全スポーツ競技の中で「地球上最強のアスリート」と言っても過言ではないであろう、ボクシング・井上尚弥。実は井上尚弥、2018年は2試合で合計182秒、つまり約3分(1ラウンド分)しかリングに立っていない…。 ・合わせて読みたい→【特集】地球…

 全スポーツ競技の中で「地球上最強のアスリート」と言っても過言ではないであろう、ボクシング・井上尚弥。

実は井上尚弥、2018年は2試合で合計182秒、つまり約3分(1ラウンド分)しかリングに立っていない…。

 

・合わせて読みたい→
【特集】地球上で最強のアスリート 井上尚弥(http://cocokara-next.com/feature_archive/naoyainoue-feature/)

 

 10月7日に横浜アリーナで行われたワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)のバンタム級初戦では、元WBA 世界バンタム級スーパー王者のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)と対戦。1分10秒でKO勝利、準決勝進出を決めた。
1試合さかのぼり、5月25日にはジェイミー・マクドネル(イギリス)とWBA世界バンタム級タイトルをかけて戦い、1分52秒でTKO勝ち。

 強すぎるがゆえに、対戦相手が見つからないと言う悩みがしばらくあったが、WBSSと言う大会のおかげでしばらくは、井上尚弥の試合を楽しむ事ができそうだ。

スピード、テクニック、パワーと全ての面で周囲が羨むレベルを兼ね備え、リング上で圧倒的なパフォーマンスを披露し続けている。

その強さの秘密はどこにあるのだろうか。

井上の所属ジム会長で、現役時代は「100年に1人の天才」と言われた元世界チャンピオン・大橋秀行さんに、「150年に1人の天才」と呼ばれる井上尚弥の心・技・体について語ってもらった。

「心」、「技」、「体」の中で井上尚弥が最も優れているモノは?

 「心技体」で井上尚弥が最も優れているモノを挙げるとすれば、私は心と答えます。

 技術も体も最大限に生かすのは心。そこが強く、あるいは成長していかなくては本来の力は発揮できません。私は現役時代から数多くのボクサーを見てきました。その中には当然、心が成熟せず、技術や体といった天性の資質に頼ったばかりに大成しなかったボクサーがたくさんいます。

今、こうして井上に注目が集まるようになって、「どんなに才能があっても、心の持ち様と自分の活かし方を知らなければ、本物の強さは手にできないんだな」と改めて感じさせられます。

井上尚弥の強さ=謙虚さ+努力家

 第一に井上は謙虚です。

 彼ほどの強さと実績、世間的な注目を考えれば天狗になってもおかしくはありません。努力を重ねて世界チャンピオンとなったわけですから、私の本音を言えば「ある程度はなっても仕方がないのかな?」とは思います。
実際、真面目で努力を惜しまない川嶋勝重や八重樫東ですら、チャンピオンになった当初は、少なからずそういった変化を感じたものです。でも、井上にはそれが全くなかった。

 それは、井上を子供の頃から指導している、父親の慎吾さんの影響が大きいでしょう。

 井上尚弥というボクサーは、謙虚であり努力家です。慎吾さんが、練習量など努力の必要性を息子に教えてきたことで、「俺はこれだけやったんだから負けるわけがない」という自信を与えてくれたし、何よりも私が素晴らしいと感じたのは、ボクシングの面白さを本人に植え付けてくれたことです。

 例を挙げると、ボクサーに必要不可欠な練習であるロードワーク。ただ走るだけの、単調で地味なトレーニングです。そのメニューを黙々と消化させるのではなく、弟の拓真やいとこの浩樹との合宿中などには、「じゃんけんで勝った方がダッシュをする」と言ったゲーム性を取り入れたりしていた。子供の頃から遊び心のある練習をしていることで、井上の中で「ボクシングは楽しいものなんだ」と根付く事ができたのでしょう。

 だから井上は、弱音は一切吐かないし、不安も口にしません。それは、本人の「細かいことは気にしない」という大らかな性格も関係しているのかもしれませんが、やはりボクシングを楽しんでいるからなのでしょう。ほとんどの選手は、試合前は緊張し「負けたらどうしよう……」、「絶対に勝てる!」と心の中で葛藤を繰り返しながらリングに上がるものですが、井上にはそれがない。常に自信満々でトレーニングを積んでいるし、試合の直前になっても自然体でいられるのです。

デビュー戦でも、初の世界戦でも「登場曲のサビで登場したい」と言う平常心

 私がそのことを痛感したのは、2012年のプレデビュー戦でした。

 普段の試合にも言えることですが、リングに上がる直前というのは勝つか負けるかの瀬戸際に立たされているわけですから、どんなに力がある選手でも多少は態度に出ます。控室や入場のタイミングが、最も人間性が現れるものなのです。大橋ボクシングジムの世界チャンピオンで言えば、川嶋や八重樫もそう。試合前の控室では10分程度、控室でひとり、体中から湯気が出るくらい心身を集中させる時間が必要なくらいです。

 でも、井上にはデビュー戦からそれがなかった。普段通り私やトレーナーたちと会話し、リングに向かう際も「登場曲のサビのところで行きたい」と言ってのける男だったのです。

それは、初めての世界タイトル戦でも同じでした。この時の井上も、あまりにいつも通りだったので、私とトレーナーで「あれで大丈夫かな?」と不安を口にしていたくらいです。

それが、結果的に6ラウンドTKO。

井上尚弥の目標とは

 井上には恐怖や緊張、不安を自分で解消できる。それは、私から言わせれば「24時間、強い」証拠。24年間の指導者生活で、あれだけ堂々としているボクサーは井上だけです。

 そんな彼の心を支えているのは、「ボクシングを楽しむ事」と、「これだけやったんだ」という自信のほか、彼には確固たる目標があるからだと思っています。

 誰もが世界チャンピオンを目指し、その目標を達成すれば「〇回防衛」「〇階級制覇」とランクを上げるのが一般的ですが、井上の一番の目標は「37歳まで現役」です。

そんなボクサー人生を設計している選手など、私はこれまで見たことがありません。それを成し遂げるために、井上は謙虚に振舞い、努力をしながらも楽しんでボクシングを続けられる。そして、心も強くしているのです。

つづく

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

井上尚弥 (いのうえ・なおや)

1993年4月10日、神奈川県座間市出身。
今もコンビを組む父・真吾氏の下、小学1年でボクシングを始める。相模原青陵高校時代に7冠を達成し、2012年に大橋ジムからプロ入り。戦績17戦全勝(15KO)。15年に結婚した高校時代の同級生との間に17年10月、長男が誕生した。