主役たちの到着の遅れ、勝敗に大きな意味のない親善試合、目立つ空席。そうした影響もあってか、11月16日に日本代表とベネズエラ代表の一戦が行なわれた大分スポーツ公園総合競技場には、どことなく弛緩した空気が漂っていた。一部のファンも渋滞に…

 主役たちの到着の遅れ、勝敗に大きな意味のない親善試合、目立つ空席。そうした影響もあってか、11月16日に日本代表とベネズエラ代表の一戦が行なわれた大分スポーツ公園総合競技場には、どことなく弛緩した空気が漂っていた。一部のファンも渋滞に巻き込まれたためスタジアム到着が遅れ、声援もいつもより小さかった印象がある。

 それでも当然、ピッチ上では懸命に戦う選手たちの姿があった。なかでも、日本のCB吉田麻也(サウサンプトン)とベネズエラのFWサロモン・ロンドン(ニューカッスル)、プレミアリーグでプレーするふたりの対決は見応えがあった。



吉田麻也とマッチアップしたベネズエラ代表FWのロンドン

 ベネズエラのゴールキックやロングフィードが前線に飛ぶと、ターゲットとなるのはロンドンだ。186センチ・98キロのパワフルなストライカー(なぜか試合前に配られた公式スタートリストには、172センチ・74キロと記載されていたが)は、ニューカッスルでの直前の試合で2ゴールを挙げており、調子を上げている。

 だがこの日は、吉田と冨安健洋(シント・トロイデン)の密着マークに苦しみ、これといった活躍は見せられなかった。序盤には決定的なシュートが冨安に阻まれるなど、惜しい場面もあったが、以降は徐々に影が薄くなっていき、前線で十分にポイントをつくることもできず、ハイボールの競り合いでも背後の吉田に負けることが多かった。

 試合後、ベネズエラの選手たちの先頭を切って取材エリアに現れたロンドンに声をかけ、印象を聞いてみた。日本代表と吉田、そしてニューカッスルのチームメイトについて。

「日本は予想どおりクオリティの高い選手が多くて、苦しい戦いを強いられたよ。日本のホームグラウンドだったから、うちの選手たちは少し硬くなっていたかもしれない。それでも僕らは最後まで勝利を目指して戦った。いい時間帯もあったし、なんとか1点を返して引き分けで終われたので、満足している。全体的なパフォーマンスも悪くなかったと思う」

 この日、プレミアリーグのクラブに所属する選手はロンドンと吉田だけだったが、そのふたりがマッチアップ。吉田のマークに手こずっていたようにも見えたが、実際はどうだったのだろうか。

「僕と彼は同じプレミアリーグでプレーしているから、もちろん意識はしていたよ。当たりにも空中戦にも強い、タフなセンターバックだ。今日はなかなか自由にプレーさせてもらえなかった。簡単な試合にならないとは思っていたけど、本当にそうだったね。

 吉田は常に冷静だから、自分の動きが読まれているように感じた。ただ、今日のようなフレンドリーマッチでも、フットボールでもっとも重要なのはチームだ。自分はストライカーなのに得点できなくて残念だったけど、チームが同点で終えられたのでよかった。いずれにせよ、代表の試合は常にハイレベルになる。僕らも、もっとレベルを上げていかなければならない」

 日本の当面の目標は来年1月のアジアカップになるが、ベネズエラのそれは来夏のコパ・アメリカだ。10代から代表に名を連ねてきたロンドンは、南米王者を決めるそのコンペティションに3度出場。初めて参加した2011年のアルゼンチン大会では、同代表のメジャートーナメント最高成績となる4位入賞に貢献している。

 来年のブラジル大会には日本も招待されている。出場すれば、間違いなく貴重な経験を得られるはずだ。

「コパ・アメリカはものすごく厳しい大会だ。ブラジルやアルゼンチンを筆頭に、相手はどこも強豪ばかり。トーナメントは短期間に行なわれるけど、勝ち上がっていくには、大会のなかでも成長する必要がある。そして訪れたチャンスは確実につかまなければならない。基本的なことを徹底し、ディテールにもこだわる。(ベネズエラも日本も)その積み重ねが成功につながる」

 最後にクラブについて。地元紙によると、ニューカッスルのラファエル・ベニテス監督は、大柄でパワフルなロンドンとスピードを武器とする武藤のコンビが最適だと考えているようだが、コンディションの問題もあり、ふたりが揃い踏みする機会はほとんどなかった。

 しかしロンドンの負傷が癒え、11月3日のワトフォード戦ではふたりの同時先発が実現。しかもそこで今季初勝利を手にしている。武藤はその試合で負傷し、ハーフタイムに交代したが、新たなパートナーをロンドンはどう見ているのだろうか。

「うまくやっているよ。僕らは似た境遇にあるんだ。武藤と僕は今シーズンからニューカッスルに加入し、ポジションも同じフォワードだ。1年目同士、ピッチの内外で助け合っているよ。ただ僕はすでにプレミアリーグで3シーズンを過ごしているけど、彼はドイツからやってきて、プレミアリーグには今季にデビューした。だから当然、順応する必要がある。彼自身、イングランド(のリーグ)は簡単ではないと言っていたけど、日を重ねるごとにどんどんよくなっている。彼は間違いなく、プレミアリーグで大きなインパクトを与えることができるようになるさ」

 日本との接点を持つストライカーはそう言って、笑顔で握手に応じた。ロンドンと武藤が前線から牽引するニューカッスルにも、引き続き注視していきたい。