今季の南米王者の座を争うコパ・リベルタドーレス(リベルタドーレス杯)決勝で、史上初の「スーペルクラシコ」が実現することになってから、世界中のメディアやフットボールファンがブエノスアイレスの両クラブについて大いに語ってきた。ボカ・ジュニ…
今季の南米王者の座を争うコパ・リベルタドーレス(リベルタドーレス杯)決勝で、史上初の「スーペルクラシコ」が実現することになってから、世界中のメディアやフットボールファンがブエノスアイレスの両クラブについて大いに語ってきた。ボカ・ジュニオルスとリーベル・プレート。言わずと知れた、アルゼンチンの二大名門クラブだ。
アルゼンチンの2強が南米サッカークラブ王者を決めるコパ・リベルタドーレス決勝で激突
photo by Getty Images
アルゼンチンにおいて、フットボールはスポーツの域を超えている。人々が燃やすパッションは熱すぎて、循環器を専門とする医師たちはこの決戦を前に、ファンに向けて心臓発作のリスクへの警鐘を鳴らしたほどだ。また現大統領のマウリシオ・マクリ(1995年から2007年の間にボカの会長を務めた)はここ数日、公の場でもスーペルクラシコのコパ決勝について発言し続けてきた。
準決勝第2戦でベンチ入りを禁止されていたにも関わらず、ハーフタイムに更衣室で選手たちに指示を与えたリーベルのマルセロ・ガジャルド監督についても言及。敗れたグレミオ(ブラジル)が南米サッカー連盟に抗議しながらも、リーベルの決勝進出が認められたことについて、「(ガジャルド監督は)ラッキーだったね。でも決勝は我々ボカのものだ」と一国の大統領が片方のチームに完全に肩入れしている。日本の皆さんには理解できないものかもしれないけれど。
迎えた第1戦(現地時間11月10日に予定されていたが、豪雨のために翌日に順延)、ボカの本拠地ボンボネーラは文字どおり、立錐の余地もない状態。あまりにも危険だからと、アウェーファンの入場は認められず、ボカの完全なるホームとなった。
その形状からボンボネーラ(チョコレート箱)と呼ばれるスタジアムはしばしば、世界でもっとも雰囲気のあるスタジアムと評される(ボンボネーラでのスーペルクラシコの観戦経験を持つ本稿の翻訳者も同意)。青と黄色をまとった大勢のファンが歌い、飛び、足を踏み鳴らす。タンゴ発祥地の人々が歌う応援歌はどことなく切ないメロディを奏で、生まれるビートはスタンドだけでなく、ピッチさえも揺るがす。そんなスタジアムだ。
今大会の勝ち上がり方について言えば、ベスト8以降、ブラジルの強豪クルゼイロとパルメイラスに一度も敗れずに決勝に到達したボカが優勢と言える。ただし、今年の3度の直接対決はすべてリーベルが2-0で制しており、心理面ではアウェーチームが上に立っていたかもしれない。
ところが、ベンチ入りを禁止されていたリーベルのガジャルド監督は5バックを選択。レアル・マドリード行きが噂される20歳のエセキエル・パラシオスとロシアW杯にも出場したエンソ・ペレスが中盤の底を任され、ベテランFWルーカス・プラットも下がり目の位置取りに。戦術家として評価を高めている元代表MFは、今季ほとんど使っていないシステムを用いて、失点しないことを優先したかに見えた。
だが、その思惑は前半に崩れる。意外にも主導権を握りながら、2度の決定機をボカの若きGKアグスティン・ロッシのファインセーブに阻まれると、34分に先制を許す。ボカのラモン・アビラが一度はGKに阻まれながらも、二度目のシュートを沈めると、ボンボネーラは割れんばかりの狂騒に包まれる。アビラはベンチへ駆け出し、先発を外れたカルロス・テベスと力のかぎりに抱き合った。
ボカのサポーターで満員になったボンボネーラ photo by Getty Images
再開直後に、リーベルも同点に追いつく。ゴンサロ・マルティネスがセンターサークルから放ったスルーパスにプラットが抜け出し、ボックスの右から右足でネットを揺らした。意地とプライドのぶつかり合うスーペルクラシコならではの展開と言えよう。
前半ロスタイムには、ホームであるボカのサポーターの熱狂が再び弾ける。中央の遠目の位置からセバスティアン・ビジャが精確なFKを入れると、ボックス内でダリオ・ベネデットが頭で絶妙なフリック。ベテランGKフランコ・アルマーニが伸ばした両手も届かなかった。
後半16分には、今度はアウェーのリーベルが似たような遠目のFKから同点に追いつく。しかし、ルーカス・マルティネスのフィードを頭で決めたのは、ボカのDFカルロス・イスキエルドだった。とはいえ、プラットのマークに付いていた30歳のCBのオウンゴールは、責められないものだった。
ホームで勝利を目指すボカはその12分後、ついに34歳のテベスを投入。スタジアムの歓声のボリュームはさらに大きくなり、ピッチ上では背番号23をまとった生けるレジェンドが持ち前の創造性を発揮する。90分にはバックヒールのワンツーで抜け出し、ドリブルでボックス内まで運んで右にパス。フリーのベネデットは決めねばならない絶好機を迎えたものの、リーベルの守護神アルマーニにセーブされてしまった。結局、ボンボネーラでの熱戦は2-2で終了した。
ボカの下部組織で育ち、3度目の在籍で2度目の南米王者になるチャンスを迎えたテベスは、マンチェスター・ユナイテッド時代にチャンピオンズリーグも制している。だが今年1月に中国から帰還してからは、衰えが顕著に表れており、今大会のベスト16から先発の機会は一度もなく、ここ3試合はベンチを温めていた。
それでもやはり、千両役者は大舞台で違いをつくれることを証明した。ホームで勝利を逃して沈みかけたチームメイトたちに「顔を上げろ!」と発破をかけ、最多タイとなる7度目の栄冠を愛するクラブにもたらそうとしている(最多は7度のインデペンディエンテ)。
ちなみにこの日の主要スタッツ(ボカ対リーベル)は、シュート数13対12、枠内シュート数4対5、ポゼッション率53%対47%、ファウル数13対13。拮抗した南米最大のライバル同士の第2戦は、現地時間11月24日に行なわれ、リーベルの本拠地モニュメンタルで決着を見る。