イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)は第12日、女子シングルス決勝が行われ、第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が第4シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)を7-5 6-3で下し、大…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)は第12日、女子シングルス決勝が行われ、第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が第4シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)を7-5 6-3で下し、大会7度目の優勝を遂げた。グランドスラムの通算タイトル数はこれで「22回」。シュテフィ・グラフ(ドイツ)と並ぶオープン化以降の最多記録を達成した。

   ◇   ◇   ◇

 今の女子テニスの真価が問われる、そんな雰囲気の中で始まった試合だった。2日前の準決勝は2試合を合わせてもわずか2時間で片がついた。男子と同額の賞金をもらう価値があるのかという疑問の声が膨らんでいたことは確かだ。

 第2ゲームを4度のデュースの末にケルバーがキープしたとき、センターコートに沸き起こった拍手は、ここから起こるドラマへの期待の表れだっただろう。

 「セレナはいつも私の力を100%引き出してくれる」とケルバーは言ったが、全豪オープンでケルバーの怖さを知ったセレナもまた、本能的にベストのパフォーマンスを繰り広げていた。

 セレナのパワーを強烈なカウンターで切り返すケルバー。両者ともスライスやドロップショットとテクニックを駆使し、脅威のスピードとスタミナでコートの中を走り回る。1ポイントに要する労力の大きさが、一打一打に乗せる声のボリュームとセンターコートのボルテージを高めていた。

 第1セット、第12ゲームのケルバーのサービスで15-40のブレークポイントが訪れる。一つはケルバーがバックハンドのウィナーでしのいだが、続くセレナの強烈なバックハンドのクロスには、ケルバーの足も間に合わなかった。

 第2セット3-3で迎えた第7ゲームで、ケルバーが初めてのブレークポイントを握る。しかしセレナの時速188kmのサービスエースにはなす術がなく、続いて時速200kmのエースによってアドバンテージを奪われた。

 「あれがセレナの力」というケルバーの言葉通り、一番欲しいところでエースを放つ勝負強さが、セレナを史上最年長女王たらしめている。

 ピンチを脱したセレナが、次のゲームでチャンスをつかんだ。ケルバーが40-15としていたゲームだが、ケルバーには珍しいイージーなミスも出てセレナが4ポイントを連取。決定的なブレークに成功して5-3とすると、続くゲームはサービスだけで40-0と一気にチャンピオンシップポイントを握る。最後はラリーに打ち勝ち、ネットで仕留めると、力が抜けたように仰向けに倒れた。

 試合時間は1時間21分。ロングマッチではなかったが、1ポイント1ポイントが長く、重く、トータルに濃密な時間だった。

 通算22個目のグランドスラム・タイトルは、ケルバーの大先輩であるドイツのレジェンド、シュテフィ・グラフが持つ最多記録に並ぶ数だ。ただ、21回目を獲得してから一年もかかったことは意外だった。

 最近では「22」に関する質問に辟易したように「22回を目標にしたことは一度もない」と返すこともあったほどだ。準決勝のあとはこうも言っていた。 

 「あまりにもひどく何かを欲すると、戦うときには邪魔になることがある。今の私は以前よりも穏やかな気分なの」

 しかし、決勝を終え、「22」についに到達したセレナは、どれほど強くこのタイトルを欲していたかを明かした。

「眠れない夜もあったわ。正直に言うとね」

 ようやく安堵した34歳の女王に、もう「24」という次の課題が与えられた。マーガレット・スミス・コート(オーストラリア)が持つ史上最多記録である。  

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)