スポルティーバの読者の皆様、ご無沙汰しております。FC岐阜を運営する、株式会社岐阜フットボールクラブの前社長で、現…
スポルティーバの読者の皆様、ご無沙汰しております。FC岐阜を運営する、株式会社岐阜フットボールクラブの前社長で、現在は株式会社まんまる笑店の社長を務める、恩田聖敬です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)を罹患しております。

FC岐阜のホーム最終戦を観戦した恩田氏
今シーズンのFC岐阜は、前半戦こそ最高位7位とプレーオフ圏内も視野に入れながら、終わってみれば20位と、毎年恒例の残留争いを演じてしまいました。何と言っても、中盤の10連敗が痛すぎました。そんなFC岐阜がもがき苦しんでいる間、私個人ももがき苦しんでいました。
7月の下旬に、軽い肺炎の疑いで入院しました。当時は、念のための入院で、すぐに退院するつもりでした。しかし数日後、事態は急変します。深夜に用を足した後に、これまで感じたことのない呼吸苦に襲われました。病院から妻には、「命の危険がある」と連絡があったそうです。幸いにして、一命は取り留めましたが、自身の呼吸で生きるのは限界であることを突きつけられました。結果として、8月末に気管切開をして人工呼吸器をつけることになりました。
11月17日の、FC岐阜ホーム最終戦に、人工呼吸器ユーザーとして私は初めて観戦に行きました。退院後初めての外出だったこともあり、一時救護室に運ばれる事態にもなりましたが、何とか無事に帰ってくることが出来ました。その中で、思ったことを記そうと思います。
FC岐阜のスタジアムに限らず、人工呼吸器ユーザーのような重度障害者が一番困るのは、障害者席に電源が無いことです。人工呼吸器を始めとして、電源の要るものを多く利用しています。昨今の台風による停電の際に、人工呼吸器の内蔵バッテリーが切れて、命を落とされた方もいらしたと聞いています。コンセントひとつが命綱となるのです。

過去に私は、人工呼吸器ユーザーとFC岐阜の試合観戦をしたことがありますが、当時の私は電源の重要性に全く気づいておらず、すごく危険な観戦に招待していたことを、今になって猛省しています。
一方私は、ALS患者に誘われてナゴヤドームに中日ドラゴンズの試合を観に行ったことがありますが、バリアフリーの観点から見たら素晴らしかったです。障害者用の駐車場の近くに、障害者専用の入口があり、そこには大病院並みのストレッチャーでも入る広さのエレベーターがありました。障害者席には、もちろん電源があり、介助者の席もセットで確保してありました。障害者トイレへの導線も、きちんとしていました。
ナゴヤドームの開業が約20年前ですが、それよりかなり以前に作られた施設は「なんちゃってバリアフリー」が多いです。エレベーターがあればバリアフリー、スロープがあればバリアフリー、障害者用トイレがあればバリアフリー、といった感じです。設備をつけることだけで満足してしまうのです。
しかし、FC岐阜のスタジアムのエレベーターには、人工呼吸器を積んだ私の車椅子は入らないし、スロープの勾配は急で介助者は私の重い車椅子を押すのに四苦八苦していますし、障害者用トイレの入口はクランクになっており、すごく入りづらいです。FC岐阜のスタジアムに限らず、後付けでバリアフリー設備を付けた施設は、使いにくいものが多い気がします。皆様が足を運んでいるスタジアムのバリアフリー設備はいかがでしょうか?
かく言う私も、2015年の「J1ライセンス」の基準を満たすために行なったスタジアム改修の際に、社長の身でありながら、実効性のあるバリアフリーの観点を全く持っていませんでした。結局、障害が我が身に降りかからない限り、バリアフリーの観点などなかなか持てないのです。
そもそもバリアフリーとは、障害者に限らず、高齢者、妊婦、乳児連れの方などのハンディキャップを持つ人にも安心して使え、かつ健常者にも使いやすいといった考え方のはずです。
誤解のないように申し上げますが、私は全ての設備を私のようなマイノリティに合わせて欲しいと主張しているのではありません。そんなことは不可能です。予算の都合もありますし、例えば点字ブロックは、盲目の方の助けになりますが、車椅子ユーザーにとってはガタガタ道となる、といったように各々の症状に対して利益相反してしまうのです。
大切なのは、それぞれのハンディキャップによって、具体的に何があると助かるのかを知ることです。そこから全てが始まります。ハード(設備)でまかなえないものは、ソフト(おもてなし・配慮)でまかなう必要があります。
極端な話、エレベーターがなくても、成人男性が4人いれば、車椅子を担いで階段を登って、上階に行けます。私自身、講演先や訪問先で何度もこのようなおもてなしを受けてきました。相手が私の状態を知った上で、人足を用意するという配慮をしてくれたのです。「おもてなし」は、世界に誇るべき日本の文化のはずです。
2020年、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。そこには、世界中の健常者と障害者が集まるはずです。現在どのような準備が進められているかわかりませんが、是非とも障害者を含めて当事者の声を聞いて欲しいと思います。そして、少なくとも、競技場に指定されている施設では、全ての競技者及び観客が、安全・安心に過ごせる環境を整えて欲しいと思います。日本が「バリアフリー後進国」の烙印を押されないことを願いながら、筆を置きたいと思います。
株式会社まんまる笑店
代表取締役社長
恩田聖敬
FC岐阜・恩田社長の600日 ~Jリーグ地域クラブへの伝言~
連載 第1回はこちら>>
【Profile】
恩田聖敬(おんだ・さとし)
1978年生まれ。岐阜県出身。Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。現場主義を掲げ、チーム再建に尽力。就任と同時期にALSを発症。2015年末、 病状の進行により職務遂行困難となり、やむなく社長を辞任。翌年、「ALSでも自分らしく生きる」をモットーに、クラウドファンディングで創業資金を募り、(株)まんまる笑店を設立。講演、研修、執筆等を全国で行なう。昨秋、対談本『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』を出版。私生活では2児の父。
※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて、力がなくなっていく病気。 最終的には自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけないと死に至る。 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受け、脳からの命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉が痩せていく。その一方で、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通。発症は10万人に1人か2人と言われており、現代の医学でも原因は究明できず、効果的な治療法は確立されていない。日本には現在約9000人の患者がいると言われている。