2018シーズン、フアン・マヌエル(ファンマ)・リージョというスペイン人指揮官の就任によって、ヴィッセル神戸は確かな変化を遂げている。清水エスパルス戦でアンドレス・イニエスタに指示を出すフアン・マヌエル・リージョ監督 リージョの初采配…
2018シーズン、フアン・マヌエル(ファンマ)・リージョというスペイン人指揮官の就任によって、ヴィッセル神戸は確かな変化を遂げている。
清水エスパルス戦でアンドレス・イニエスタに指示を出すフアン・マヌエル・リージョ監督
リージョの初采配となったのは、第29節のV・ファーレン長崎戦からで、以後は1勝1敗3分け。33節には残留を決定したものの、成績的には驚くに値しない。しかし、戦い方に明確な色合いを出すようになった。目に見えてプレー強度は向上し、選手同士の距離感も改善され、なにより単純なボール回しの精度が格段に上がっている。
「リージョのおかげで、日々、成長しているのを感じる」
これは、先発組の選手の言葉ではない。控え組の選手の言葉である。さらには対戦相手の選手たちが、内々に神戸入団を打診するほどの求心力を発揮。Jリーガーから「こんな指導者のもとでプレーしたい」と絶大な人気を誇る。
「もはやヴィッセルは、相手次第では戦わない。自分たちがボールを持って、自分たち次第で戦っている。ボールをとことんつなげ、フリーになる選手が出てくるのを我慢強く待つ。相手がどこであってもね」
リージョはそう説明した。では、いかにして神戸を変革しつつあるのか――。
「私が監督に就任したとき、トレーニングなのにゆったり歩いているような選手がいた。早急に修正が必要だった」
リージョは、まずトレーニングの姿勢に活を入れたという。
「エリアの中では生きるか死ぬかの戦いなのに、その気迫が伝わってこなかった。たとえば、(大崎)玲央とは何度も話をした。失点を食らっているのに、それをやり過ごしてしまっていないか、と。もう少し執着して向き合うべきだ、とね。日本人は歴史の中で、何かを取り入れ、それを完璧にコピーし、さらに改良する能力に優れていることを示してきた。よりよくする力だ。『玲央、おまえもそれができるぞ』と」
その結果、大崎のディフェンスは明らかに改善された。
「今までの玲央は、ディフェンダーとしてリラックスし過ぎていた。トレーニングの中での強度が上がったことによって、先日はケガをしている。しかし、これを乗り越えたら、代表や海外だって、夢でもなんでもない。ディフェンスはシュートに顔を差し出すような闘志を持てるか。(元)ウルグアイ代表ディフェンダーの(ディエゴ・)ルガーノは、躊躇なく顔を差し出す。ボールのコースを変えることで、チームの運命が変わるからだ。その責任を持てるか。私は玲央や他のディフェンダーにもそれを伝えている」
リージョはその熱を、見識を、ひとりひとりの選手に余すところなく注いでいる。誰ひとりの可能性も、諦めていない。足りないところを叱咤し、いいプレーを大声で褒める。
「MUY BIEN!」(ナイスプレー!)
練習場にはスペイン語が響き渡る。
「前川(黛也)は、今まであまりプレーする機会を与えられていなかった。しかし、ゴールキーパーとしての図々しさがいいね。これから経験を重ねることで、伸びしろしかない選手だ」
リージョはそう言いながら、みや(宮大樹)、たま(三田啓貴)、だいすけ(那須大亮)、なべ(渡部博文)、わたる(橋本和)、いの(伊野波雅彦)、しゅんき(高橋峻希)、ゆうた(郷家友太)、よしき(松下佳貴)、そう(藤谷壮)……と、選手ひとりひとりの所見を次々に述べていった。
「選手はみんな、正しい評価をしてもらいたい、という欲求があるものだよ。それはどこの国であっても同じ。日本人であろうが、アイスランド人であろうが、スペイン人であろうが……。愛情が必要なんだ」
たとえどんな成績で終わっても、リージョが引く手あまたであり続ける理由はそこにあるのだろう。選手が充実感を感じている。それがフットボールの幸せを生み出すのだ。
「たとえば、なお(藤田直之)はボランチなのに、いつもボールを取ろうと、すべてに食いついていた。しかし今はポジションを守るようになって、落ち着いてプレーできている。見違えるほど、ポジションの意識が高まった。日本の選手はまだまだレベルアップしていけるはずだ」
リージョは言葉に熱を込めた。
「今はヴィッセルの日本人選手たちが、思った以上の成長を示している。来季に向けて、よりよい選手を取る、というのも悪くないが、それはゼロからのスタートになる。今は選手が確実に変わりつつあって……残念なのはリーグが終わってしまうことだ。もう少し長く続いていたら、さらに成長が進んでいたはずだ」
そう言って、リージョは笑みを洩らした。それは、手応えと呼んでいいのだろう。最終節は12月1日、ベガルタ仙台とのホーム戦。ヴィッセル神戸は革命の途上だ。