…

アジアパラ競技大会(インドネシア・ジャカルタ)で、男子車いすテニスの国枝慎吾(ユニクロ)、女子の上地結衣(エイベックス)がそれぞれシングルスで優勝し、2020年東京パラリンピックのシングルス出場権を獲得した。東京パラまであと2年。折り返しとなるこの段階で出場権を手にしたことによって、調整をしながらツアー転戦に戻ることができ、ふたりは「準備期間が作れるので獲得できてよかった」と話す。

上地は今回が3大会目のアジアパラ挑戦。2010年広州大会は1回戦で敗れ、前回の仁川大会は銀メダルに終わった。悔しい思いをしてきただけに、「今回こそは、という気持ちで準備してきた」と語る。

決勝の相手は、初戦で第2シードの田中愛美(ブリヂストンスポーツアリーナ)を破った中国の朱珍珍(Zhenzhen Zhu)。世界ランクは21位だが、今年3月のアメリカのカジュン・クラシックでは世界3位のアニク・ファンクート(オランダ)に続いて同9位のカタリーナ・クルーガー(ドイツ)、さらに同4位のサビーネ・エラーブロック(同)を立て続けに撃破。決勝こそ世界1位のディーダ・デグロート(オランダ)に敗れたが、いま勢いに乗る選手だ。

上地はこの朱にここまでシングルス2連勝中。ただ、前日のダブルス決勝では敗れており、「最後の1ポイントまで粘る相手。気を抜いてはいけない、と思って試合に入った」と上地。朱の低い軌道のショットで走らされ、スピンの回転精度が甘くなる一方で、相手のバック側に高いボールを集めて返球が短くなったところで前に入る戦略を徹底し、6-3、6-4のストレートで勝利した。

「アジアチャンピオンのタイトルを獲ることが今年一番の目標だったので、“やっと獲れた”という感じでした。勝ててよかった」としながらも、「勝ち方としては納得していない。ショットの精度を上げていかないと、この先、体格に勝るヨーロッパ勢には勝てない」と課題を口にする。

現在、世界ランク2位。昨年はシングルスのグランドスラム3大会で優勝し、今年は全仏オープンを制すなど着実に実績を積んでいる。否応なしに周囲の東京パラへの期待も高まるが、本人は「課題がいっぱいありすぎる」と満足していない。

強化してきたトップスピンやスライスを磨きつつ、昨年は車いすの座面を高くするなど模索してきた。さらに今年は、競技用車いすをこれまでのアルミ製からマグネシウム製に変えてスピードアップを目指した。この後は、いったんアルミ製に戻し、再び試行錯誤を重ねる予定だ。

視線の先にあるのは、世界1位のデグロートの姿だ。「パワーで押されるし、打開策がまだ見つからない。準備が必要」と話し、さらなる自分のテニスの追求を誓った。

男子は、前回の仁川大会決勝と同じカードになった。国枝が6-2、6-3で眞田卓(凸版印刷)との日本人対決を制し、3連覇を達成。第1セットの第3ゲーム、先にブレークしたのは眞田。力強いサーブとストロークで国枝を追い込んだ。だが、国枝はすぐにブレークバックに成功すると、そこから4ゲームを連取し、眞田を突き放した。日が暮れ始めた第2セットは試合途中で照明が灯されたものの、「見づらかった」と国枝。第6ゲームには、ボールを追うなかでフェンスに接触し、転倒する場面もあった。幸い大事には至らず、3つのゲームをブレークし、勝利した。

「完全に今日に合わせて、最初からエンジン全開でいけた」とは国枝。実は前日まではフォアもバックもショットがぶれていたといい、「今週は今年一番、プレー内容が悪かった」と明かす。ここ2日間は、今年4月から師事する日本にいる岩見亮コーチと、オーストラリアにいるメンタルトレーナーのアン・クイン氏と密に連絡を取って原因を探り、当日になって解決策を見出すことができたという。「ぎりぎり間に合い、ショットの打点を修正できた。“チームの勝利”です」と振り返る。

一方、眞田は4年前と同じ銀メダルを獲得し、「アジアの中で強さを証明できたことは誇りに思う」とコメント。プレーについては「ずっとオフェンシブに攻撃できたけれど、国枝選手のディフェンシブな戦い方を打ち破れなかったのが敗因。暑さが厳しく、日が暮れて見にくくなるなか、あれだけ走って、つなぎ続けた国枝選手に完敗だった」と話し、課題をきっちりと修正してきた王者に脱帽した。

右肘のケガの影響でリオパラリンピックでは表彰台を逃した国枝。その後も長期休養を余儀なくされ、「あの時は何度も、“もう終わりだ”と、心の中で思っていた」。2年後にこうして東京パラの出場権を獲ることなど、想像すらできなかったという。その苦悩の日々を救ったもの、それがバックハンドだった。昨年4月に復帰し、肘に負担のかかりにくいバックハンドの打ち方の改造を完全にやりきったことで痛みから解放され、風向きが変わった。同時にラケットや車いすのバケットシートなども刷新していき、今年1月の全豪オープンでは3年ぶりに頂点に立った。

現在は岩見コーチとともに、ネットプレーに力を入れ、より攻撃的なテニスに取り組む。来季は、2016年からシングルスが開催されるようになってからまだ優勝のないウィンブルドン制覇が最大のターゲットだ。

「車いすテニスのツアーを一般と同じように発展させたいし、価値を高めていきたい」

世界のトップ選手が集結するグランドスラムのタイトルを獲りながら、2020年を目指していくつもりだ。

*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。