「面白い試合だったんじゃないですかね」 そう語る乾貴士の顔には、思っていたとおり、笑顔はなかった。 リーガ・エスパニョーラ第12節。カンプノウでベティスがバルセロナ相手に3-4で勝利を飾った後、ミックスゾーンで取材に応対した乾の表情は厳…

「面白い試合だったんじゃないですかね」

 そう語る乾貴士の顔には、思っていたとおり、笑顔はなかった。

 リーガ・エスパニョーラ第12節。カンプノウでベティスがバルセロナ相手に3-4で勝利を飾った後、ミックスゾーンで取材に応対した乾の表情は厳しいものだった。

 乾にとってはバルセロナからの初めての勝利である。エイバル時代の2年前の対決では、自身の2得点によってあと一歩のところまで追い詰めたが、勝利の二文字が手元からこぼれ落ちる悔しい経験をした。そのときはバルセロナの強さ、とくにリオネル・メッシの異次元といっても過言ではない高い能力に、乾は素直に脱帽していた。

「カンプノウで4点を決めて勝利したことは記憶に残るもの。宝となる結果だ」と、キケ・セティエン監督が喜んだように、多くのベティスサポーターにとっては誇りとなる勝利だった。だが、ここ最近、試合出場の時間が少なくなっている乾が素直に勝利を喜ぶには、自身の結果という要素が欠けていた。



3-4で勝利したバルセロナ戦に、86分から出場した乾貴士(ベティス)

 この試合の86分、乾はジオバニ・ロ・チェルソに代わってピッチに入った。第9節のバジャドリード戦以来となる4試合ぶりの出場だったが、出場時間はアディショナルタイムの4分を含めても10分たらず。さすがにこれでは監督、そして自身を満足させるパフォーマンスを見せることは難しかった。

 しかも自分の”色”を残したいという、焦りにも似た気持ちがあるときは、いいパフォーマンスをすることは難しい。

 乾が出場した時点でベティスは2-4とリードしていたため、チームメイトは試合終了の笛が鳴るのを待ち望んでゆっくりと時間を潰すプレーをしていたが、乾は攻撃的なポジションの選手として、ゴールを目指して攻める気持ちを捨て切れずにいた。

「ボールを失うなとは言われたけど、攻めたい気持ちが出ちゃって、ああやってボールを失ってしまった。そこはチームに迷惑をかけちゃったなという感じだけど、勝てたのでよかったと思う。そこはしっかり反省しないといけない」

 乾がそう振り返るのは、アディショナルタイムの、バルセロナの3点目につながったパスミスのシーンだ。左サイドから右サイドへつなげようとしたパスを相手DFに奪われ、最後はこの試合でケガから復帰したメッシの、この日2点目のゴールにつながった。

「ボールに3回ぐらいしか触っていない。その中で1、2回ボールを失って、そのうちの1回が失点につながっている。やりたいことはまったくできていない。短い時間の中でやる(結果につながるプレーをする)ことは難しいことだと思うけど、チャンスはそこでしかないと思っているので、短い時間でもしっかりやらないといけない」

 最近、セティエンのチームのヒエラルキーは落ち着いてきた感がある。この試合でもゴールを決めたロ・チェルソとセルヒオ・カナレス、それにウィリアム・カルバーリョといった選手が監督の信頼を得ており、最近の起用方法を見ても、残念ながらこのグループに乾は入っていない。

「タカシはまだ我々が期待しているレベルではない」

 ヨーロッパリーグのミラン戦を前にした会見で、セティエンは乾をこう評している。ただ、このコメントには、今後、自分たちの望むレベルでのパフォーマンスを見せてくれるはずだという期待も入っていると考えるのは贔屓目だろうか。

 クラブが歴史的勝利を飾った試合の後に見せた乾の表情は、沈痛そのものだった。だが、その気持ちは日々戦い続ける闘士としては当然のものだ。ベニト・ビジャマリンで行なわれるリーグ戦後半のバルセロナ戦では、ピッチに立って笑顔を見せる乾がいることを期待したい。