11月25日に千秋楽を迎えた大相撲九州場所で、東小結・貴景勝(千賀ノ浦部屋)が初優勝を飾った。22歳3カ月での初賜杯は、年6場所制となった1958年以降、6番目となる年少記録。また、初土俵からの所要26場所は元横綱・曙に並ぶ4位タイ、…

 11月25日に千秋楽を迎えた大相撲九州場所で、東小結・貴景勝(千賀ノ浦部屋)が初優勝を飾った。22歳3カ月での初賜杯は、年6場所制となった1958年以降、6番目となる年少記録。また、初土俵からの所要26場所は元横綱・曙に並ぶ4位タイ、小結での幕内Vは9例目と、記録ずくめの快挙となった。



貴ノ岩(奥中央)らに初優勝を祝福される貴景勝(手前)

 入門時からの師匠だった貴乃花親方が突然退職したことにより、千賀ノ浦部屋に転籍して最初の場所での優勝は、”平成の大横綱”とうたわれた、かつての師匠の指導を忠実に守った結果でもあった。

 12勝2敗で西大関・高安(田子ノ浦部屋)と並んで迎えた千秋楽。東前頭3枚目の錦木(伊勢ノ海部屋)をはたき込みで破り2敗を守った貴景勝は、歓喜の瞬間を東支度部屋で迎えた。結びの一番で高安が東関脇・御嶽海(出羽海部屋)にすくい投げで敗北。テレビ画面を見ずに優勝決定戦へ準備をしていた時に付け人から大関が敗れたことを知らされると、大きく息を吐いて兄弟子の貴ノ岩(千賀ノ浦部屋)と握手を交わし、喜びをかみしめた。

 優勝インタビューでは「決定戦になると思って準備していました。まさか(優勝)できると思っていなかったので、毎日の相撲を取り切れてよかったと思います」と話し、天皇賜杯を抱いた実感を「少し頭を整理するのに時間がかかりましたけど、徐々に喜びが増してきました」と、初々しくも落ち着いた口調で心境を吐露した。

 千秋楽の桟敷席からは、実家の兵庫県芦屋市から会場にかけつけた父親の佐藤一哉さんが息子の雄姿を見つめていた。

 1996年に生まれた貴景勝の本名「貴信」は、当時の横綱・貴乃花の「貴」から取られたものだ。幼少期から小学校3年までは極真空手で体を鍛え、その後は相撲に転向。一哉さんは4年生から貴乃花部屋が行なっていたちびっこ相撲教室「キッズクラブ」へ通わせ、貴乃花親方から「この子は必ず強くなります」と励まされた。自宅では体を大きくするための食事の指導、基礎体力を鍛えるトレーニングなど、貴景勝は父の薫陶を受けてたくましく成長していった。

 報徳学園中学に進学して中学横綱になると、高校相撲の名門・埼玉栄高校では世界ジュニア選手権で無差別級を制覇するなど7つのタイトルを獲得。そして高校3年の9月には、親子で憧れてきた貴乃花部屋に入門し、初土俵から10場所目で幕下優勝を決めて新十両に昇進するなど出世街道を歩んできた。そんな活躍の原点となる教えを授けてくれた父に、貴景勝は優勝インタビューで感謝の思いを伝えた。

「小さいころからプロで活躍することが親子での目標で、少し結果を出すことができたので本当によかったなと思います。小さいころから何でも一緒にやってきましたから、その恩を少し返すことができたのかなと。あらためて、ありがとうと言いたいです」

 一方の一哉さんは、初土俵から4年目の優勝について「貴乃花親方から『力士としてどうあるべきか』ということを、若い時から叩き込まれたことが大きかったと思います」と振り返った。

「貴乃花親方の指導は、わかりやすく言えば『よく食べ、よく寝る』ということなんです。それは、1日24時間をすべて相撲に捧げるためにはどう生活するかということ。たとえば食事では、炭酸飲料をがぶ飲みしない、肉ばかり食べずに魚や野菜をバランスよく食べなさいといったように、生活のすべてを相撲を軸に考えることを教えていただいたんです。横綱として相撲をあそこまで極めた方が、1日の時間をどう割り振って使っていたか。あれだけの実績を残せた理由を間近で見て、教えられたことが非常に大きかったと思います」

 稽古場に限らず、力士としての生活の仕方を4年間で徹底的に指導されたことで、貴景勝は独自に栄養学を学び、食生活を管理して師匠の教えを進化させた。貴乃花部屋での4年間の積み重ねがあったからこその栄光だったのだ。

 一哉さんが信頼し、大切な息子を預けた貴乃花親方は協会を去った。それでも一哉さんは、「入門したばかりなら不安はあったと思います。ですが、息子も高校を卒業してから4年経ち、大学に進んでいたら就職する時期です。相撲は監督などがサインを出して動く競技じゃありませんから、土俵の上ではひとりで闘わなくてはいけません。そういう意味でも、ひとり立ちする時期だったと思います」と父親としての心情を明かし、「貴乃花部屋での4年間なくして今日はありません」と感謝を述べた。

“貴乃花魂”を継承しての初賜杯。貴景勝自身も、千秋楽の夜に元親方に電話を入れ、優勝を報告したという。

 来年の初場所、貴景勝にはさらなる進化が期待される。来場所が「大関取り」の場所になるかは意見が分かれるところだが、連覇なら文句なし。優勝には届かずとも、今場所と同じ13勝前後の好成績を残せば、一気の大関昇進も十分にありうる。

「来場所に成績が残せなかったらダメなので、タガを締めて一日一日頑張りたい。黒星が増えたとしても、しっかり自分の相撲を取り切りたいと思います」

 淡々と、そして堂々と決意を語る貴景勝の姿は、現役時代の貴乃花を彷彿とさせた。

 九州場所では3横綱が休場し、数々の栄光を手にしてきた白鵬も、今年の優勝は秋場所の1場所のみ。世代交代の波が「待ったなし」でやってきた2018年。来年は貴景勝が大相撲新世代の旗手となる。