WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス PGAツアーにスター誕生――。 そんなヘッドラインが今、米ゴルフ界を賑わせている。その当事者となるのは、2018-2019シーズンのサンダーソンファームズ選手権(10月25日~2…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 PGAツアーにスター誕生――。

 そんなヘッドラインが今、米ゴルフ界を賑わせている。その当事者となるのは、2018-2019シーズンのサンダーソンファームズ選手権(10月25日~28日/ミシシッピ州)でツアー初優勝を果たした、ルーキーのキャメロン・チャンプ(23歳/アメリカ)だ。



米ゴルフ界で注目を集めているキャメロン・チャンプ

 同大会は、中国・上海で行なわれた世界選手権シリーズ(WGC)HSBCチャンピオンズの”裏開催”ではあったが、ルーキーがツアー参戦2戦目で勝利を飾る快挙とあって、ことのほか大きく報じられた。

 実は、そこまで騒がれる理由は他にもある。チャンプが屈指の”ロングヒッター”だからだ。

 今季の平均飛距離が328.2ヤードと、現在のツアーランキングでも堂々の1位。早くも「大型新人、登場!」「ジョン・デーリーの再来か」「いや、もしかしたらタイガー・ウッズの、後継者の誕生かもしれない」などと、各メディアがはやし立てている。

 米メディアがそれほど注目するチャンプとは、いったいどんなプレーヤーなのか。この機会に、ぜひ取り上げてみたい。

 チャンプは、カリフォルニア州サクラメント出身。テキサスA&M大学を経て、2017年11月にプロに転向した。そして、12月に下部ツアーのウェブ・ドット・コムツアーの予選会を16位で通過し、2018年の同ツアーに参戦。7月のユタ選手権で優勝を飾るなど賞金ランキング6位となり、同ツアーのファイナルズを経て、今季からレギュラーツアーとなるPGAツアーの舞台でルーキーとして戦っている。

 身長183cm、体重80kg。やや細身ながら、昨季の下部ツアーでも平均飛距離は343.1ヤードをマークして、同ツアーのランキングで1位だった。優勝したユタ選手権では自身最長飛距離となる425ヤードを記録(ツアー4位)し、シーズンを通して凄まじいパワーを見せつけてきた。

 私が、チャンプの名前を初めて目にしたのは、2017年の全米オープンだった。2日目を終えて、まだアマチュアのチャンプが松山英樹と並んで8位タイで予選通過を果たした。その際も、並み居るトッププロを抑えて、平均飛距離は1位だった。

 結局、決勝ラウンドではスコアを伸ばせず、ローアマは逃してしまったが、彼の名前が俄然注目を集めたことは、今でもよく覚えている。

 チャンプのコーチは、当時からショーン・フォーリーが務めてきた。ウッズの元コーチでもあるフォーリーは、ジュニア時代にチャンプと出会って、その才能に惚れ込んでコーチに就いたという。

「チャンプの魅力はもちろん、持ち前のパワーとスピードから生まれる飛距離。だけど、それ以上に驚くべきものがあるのは、ショットの精度とパッティングのうまさだ」

 フォーリーはそう言って、チャンプのことを手放しで称える。

 こうしたチャンプの経歴を見てみると、まさに順風満帆。ずっと”王道”を歩んできているように見えるが、そのバッググラウンドを知ると、知られざる苦労もあったように感じる。

 2歳でゴルフを始めたチャンプ。その手ほどきをしたのは、祖父のマーク氏だった。

 黒人のマーク氏は、テキサス州ヒューストンの出身。空軍の退役軍人で、戦地の欧州から白人の嫁を連れて戻ってきたのは1960年代だった。しかし、当時のテキサス州ではまだ異人種間の婚姻は認められておらず、一家はすでにそうした婚姻が認められていたカリフォルニア州に移住した。

 マーク氏は子どもの頃、自宅近くのゴルフ場でキャディーのアルバイトをしていたが、当時は有色人種がプレーすることはできなかった。それでも、兵役中にゴルフを覚えると、すっかり腕を上げたという。

 ただ、チャンプの父である息子のジェフ氏はゴルフに関心を示さず、ベースボールに夢中だった。マーク氏譲りの運動神経のよさもあってだろう、実際にジェフ氏はプロ野球選手となって2年間、MLBでプレーしている。

 そんな息子のジェフ氏と違って、孫のチャンプはゴルフに興味を示し、マーク氏の指導によってどんどん上達していった。メジャーリーガーとして日の目を見ることができなかったジェフ氏も現役から退くことを早々に決断すると、カリフォルニア州に戻ってきて、Tシャツを売るビジネスを展開。プロを目指してゴルフに専念するチャンプを、マーク氏とともに支えていったという。

 振り返れば今年2月、タイガー・ウッズのファウンデーションが主催するPGAツアー、ジェネシスオープンにもチャンプは出場している。”チャーリー・シフォード記念招待”を受けての参戦だった。

 シフォードとは、1961年にアフリカンアメリカン(黒人)として、初めてPGAツアーのメンバーとなった選手だ。そのシフォードを称える意味での招待選手として、ウッズからチャンプの名前が発表された際には、何とも感慨深いものがあった。

 同大会では、チャンプは予選落ちに終わった。それでも、「ウッズと同じフィールドで戦ったことは、夢のようだった」とチャンプ。この経験がまた、大きなモチベーションとなって、下部ツアーを戦い抜く原動力となったのだろう。

 さて、2018-2019シーズンは年内の8試合を終えて、これから短いオフに突入。チャンプはこれまでに5試合に出場して、フェデックスカップポイント6位でニューイヤーを迎えることになる。

「来年の目標は、自分に過度な期待をかけないこと。まずは4日間、いいプレーを続けることが大事だ。そうすれば、優勝争いに絡むことができて、優勝争いをする機会が増えれば、また勝つチャンスが必ず訪れると思う」

 来年への決意をそう語ったチャンプの表情は、非常に大人びていた。

「人はどこから来たのかは関係ない。どこに行くのかが重要だ」

 これは、チャンプが祖父のマーク氏から教わり、今も大事にしている言葉だという。

 新シーズンに入って突然頭角を現し、全米中から多大な期待を背負うことになった23歳の新鋭は来年、華やかなステージをどこまで駆け上がっていくのか。大いに注目である。