※この記事はヤングジャンプ42号掲載の記事を再録したものです

井上雄彦のシンペーJAPAN密着。『世界選手権観戦記』(後編)

前編はこちら>>

8月21日【決勝トーナメント1回戦】スペイン戦
 トーナメント1回戦の相手は、グループリーグで予想外の3連敗を喫しD組4位となったスペインに決まった。リオ銀メダルのまぎれもない強豪。もっとも相手がどこであれ、ベスト4を目指す以上ここからは勝利という結果が求められる。



日本は、強豪スペインを相手になかなかリズムに乗れず

 立ち上がり、スペインは3連敗の後だからかエナジーレベルが低いように見える。早めにガツンと叩いて、「これは勝てないな」という感じに持っていけたら最高なのだが。

 相手に付き合っているうちにスペインチームにだんだん火がつき、その気になってくるような展開はプラスアルファの勢いをもたらしかねないので避けたい。

 1Qは14-10で日本リード。スペインのヘッドコーチが凄い形相で選手たちを怒鳴りつける。発破をかけているのかも知れない。日本は高さのある秋田啓(25番)がこれまでと打って変わってインサイドで仕事ができない。スペインの高さのプレッシャーが効いてるのか。

 2Q に入ると試合の流れは大きくスペインに傾いた。まさしく息を吹き返したかのようなスペインの攻勢を浴び続ける日本。7分17秒の間に16-3のランを許してしまう。

「インサイドをやられてしまった時に感覚の中で苦しくなっていくことがある。インサイドでやられるとオフェンスでもインサイドで行くのが怖くなってきたりして、相手の高さをもろに感じてしまう」

 国際試合経験豊富な藤本怜央は、ゴール近辺で闘っている選手の心理をそう説明してくれた。

 インサイドでの劣勢から、ディフェンスでもオフェンスでもチームに嫌なムードが漂っていった。このクォーターの得点はスペイン16点に対し日本はわずか5点。

 3Qに入ってもその流れは続く。日本のオフェンスがうまく機能しないまま残り4分31秒のタイムアウトまででさらに8-2のラン、その後も3連続ゴールを許し、44-29の15点差と広げられて最終クォーターを迎えた。スペイン応援団はもはや勝利を確信しているようだった。

 4Q開始早々、ついに日本はプレスを仕掛ける。怒涛の追い上げで日本チームの真骨頂を見せる。オールコートでプレスをかけるディフェンスにスペインがハマる。ボールを奪取し得点を奪う。4連続ゴールで早めに1桁の9点差まで詰め寄ったことで追いつける態勢に入った。残りはまだ6分14秒ある。スペインはたまらずタイムアウト。私のノートには「まだ間に合う!」と書いてある。

 日本の執拗なプレスは止まらない。そこからの3分間、スペインを無得点に抑えている間に9点を奪い、圧巻の17連続得点。

 48-48、とうとうスペインをとらえた。スペインは再びタイムアウト。残りは3分02秒。スペイン側の心理状態はどうだっただろう。ここであと一押し逆転までいっていればスペインの心は折れたのかも知れない。あくまで結果論だ。

 止むを得ず取ったタイムアウトだが、これが効いた。スペインはまだ同点だと一息つくことができた。日本は奇跡的な追撃で同点にしたことで一息ついてしまった。

 最終スコアは52-50でスペインが逃げ切った。

 その後に行われた順位決定戦で日本はオランダに55-54で競り勝ち、9位で終えた。

 目標にしていた世界のベスト4は叶わなかった。しかし、その目標が手の届くところまで来たことを、日本代表は示してみせた。

 まだ見ていない人もために言っておきたい。彼らの闘い、一見の価値ありである。

(おわり)