延長後半4分50秒。筑波大のオフェンスをしのぐとワセダサイドの応援席からカウントダウンが始まる。0になった途端、ベンチの選手たちが両手を挙げて飛び出し、コートの選手に抱きついた。電光のボードに映し出されたスコアは33-31。死力を尽くした…

 延長後半4分50秒。筑波大のオフェンスをしのぐとワセダサイドの応援席からカウントダウンが始まる。0になった途端、ベンチの選手たちが両手を挙げて飛び出し、コートの選手に抱きついた。電光のボードに映し出されたスコアは33-31。死力を尽くした大激戦を、ワセダがものにした瞬間だった。

 勝てばベスト4が決まる筑波大との全日本学生選手権(インカレ)3回戦。試合の立ち上がりだけ見れば、関東学生秋季リーグ(秋季リーグ)で大敗したときと似たような内容であった。敵陣が個々のフィジカルで突破し得点を積み重ねるのに対し、ワセダはなかなかセットオフェンスが決まらない。これにより逆速攻からもゴールを許し、最大7点差まで広げられた。しかし、同じことを繰り返すわけにはいかない。押し込んでくるオフェンスに耐え、少ない隙をゴールにつなげることに徹した。前半終了間際には、伊舎堂博武(社4=沖縄・興南)のカットイン、山﨑純平(社4=岩手・不来方)のミドルでビハインドは5点に。スコア10-15で30分を終えた。

 後半が始まるとワセダはディフェンスシステムを変更する。お馴染みの一線ディフェンスから、福田友貴(スポ1=神奈川・法政二)をトップに置く1-5ディフェンスを採用。「全体的に鋭い出足を取り戻し、よく機能しました」と荒木進監督(平5人卒=熊本市立商)が振り返るように、前半からよく我慢していたディフェンスがさらに堅さを増した。後半4分には、筑波大の徳田廉乃介(2年)が2分退場を受けると、シュート態勢の伊舎堂をつかみ倒した同筑波大の髙野颯太(2年)がレッドカード。相手CPが4人、5人の間に、倒された伊舎堂が気迫の連続得点を挙げた。8分にはセンターに入った青沼健太(社1=千葉・昭和学院)がミドルレンジからインカレ初ゴールを決め3点差。流れは徐々にこちらに傾いていた。


要所での伊舎堂のゴールがチームを救った

 それでも秋季リーグ優勝チームは簡単ではない。早めに詰め寄るべく、小畠夕輝(スポ4=岡山・総社)がミドルによる猛攻を浴びせたが、相手もカットインやポストプレーで得点した。しかし、3点差で迎えた後半27分。ここでも小畠がミドルを決め試合開始以来の2点差に。すると残り90秒から三輪が速攻で1点差まで持ち込んだ。そして、決められたら終わりの相手セットオフェンスを何度も退け迎えた残り30秒、三輪が再び速攻で抜け出す。フリーから放たれたボールがネットを揺らし、ついに同点に追いついた。土壇場で試合を振り出しに戻したワセダの驚異的な底力に、総立ちの応援席。興奮冷めやらぬ雰囲気のまま延長戦へと突入した。


後半だけで8得点の小畠

 「楽しもう楽しもう。」(山﨑)――。戦術面を練り直すことはもう不要だった。今シーズン最高の円陣で自分たちを鼓舞し臨んだ延長前半。乗りに乗った勢いそのままに勝ち越したのはワセダだった。2分に高橋拓也(人4=群馬・富岡)が7メートルスローを獲得すると、これを伊舎堂が『魅せる』回転シュートで決める。4分には三輪の速攻が決まり2-0に。完全にワセダペースだった。延長後半も小畠のカットインで3点目。直後に7メートルスローを与えてしまうが、ここでGK永田奈音(スポ4=宮崎・小林秀峰)がスーパーセーブで防いだ。狂喜乱舞の選手、スタッフ、応援席。最後は宮國義志(社3=沖縄・興南)が33点目を決めると、2失点で切り抜け試合終了。70分の大熱戦に終止符を打つとともに紺碧の空が会場に鳴り響いた。


長かった戦いを大逆転勝利で収め歓喜の輪ができる

 「ハンドボール人生で一番くらいにうれしかった」(三輪)。見事に秋季リーグ最終節のリベンジを果たしたが、ただのリベンジではなかったことがわかる。ワセダがワセダである理由が、随所に詰め込まれていたゲームだ。大声援を背にプレーする選手たちが、全員で勝つことを体現してくれたといえよう。ワセダはこれで関東勢唯一のベスト4。明日の準決勝は、3回戦を同じく逆転勝利した大体大だ。今日の最高の流れを持ち込むと同時に、もう一度目の前の一戦に集中したい。そうすれば決勝への扉はワセダの前で開くはずだ。優勝候補を撃破した彼らにもう怖いものはない。近づいてきた日本一へ、ワセダのハンドボールを貫徹する。

(記事 小松純也 写真 宅森咲子)

全日本学生選手権
早大3310-15
19-14
2-0
2-2
31筑波大
GK 羽諸大雅(スポ3=千葉・市川)
LW 三輪颯馬(スポ4=愛知)
LB 小畠夕輝(スポ4=岡山・総社)
PV 高橋拓也(人4=群馬・富岡)
CB 山﨑純平(社4=岩手・不来方)
RB 伊舎堂博武(社4=沖縄・興南)
RW 清原秀介(商3=東京・早実)
コメント

荒木進監督(平5人卒=熊本市立商)

――今日の大きな勝利へコメントをお願いします

本当にもう、選手も成長してきているし、全員がチームのためにということで戦っていて良かったと思います。それと父兄、OBの方々、関係者の方々すべての方に応援していただいて、本当にありがたいという一言に尽きますね。

――後半は1-5ディフェンスでトップに福田友貴(スポ1=神奈川・法政二)選手を起用しました

最初思った以上に押し込まれ、ディフェンスの出足が鈍かったということがありました。福田を入れることによって全体的に鋭い出足を取り戻し、よく機能しました。そこからまた0-6に戻したのですがそれはもう選手たちの判断で、すごく良かったと思います。

――延長戦に入ったときの円陣には監督も入られていましたがどのようなことを話されましたか

もう戦術的なことではなく気持ちの問題で。「乗っていこう」というハートの部分が大きかったですね。

――最後に明日に向けて一言お願いします

明日は明日で、今日これから帰ってミーティングして、また選手一丸となって、そして応援してくれる方々のために頑張りたいと思います。

山﨑純平(社4=岩手・不来方)

――まず今日勝利へ一言お願いします

素直にもう、最高です。

――序盤の劣勢ではどういったことを意識してプレーしていましたか。

立ち上がりに秋リーグのようなスタートを切ってしまったんですけど、自分たちはオフェンスで攻められなくてもディフェンスで守って速攻というスタイルを貫きました。ディフェンスでもどこまで持っていってどこで勝負するかという、やろうと決めていたことをやるだけだったので、焦るということはありませんでした。自分たちのペースになるまで一つずつ粘って粘って、という感じでしたね。

――ディフェンスシステム変更の判断はどういったものだったのでしょうか

キーパーの羽諸(大雅、スポ3=千葉・市川)が一線ディフェンスではやりにくそうだったし、相手も一線ディフェンスに慣れてきていたので、一つ何かディフェンスで変化をつけようということでした。試合の中でそういった判断を羽諸に任せていてやっていました。

――延長戦の戦いぶりは振り返っていかがでしたか

なんて言うんですかね(笑)。一番は集中できていたことです。応援も最高だったので自分たちで鼓舞してとにかくまず「楽しもう」と言っていました。延長に入る前の後半の最後も「楽しもう楽しもう」と言っていて、延長に入っても「楽しもう楽しもう」と言っていたので、楽しんでできました。

――今日も大応援が力になりましたか

そうですね。すごく力になるし、もちろん僕らもテンション上がります。やっぱりチーム一つで戦っている感じが試合を重ねる度にあるので、すごく力になっています。

――最後に明日に向けて一言お願いします

今日の勝利は最高だったんですけどまだ通過点なので、自分たちの日本一という目標のために、まずは明日の準決勝の大体大戦に全力で臨みたいと思います。

伊舎堂博武(社4=沖縄・興南)

――今の心境はいかがですか

一番の山であった筑波大戦を勝てて素直にうれしいです。

――試合は振り返っていかがですか

秋の結果から見て自分たちが追う側で相手が追われる側で。立ち上がりは追う側ということでキツい場面があったんですけど、最後の最後までコートに立ってる全員が自分の役割を果たそうと一生懸命やっていたので、良かったかなと思います。

――伊舎堂選手自身の得点もたくさん見られました

普段はあまりああいうプレーはしないので、周りからは「ちゃんと普段からやれ」と言われるんですけど。まあ、ちゃんとやります(笑)。

――明日に向けて一言お願いします

ワセダもそうですけど、あっち(大体大)も関東の上位チームを倒して流れに乗っているチームなのでそこで気持ちの面で負けないように。大体大は地元開催というか、大阪の大学ということでそれなりに気合も入っていると思うので、それに屈しないように今日はしっかりケアをして明日に臨みたいと思います。

三輪颯馬(スポ4=愛知)

――今の心境をお聞かせください

ハンドボール人生で一番ぐらいにうれしかったです。

――試合を振り返っていかがですか

最初は秋リーグ(関東学生秋季リーグ)と同じような展開でズルズルいってしまって負けがよぎったんですけど、全員、誰一人諦めることなく最後まで戦って延長に持ち込むことができて。そこからはワセダのペースだったので、本当に良いかたちで試合ができたかなと思います。

――リーグ戦のリベンジを果たした形になりました

そうですね。トーナメントが出てからここが一番の山だと思っていたので、本当に勝てて良かったです。

――応援の雰囲気なども良かったですね

点差が離れて僕らが沈みかけていた時に、試合に出ていないのにチームのためにあれだけ応援してくれたので、やっぱりそれに応えないとなという気持ちがあったので、本当にチームで勝ち取った勝利だと思います。

――三輪選手は重要な場面でシュートを決められました

緊張とかそういうものはなくて、本当に無の状態で、とにかくこの一本一本で点を取ろうという気持ちでやっていました。それが最後同点ゴールという形にできたのは本当に自分でもうれしかったですし。でもそれは本当に僕だけじゃなくて、チームがつないできてくれてのシュートだったので、本当に良かったです(笑)。

――明日に向けて一言お願いします

ここで勝って盛り上がっているんですけど、僕らの掲げた目標というのは日本一なので、もう一度切り替えて。次負けたら今まで戦ってきたチームに申し訳ないですし、明日も全力で今日のように勝ちにいきたいと思います。

小畠夕輝(スポ4=岡山・総社)

――今の心境はいかがですか

めっちゃうれしいです。

――試合展開は振り返っていかがですか

前半は最初の方5点差ぐらい離されてしまって。立ち上がりでバーンと離されたのは秋リーグ(関東学生秋季リーグ)と同じような展開だったので、すごく嫌な流れだったんですけど、そこでなんとか粘ってここまでつなげられたのは良かったし、成長できた部分なのかなと思います。

――小畠選手自身は勝負所での得点がたくさん見られました

結構ゾーンに入っていて。ジャンプ力もいつもより上がっていて、すごいやっていて気持ちよかったし、楽しかったです。

――リーグ戦のリベンジを果たしました

リベンジもそうなんですけど、インカレ(全日本学生選手権)の一発勝負で勝てたというのがすごくうれしいです。3年前もちょうど同じ感じで、秋リーグに筑波大にボロ負けして、インカレ準決勝でまた当たって延長までいって勝ったということがあったので、すごく感じるものがありました。

――明日に向けて一言お願いします

体はボロボロなんですけど、明日もこの体にムチ打って頑張りたいと思います。

青沼健太(社1=千葉・昭和学院)

――今日の勝利に一言お願いします

いや、もう、先輩たちすごすぎです。

――途中出場でしたが、どういった意識で試合に入りましたか

1、2回戦ベンチに入っていなかったので、気持ちを切らさずというか、試合にしっかり入れるように前の日とかは準備していました。試合中は進(荒木監督、平5人卒=熊本市立商)さんや三津(英士コーチ、平8人卒=福岡・久留米工大付)に「いつでもいくから準備しておけ」と言われて。ハーフタイムのときには「いくぞ」と言われて心の準備はできていたので、緊張はせず良い結果につながったのかなと思います。

――初得点も挙げられました

そうですね。秋リーグで少し迷惑かけている部分が多くて、今日も同じような展開で出場したんですけど、そういった中で点を取れたのは自信にもなりますし、お世話になっている先輩方に恩返しができたのかなと思います。

――延長戦のチームの戦いぶりは振り返っていかがですか

個人名になってしまうんですけど、颯馬(三輪、スポ4=愛知)さんが走ってくれたり、四十宮(実成、政経4=徳島市立)さんが素晴らしいディフェンスを見せてくれたりしました。やっぱり延長はきついはずなのに、流れのままみんなで一体となって戦えたのが良い結果につながったのかなと思います。

――最後に明日へ向けて一言お願いします

明日も出るとしたら途中出場になるのでまずは気持ちをつくって、自分のやりたことをできるように自分を整えていけたらいいなと思います。