2019年に自国開催のラグビーワールドカップを控える日本代表は「秋のシリーズ」4試合を終えた。結果は下記のとおりだが、世界ランキング1位の「オールブラックス」ニュージーランド代表や、前指揮官エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)率…

 2019年に自国開催のラグビーワールドカップを控える日本代表は「秋のシリーズ」4試合を終えた。結果は下記のとおりだが、世界ランキング1位の「オールブラックス」ニュージーランド代表や、前指揮官エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)率いる世界ランキング4位のイングランド代表とテストマッチ(国同士の真剣勝負)で対戦したこともあり、結果は1勝3敗と負け越している。



中村亮土のトライで一時はイングランド代表からリードを奪った

10月26日 vs世界選抜 ●28-31(前半7-24)
11月3日 vsニュージーランド代表 ●31-69(前半19-38)
11月17日 vsイングランド代表 ●15-35(前半15-10)
11月24日 vsロシア代表 ○ 32-27(前半10-22)

 時間帯によっては攻守ともに通用する部分もあったが、W杯でベスト8以上を目標とする「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」日本代表にとっては、けっして満足できる内容とは言い切れなった。タックル後の接点や、敵陣22メートル内に入った後の決定力、そしてプレーの精度やレフェリーへの対応など、まだまだ課題が山積みである。

 ただ、過去2年の秋のシリーズと同様に、日本国内では内容的にいい試合をすることができなかったものの、渡英した後はしっかりと修正ができていた。とくに接点では、ボールを奪いにくる相手を排除する意識を高く保ち、イングランド代表戦の前半ではアタックでリズムを掴んでリードも奪っている。

 また、来年のW杯開幕戦で対戦するロシア代表戦でも、6週間にわたる合宿の成果は見られた。前半は相手のペースに付き合ってしまい12点もリードされたものの、後半はエリアを意識したことで改善し、最終的に逆転勝ちを収めたことは評価できる。

「チームとして非常に成長していると思うが、まだまだ改善点、伸ばす点はある。タフな試合が続き、そこから学んだことも多かった。3戦落としているので満足とは言えないが、以前と比べればチーム力はアップしている」(日本代表ジェイミー・ジョセフHC)

 さらに今回の秋のシリーズでは、ケガなどの理由で主力がチームにいなかった点も考慮しなければならない。

 FL(フランカー)リーチ マイケル、PR(プロップ)稲垣啓太、SO(スタンドオフ)田村優、WTB(ウイング)福岡堅樹といった2015年W杯組が活躍した一方で、HO(フッカー)堀江翔太、FL徳永祥尭(よしたか)、No.8(ナンバーエイト)アマナキ・レレィ・マフィ、FB(フルバック)松島幸太朗&野口竜司が不参加。WTBレメキ・ロマノ・ラヴァも世界選抜戦後に離脱し、CTB(センター)立川理道はパフォーマンスが上がっていないなどの理由で外れている。

 逆に言えば、若手や代表復帰した選手にとって、この秋のシリーズは大きなチャンスだったとも言えよう。「他の強豪国と比べて、日本代表は選手層が薄い」と事あるごとに発言していたジョセフHCからすれば、大きな舞台で新しい選手を試すいい機会となったはずだ。

「悪いタイミングでケガ人が多く出てしまいましたが、逆にとらえれば、新たに入ってきた選手や若い選手に機会を与えられるということ。今回選ばれた選手は、トップリーグのパフォーマンスで彼ら自身がチャンスを作り出した。W杯に向けて若手が活躍し、層をより厚くできると思うとワクワクしています」

 ジョセフHCは新戦力の台頭を期待し、事実、この秋のシリーズではPR具智元(グ・ジウォン)やFL/LO(ロック)姫野和樹の活躍が目立っていた。だが、そのなかでもFW(フォワード)でひと際存在感を示していたのは、25歳のHO坂手淳史だ。

 HOはスクラムやラインアウトといったセットプレーの要で、司令塔のSH(スクラムハーフ)と同じぐらい替えの利かないポジションである。W杯に2度出場した国際経験の豊かな堀江が不在の今シリーズにおいて、1試合目は庭井祐輔が先発したものの、2試合目以降は坂手がその座を奪った。

 オールブラックス戦ではスクラムでプレッシャーを浴びたものの、イングランド代表戦では相手と対等に組み合ってトライ奪取に貢献。ロシア代表戦でも大事な場面で、相手ボールのスクラムからペナルティを誘った。またラインアウトでも、長身選手の多いイングランド代表に対してスローワーとして7本中6本成功させるなど、国際舞台でも通用するプレーを見せている。

「(イングランド戦は)ラインアウトもスクラムも予想どおり。自分たちができる手応えはたくさんあった。セットプレーが試合で一番大事になると思っているので、HOとしてのプレーを安定させ、バックスにいいボールを出したり、相手にプレッシャーをかけられるようにしていきたい」

 一方、BK(バックス)ではCTB中村亮土が目立った活躍を見せていた。1、2戦目は控えからの出場だったが、イングランド代表戦では先発に抜擢。強豪国相手に初めて12番のジャージーを着て臨み、前半22分にはスクラムからフィジカルを活かしてトライを挙げた。

 エディー・ジャパン時代、中村は大学生ながら初キャップを獲得。イングランド代表戦後、かつて薫陶を受けたジョーンズHCの前でいいプレーができたことに関して、「たぶん(エディーさんは)1回では認めてくれないでしょうね(苦笑)。先発すれば80分通していいプレーを続けないといけないので、まだ自分が向上できるところが見つかってよかった」と振り返った。

 また、その他の選手からも目に止まるプレーが多々見られた。

 今年6月に31歳で代表デビューした遅咲きのFL西川征克は先発したイングランド代表戦で役割をまっとうし、ロシア代表戦でも相手ボールを要所で奪うなどチームの勝利に貢献。1年ぶりの代表復帰となった2015年W杯組のNo.8ツイ ヘンドリックは、ロシア代表戦で独走トライを挙げてマフィ不在の穴を埋めた。また、13人制ラグビーのトンガ代表歴を持つウィリアム・トゥポウも、CTBやWTBだけでなくFBとしても十分にプレーできるところを見せている。

 キャプテンのリーチ マイケルは、秋のシリーズが始まる前にこう語っていた。

「選手選考はだんだんと難しいものになっています。新顔の選手も、戻ってきた顔なじみの選手も、彼らがチームに活気や経験値を加えてくれるはず」

 今後は秋のシリーズで不在だった主力だけでなく、来年のW杯までに日本代表資格を取れる見込みのFL/LOグラント・ハッティングやFLピーター・ラブスカフニも選手選考に加わってくる。これからますます、レギュラー争いが激しくなることは必至だ。

 W杯の最終登録人数は31人。自国開催のW杯でピッチに立つために、この秋のシリーズが終わってもトップリーグ、そしてスーパーラグビーのサンウルブズで彼らのアピールは続いていく。