昨年のドラフトでソフトバンクは1位で鶴岡東高校の吉住晴斗を指名した。この時点で2位は間違いなさそうな社会人投手あた…

 昨年のドラフトでソフトバンクは1位で鶴岡東高校の吉住晴斗を指名した。この時点で2位は間違いなさそうな社会人投手あたりを狙ってくるのだろうと思っていたら、「上位」という前評判などほとんどなかった”異色のアンダーハンド”を敢然と指名してきたから驚いた。

 正直、2位でなくても獲れるだろう……と。たしかに、手足の長いアンダーハンド投手はそれだけで貴重だ。打ちにくさなら、間違いなくアマチュア屈指の好投手だ。



日米野球の第1戦で好投した代表初選出の高橋礼

 専修大学1年の時、東都大学のリーグ戦に現れた高橋の姿は、ある意味、鮮烈な衝撃を伴っていた。

「こんな美しいフォームで投げる長身のアンダーハンドって、今まで見たことあったかな……」

 ただでさえ、アンダーハンドの投手が減ってきている野球界である。その上、これだけ長い手足をしなやかに潜らせてから浮上できるアンダーハンドなんて……。長いプロ野球の歴史を遡ってもそういるわけではない。

 高橋は地面から這い上がってくるようなストレートとカーブ、シンカーを駆使して1年生の秋からリーグ戦に登板。2年秋までに8勝をマークした。その後、フォームを崩して4年春まで混迷の日々を過ごしたが、最後の秋のリーグ戦で見事復活。5勝を挙げて、ソフトバンクからドラフト2位指名でプロに進んだ。

「あれだけの大型のアンダーハンド投手なのに、コントロールがよくてびっくりしたんです」

 そう語るのは、専修大で高橋とバッテリーを組んでいた2年先輩の時本亮(現・東芝)だ。

「とにかくストレートがすばらしかった。高めはホップしてくるように見えるし、右バッターのひざ元にも投げられるコントロールがあったので、配球も”高低”で攻めていました。スライダーも左バッターの高めに使ったりして。変化球で両サイドに揺さぶる必要なんてなかったですね」

 野球にいたっては真剣。いつもフラットに、淡々と投げる姿が頼もしかったという。

「礼は身長があるので細く見えますけど、ウエイトも熱心にやっていましたし、下半身なんてすごくボリュームがある。あの下半身を見れば、コントロールのよさも理解できます」

 当時、西武のリリーフエースだった牧田和久の、胸が地面をこすれそうな投球フォームをお手本にしていた。

「初めてバッテリーを組んだ時から『コイツ、プロに行くんじゃないか』って。真っすぐの伸びとかキレもそうなんですけど、それ以上にマウンド度胸が違っていましたから。とにかくキモが据わっている。1年の時から、マウンドでの姿に風格がありました」

 1、2年の頃はほとんど打たれなかったのが、3年生になるとかなり打たれて、本人も相当悩んだらしい。

「僕が言うのも変ですけど、僕が卒業してキャッチャーが代わって、下級生とバッテリーを組むようになってから『どうしよう……』という時期があったようです。あとは相手チームから徹底的に研究されたはずです。あの頃の東都は『高橋を打たないと優勝できない』というムードがありましたから」

“捕手依存”から脱却するため、時本は「お前が新しいキャッチャーを育てるしかないだろう!」という表現で高橋を叱責したという。

「スピードを欲しがって、フォームのバランスを崩した時期もあったそうなんですが、監督から『ピッチャーはスピードじゃないんだ!』と言われて、キャッチャーのサインに首を振りながら、自分で組み立てて投げるようになった。それが4年生の秋です。そこで変われたと思います」

 プロ1年目の今季、シーズン終盤から一軍のマウンドに上がるようになった高橋の姿を、かつての”女房役”である時本は何度も映像で見た。

「カーブの変化が変わってきたと思います。大学の頃は横に曲がるだけでしたけど、今の礼のカーブは、一度ホップしてから曲がる感じで、ブレーキが効いているっていうのかな……あれで空振りを取れますから。カーブがすごくよくなったことで、130キロ台中盤のストレートでもバッターを差し込める。すいぶん変わりましたよね」

 高橋が専修大のエースとして奮闘していた頃、何度も対戦したライバルたちのある一人は”打者”という立場でこんな話をしてくれた。

「何がよかったって、絶対にストレートですよ。ああいうのを”本格派アンダーハンド”って言うんじゃないですかね。とにかく、ストレートが難しかった。ストレート勝負ができるアンダーハンド投手でしたから」

 高橋のストレートは、いったいどこが難しいのか。

「見送ると上体を起こされる。いや、体全体が浮き上がってしまうような感覚ですね。打っても全部ファウル。130キロ台前半なのに、詰まってばかりでした。ウチのチームは『高橋の高めのストレートは捨てる』が約束事になっていました」

 そしてこう続ける。

「伸びるストレートもあれば、伸びてこないストレートもある。また、カットボール回転で伸びてくるボールもあって……気持ち悪いピッチャーなんですよ。今の高橋を見ていても、キャッチャーはあまり動いていないですよね。コースを突かなくても、ストライクゾーンで打ち取れるんじゃないですか。おそらくプロのバッターも、高橋のボールの気持ち悪さを感じているはずですよ(笑)」

 最後にニヤッと笑いながら放ったひと言が、高橋のミステリアスな”正体”を言い表しているような気がした。

 今シーズンはプロ初勝利こそ飾れなかったが、ペナントレース終盤、クライマックスシリーズ、日本シリーズとしびれる場面で登板。2年目以降の飛躍を十分に予感させる奮投を見せ、日米野球にも侍ジャパンのメンバーとして招集された。

 その日米野球の第1戦で7回から4番手として2イニングに登板。1安打2四死球ながら3三振を奪う好投を見せ、MLB打線を無失点に抑えた。

 高橋と対戦した若手有望株のフアン・ソトは「これまでアンダーハンドのピッチャーと何人か対戦したことがあるが、高橋はまた違うタイプ。シンカーがすごくよかった」と絶賛。

 メジャーのスカウトも「スピードはないが、球速以上に強さを感じる。タイミングを取るのが難しく、簡単に攻略できる投手ではない」と高く評価していた。

 メジャースカウトもうならせた高橋の勢いは、まだまだ加速していきそうだ。