95回目のラグビー関東大学対抗戦。臙脂(えんじ)と黒黄の激突――。 早稲田大と慶應義塾大の伝統の一戦は、創部100周年のアニバーサリーイヤーを迎えた早稲田大に軍配が上がった。21-14で勝利を飾った早稲田大は、この白星で5勝1敗。帝京…

 95回目のラグビー関東大学対抗戦。臙脂(えんじ)と黒黄の激突――。

 早稲田大と慶應義塾大の伝統の一戦は、創部100周年のアニバーサリーイヤーを迎えた早稲田大に軍配が上がった。21-14で勝利を飾った早稲田大は、この白星で5勝1敗。帝京大、明治大とともに優勝戦線に踏みとどまった。



慶應大を下して優勝に一歩近づいた早稲田大

 試合前、大学生唯一の日本代表候補であるSH(スクラムハーフ)齋藤直人(3年)は、左手の甲に「前へ、サポート、出し切る、気持ち」と書いて試合に臨んだ。「(タックルで)刺さろう、いったろうと思っていました!」。試合後、額に傷を負いながらも、身長165cmの希代のスクラムハーフは破顔した。

 この試合、早稲田大のテーマは「ディフェンスで勝つ」だった。

 2月に就任した相良南海夫(さがら・なみお)監督は、ディフェンスを礎(いしずえ)としたチーム作りに着手。その結果、夏の練習試合で帝京大を下し、9月に開幕した対抗戦でも開幕4試合で平均86得点・失トライ3と絶好調だった。しかし、11月4日の帝京大戦では接点で後手を踏み、生命線のディフェンスがまさかの崩壊。6トライを奪われて28-45と大敗を喫した。

 慶應大戦までの3週間弱で、どこまで修正できるか――。この試合は早稲田大にとって、今後の試金石となる一戦だった。

 だが、いざフタを開けてみると、臙脂のジャージーはその不安を一掃するような躍動を見せた。FWは近場でしっかりと相手を食い止め、BKに展開されてもディフェンスラインを素早く上げて相手のアタックにプレッシャーを与え続ける。後半14分には慶應大の19次にわたる攻撃を耐えてノックオンを誘い、自陣からカウンターを仕掛けて齋藤がトライを挙げた。

 慶應大を2トライに抑えたことは、チームにとって大きな自信となっただろう。「ディフェンスで粘り強くやっていこう、とにかく今日は我慢比べの試合だと言って選手を送り出しました。その我慢比べにわずかながら勝てたことが、今日の結果になった」(相良監督)。

 そのチームディフェンスと並んでもうひとつ、突出したプレーを見せていたのが、MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝いた身長173cmのSO(スタンドオフ)岸岡智樹(3年)だ。東海大仰星高時代に「高校3冠」を成し遂げ、大学では数学を専攻する頭脳派の司令塔は、この試合で誰よりも冷静だった。

「みんなに火をつけたい」と気合いを入れて臨んだ岸岡は前半25分、大学ラグビー史上に残るプレーを平然とやってのける。自陣10メートルラインの前でパスを受けると、そのまま躊躇なくドロップキック。放物線を描いたボールは、そのままHポールの真ん中を通り、3−0と先制に成功する。トップリーグでもお目にかかれない、ラグビーファンの度肝を抜く55メートルのドロップゴールだった。

 このゴールには、味方も大いに驚いた。相良監督が「ドロップゴールは想定外でした(笑)。見ているほうもビックリしました。ワールドクラスだなと思いました!」と手放しで賞賛すれば、セットプレーの要であるHO(フッカー)宮里侑樹(4年)も「持っているなと思いました。さすがです。天才しかできない。ムードが変わりました!」と後輩のプレーに目を丸くした。

 当の岸本も「練習でも遊びで40メートルくらいしか狙ったことがない」と、さすがに55メートルのドロップゴールを決めたのは初めてだと言う。

「相手のキックが伸びていなかったので、上空は風があるなと思っていました。流れを相手に持っていかれたくなかったし、敵陣にいたかったので、もし外れても相手のドロップアウト(慶應大が22メートルラインからのドロップキックでのリスタート)だったので狙ってもいいかなと」

 奇襲のひとつだったかもしれないが、岸岡のビッグプレーが早稲田大に流れを呼び込んだことは間違いない。その後も、相良監督に「満点に近い内容だった」と言わしめるほど、岸岡のゲームメイクは冴えわたる。前半は風上だったこともあってキックを多用し、味方のコールを聞きながら相手の裏にハイパントキックを蹴り分け、陣地争いを有利に進めていった。

 また、「キックを蹴るのがあまりうまくない人のほうへ蹴った」(岸岡)プレーにより、早稲田大はさらなるチャンスを掴む。前半30分、岸岡のキックを相手WTB(ウイング)がミスしたところにプレッシャーをかけてペナルティを誘う。そのチャンスからモールを形成し、FL(フランカー)幸重天(ゆきしげ・たかし/3年)がインゴールでボールを押さえて11-0とリードを広げた。

 後半は慶應大が意地を見せて、早稲田大も押し込まれる時間帯が増える。2トライを許すものの、早稲田も少ないチャンスから加点。21−14で勝利を手にし、慶應大の優勝の芽を摘んだ。この勝利により、早稲田大は引き分けを挟んで早慶戦7連勝。通算成績を68勝20敗7分とした。

 対抗戦は残り1試合。早稲田大は12月2日に明治大との「早明戦」を残すのみとなった。5勝1敗同士の対戦で、勝利したほうが対抗戦の優勝となる(12月1日に帝京大が筑波大に勝利した場合は同時優勝)。

 早稲田大が10年ぶりの大学選手権優勝を狙うには、チームディフェンスのさらなる強化、そして岸岡のゲームコントロールが必要不可欠だろう。岸岡は「(早明戦は)優勝のかかった試合でもあり、伝統の一戦。雰囲気に負けそうになりますが、やるべきことをやって、早慶戦よりいい試合にしたい」と先を見据えた。

 昨年度、早稲田大は対抗戦2位タイ(4位扱い)で大学選手権に進出し、3回戦で東海大に18-47と競り負け早々に姿を消した。だが、今年は創部100周年――。徐々に復調の兆しを見せており、早稲田大ファンの期待は高まる。ゲームリーダーとして成長著しい10番・岸岡の存在感は増すばかりだ。