日本陸上競技連盟(JAAF/ Japan Association of Athletics Federations)は11月13日、市民マラソン大会の統括・支援、および個々人のライフスタイルに合わせたランニングを楽しめる環境・機会の提供を…

 日本陸上競技連盟(JAAF/ Japan Association of Athletics Federations)は11月13日、市民マラソン大会の統括・支援、および個々人のライフスタイルに合わせたランニングを楽しめる環境・機会の提供を目的にした新プロジェクト「JAAF RunLink」の立ち上げを発表しました。具体的には、どんな内容なのか? 都内で行われた発表イベントを取材しました。

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「ビッグデータの活用」「ランニング人口2000万人」

 全国各地で開催されている、市民マラソン大会などの「ロードレース」「ランニングイベント」の数々。その規模は年間2000とも3000とも言われています。そのうち日本陸連が公認している数はわずか200大会ほど。ルールの遵守、安全管理などが徹底している公認大会と比較すると、非公認大会は明らかな違いが生じているようです。そこで「JAAF RunLink」では、ルールや運営解釈、災害時における中止の判断基準の統一を図るなどして、安全で安心な大会運営の環境づくりに取り組んでいく方針です。

 RunLinkチーフオフィサーの早野忠昭さんは「地域文化やおもてなしに溢れた“人の心に残るイベント”を、同じ志を持つ全国の大会と一緒に創り上げていく組織を目指します」と説明します。

▲早野忠昭さんは東京マラソンのレースディレクターなどを務めるランニングやマラソンの専門家

 取り組みの中では「JAAF RunLinkプラットフォーム」の構築にも注力していきます。これは全国の市民ランナーの情報をデータベースに登録する試み。項目は年代、性別、レベルなど多岐に渡る見込みです。こうしたビッグデータの活用により、ランナーは、いま自分が全国で何位にいるのか、正確な実力(ランキング)を把握できるようになります。また主催者としても、事故リスクの軽減、記録照合作業の軽減、といったメリットが得られます。

▲全ランナー情報のデータベースを参照できる、JAAF RunLinkプラットフォームを構築していきます

 発表会にはJAAF RunLinkを後援するスポーツ庁から、鈴木大地長官が登壇。「スポーツ庁では国民の健康を増進するため、気軽にスポーツを楽しめる環境づくりに取り組んでいます。皆さんのスポーツ実施率を高めるために提唱しているのが、日常の中にスポーツを取り入れる『スポーツインライフ』という考え方。ランニングを楽しむ市民ランナーの裾野を広げるJAAF RunLinkの理念にも通じるものがあります」と説明しました。

▲JAAF RunLinkを後援する、スポーツ庁の鈴木大地長官

 JAAF RunLinkのアドバイザーには、脳科学者の茂木健一郎さんと、実業家の堀江貴文さんが就任しました。仕事の合間に、市民ランナーとしてランニングを楽しんでいるという2人。続くトークセッションで発表会場を盛り上げました。

▲アドバイザーに就任した、脳科学者の茂木健一郎さん(左)と実業家の堀江貴文さん(右)

 フルマラソンのほか、トライアスロンにも出場するほどの堀江さん。走るときは、もっぱらトレッドミルだと言い、「私はこれ以上、太らないために走っています。お酒が減らせるなら苦労はしません。人は歳をとり歩けなくなると、急激に身体が衰えてしまうとも言いますね。人間として動ける力をいまのうち養っておきたい」と話していました。

 対照的に、普段から屋外を走っているという茂木さん。「堀江さんは外を走ると、周りに騒がれちゃうからでしょう。僕は一度、外を走っているときに葉加瀬太郎に間違われたことがありますけどね(笑)」。ちなみにこの日も、10kmを走ってから発表会場に訪れたそうです。

▲トークセッションでは、さまざまなアイデアも飛び出しました

 JAAF RunLinkでは「2040年までにランナー人口2000万人を目指す」という目標を掲げています。これを達成する秘策について聞かれた堀江さんは、会社やサークルなどで定期的にランイベントを実施する、というアイデアを提案。「日本のビジネスパーソンは、お上がお題目を用意すれば、けっこうなんでもやってくれるんですよ。みんな真面目だから。『こんな感じのランイベントをやってみて』と提唱してもらえば、企業もイメージが沸くはずです」。それに対して、茂木さんも「やった企業は評価されたりしてね」と同調します。

 茂木さんは、走ることは脳に良いということを広めていきたい、と話します。「走っている間に、人はデフォルトモードネットワークが活性化してストレス解消になり、閃きや発想が生まれるんです。僕は、走っている間に思いついたプロジェクトや研究上のアイデアがいっぱいありますよ。本当は、堀江さんのような忙しいビジネスパーソンにこそ、屋外を走って欲しいんだけどなぁ」。

 両氏は今後とも、市民ランナーの視点からJAAF RunLinkの運営をサポートしていく考えです。

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どうやって魅力を発信する?

 このあと早野さんを含めた3人は、記者団の質問に回答しました。

――現在のランナー人口は?

早野さん:900万人弱と言われています。でも協力してくださる皆さんと一緒に、オールジャパンで取り組めば(2040年までに2000万人という目標は)到達不可能な数字ではないと考えています。

――現状のマラソン大会の課題と、JAAF RunLinkに加盟することの利点は?

早野さん:小さいマラソン大会ほど、保険が高いという課題があります。JAAF RunLinkに加盟した大会は保険が安くなるので、市民ランナーのメリットにもつながります。また、大会の運営側はJAAF RunLinkを通じて情報を共有できるので、ほかの大会で実施されていた良い取り組みを学ぶこともできます。

――市民ランナーには、どのように魅力を発信していきたい?

堀江さん:自分にはできない、と萎縮している人にこそ、走りはじめてほしいと思っています。身体にガタが来る前に走りはじめれば、病気の予防にもなります。そうしたことを伝えたい。あとは、会社以外のつながりができる可能性について広められたら。会社、家族以外に居場所ができます。それが生き甲斐にもなってくるでしょう。

茂木さん:まずランニングは脳に良い、というエビデンスを科学者として伝えていきたいですね。そして、走るのは楽しいんだ、という情報発信をSNSや動画サイトなどのネットワークを通じて行っていく。あとは、走りはじめるきっかけとして身近な人たちの誘いが大事だと感じています。実際、周りにも僕の影響を受けて走りはじめた友人たちがいる。そこで、走る楽しさに目覚めた人たちが周りを誘っていく仕掛けを考えていきたいと思っています。

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 JAAF RunLinkの構想は、ロンドンのランブリテン(runbritain)、チェコのランチェック(RunCzech)といった海外のランイベントも参考にした、と早野さん。その上で「データベースの構築など、ある意味、世界に先駆けた取り組みになっています」と説明し、今後の展開にも自信を見せていました。

・JAAF RunLink 公式サイト
https://www.jaaf-runlink.jp/

<Text & Photo:近藤謙太郎>