グランプリ(GP)シリーズ第4戦・NHK杯で、日本の新星が鮮烈なシニアデビューを飾った。トリプルアクセルを武器とする紀平梨花だ。 9日のショートプログラム(SP)ではトリプルアクセルが不発で5位発進だったが、10日のフリーではトリプル…

 グランプリ(GP)シリーズ第4戦・NHK杯で、日本の新星が鮮烈なシニアデビューを飾った。トリプルアクセルを武器とする紀平梨花だ。

 9日のショートプログラム(SP)ではトリプルアクセルが不発で5位発進だったが、10日のフリーではトリプルアクセルを予定した2本とも成功させて154.72点の高得点をマーク。合計224.31点を叩き出し、SPでの首位との6.58点差を逆転しての優勝を飾った。GPデビュー戦制覇は、日本勢初の快挙だ。



NHK杯フリーで、SP5位から逆転優勝を飾った紀平梨花

 試合後のメダリスト会見で、偉業を成し遂げた16歳は、少し神妙な面持ちでこう語った。

「いま、終わったばかりで、まだ全然、実感が湧いていなくて……。ショートの時点では巻き返せるかわからないくらいの不安もあったし、(それでも)ショートのミスがフリーへの集中力とかやる気にも変わっていました。まさか、こんなにもいい点数が出ると思っていなかったので、すごくいい経験ができました。これからも、あとどこを直せば点数が伸びるのか研究し直して、もっと上を目指せるように、この結果に満足せずに、明日、明後日からも(しっかりと)気持ちを持っていきたいです」

 紀平は、どんな試合でも、どんな状況でも必ずトリプルアクセルを跳ぶと公言してきた。だが、トリプルアクセルが代名詞だった浅田真央でさえも、女子にとっては高難度のジャンプであるこの大技を、試合で安定的に成功させることは極めて難しかった。紀平にとっても、ハイリスク・ハイリターンの武器と言えるだろう。

 そのトリプルアクセルを、今大会ではSPで1本、フリーで2本の計3本挑戦した。SPではここ最近では珍しく尻もちをつく転倒を見せて、69.59点と、目標の70点超えはならなかった。SP後の紀平は次のように語っている。

「練習では確率がよかったトリプルアクセルでしたが、少しゆがんでいたイメージが出ていて気になっていて、それがそのまま本番で出てしまった。それでも、トリプルアクセル以外はしっかり思うような演技ができたのでよかったです。グランプリシリーズでいいスタートを切りたいという思いでいっぱいだったので、トリプルアクセルで失敗して悔しいです。

 フリーでは朝練からトリプルアクセルの確認をしっかりして、不安のないような状態で本番に臨んでしっかり自己ベストを出せるように頑張ります」

 その言葉どおり、フリーでは、踏み切りのタイミングが早かったというトリプルアクセルを見事に立て直した。冒頭のトリプルアクセルには、3回転トーループをつけて連続ジャンプにしてみせる余裕があり、続けて跳んだ単発のトリプルアクセルも、スピードに乗った、切れ味の鋭い申し分ないジャンプだった。最初の連続ジャンプでは出来栄え点(GOE)で2.63点の加点をもらい、2本目のトリプルアクセルでは3.09点のGOE加点がついた。

 大技2本を成功させて勢いづいた紀平は、持ち味の基本に忠実な美しい滑りを披露し、その後のジャンプもステップもスピンも隙のない演技で観客を魅了。すべてのエレメンツでプラス評価を得た。技術点ではトップの87.17点をマークし、2位の宮原知子に15.28点もの大差をつけたことが勝負を分けた要因だ。

「昨日(SP)の時点ではトリプルアクセルで不安があったので、今日(10日のフリー)の朝の練習で何度も何度もしっかり確認したことが実行できたことがうれしいし、最後の最後まで集中力を欠かさずにできたことが本当にうれしいです。

 トリプルアクセルのタイミングが悪かったので、何回も何回も動画で確認して、夜もイメージしながら寝ました。こんなに最後まで集中できたのは初めてだった。今日の演技は98点!」

 16歳らしい言い方で喜びを表現するが、フィギュアスケートの、とくにトリプルアクセルに関する研究や分析は大人顔負けだ。コーチの意見やアドバイスを参考にしながらも、最後は自分が感じたことや考えたことをきちんと融合させて答えを導くという。

 フリーと合計で今季世界2位のハイスコアを出したことで、これまで女子フィギュアを席巻してきたロシア勢とトップ争いができる選手として、一気にその名を知らしめたといっても過言ではない。

「演技が終わった時もそんなに(得点が)出るとは思っていなくて、結構ステップもスピンもいい点数が出ていて、ほぼ最高の演技ができたので、まだ信じられない感じなんですけど、あんなにも心からうれしい気持ちになったのは初めてでした。ガッツポーズをせずにはいられなくて、自然に出た感じです。今日は濱田(美栄)コーチからは、『闘争心を燃やしたほうがいい』と言われ、いままでにないくらい集中したので、あまり笑顔が少なかったかなと思います(笑)。

 今大会は本当にいろいろな経験をさせてもらい、自分の中で一生に残る演技ができたので、これからも必ずいい演技を続けられるように、満足しないで練習に取り組んでいきたいです」

 次戦はGP最終戦のフランス大会。前世界女王のエフゲニア・メドベデワ(ロシア)や演技派のカロリーナ・コストナー(イタリア)、三原舞依、本田真凜らが顔をそろえる。憧れの浅田真央が2005年に成し遂げた、シニアデビューシーズンでのいきなりのファイナル出場も夢物語ではなくなった。連続で表彰台に乗れば、ファイナル行きの切符獲得も可能性は高い。

「GPファイナルは狙ってもいなかったくらいなので、いま(NHK杯で)1位になれたので、いまからはチャンスができたと思って、狙ってはいきたいと思います。どんな相手が来ても、トリプルアクセルを跳んで自分の完璧な演技ができたら勝負ができると思います」

 立ちはだかるロシア勢に対抗できるだけの力を垣間見せた、逸材の今後の活躍に期待が膨らむ。